私の好きな人は手が届かないところにいる人だ。
彼は…シュテルンビルトというこの街を守っているヒーロー、ワイルドタイガー。私はただのアポロンメディアに勤める一般市民。

何度か会社内ですれ違っただけで私は恋に堕ちてしまった。
本名も知らない。ただ、同じ会社なだけ。
それだけだった。



「あ、」
アポロンメディア内に入るときには社員証がいる。
その社員証を落としてしまった。
拾おうと手を伸ばしたが、私の手より先に別の手がその社員証を拾った。
「どうぞ」
「あ…ありがとうございます」
ワイルドタイガーだった。
「…………!!?」
「え?ああ…、はは」
驚く私に彼は少しだけ笑い、
「すいません吃驚させちゃいましたね」
「い、いえ…そんなことは」
「あ、やべ。バーナビーに怒られる!」
彼は腕時計を確認し、焦った。
「じゃ、社員証無くさないように気をつけてくださいね、名子さん!」
「え、あ…、はい」
彼は軽く手を振り、走り去っていった。
………初めて話しちゃった。
名子さん!って…あれ?なんで私の名前…。
手に持っている社員証を見る。
あぁ、これで私の名前…。


今日は良い1日になりそうだ。




「うぅ…飲みすぎた。」
ワイルドタイガーと初めて会話をした朝から約12時間が経った。
私はアポロンメディアではなく、ブロンズステージの住宅街を歩いていた。
どうしてこんな遅くなってしまったのか。

『名子ちゃん帰り…暇?』
仕事が終わり、デスクで帰りの支度をしていると男の先輩に声をかけられた。
先輩が晩御飯を奢ってくれると言ってくれたので、先輩だし…断るのもな…ということで付き合ったのだ。
そして飲んだ。飲みすぎてしまった。

「ううう゛うう……」
吐きそう。
壁に手をつき、少し俯いた。






「誰だあの男?」



俯いているせいか、影しか見えない。

あの男?どういう意味?

「おいおい、吐きそうになってるじゃねえか」
「…………、」
吐くのをこらえてるせいか、声が出ない。
「あの野郎…いきなり名子を連れて行ったと思ったら…けしからん奴だ」
私のこと…知ってる?
「名子?大丈夫か?」
その人物はゆっくり近づいてきて私を抱きしめた。
…………………え?
「よしよし、もう大丈夫だ。このヒーローの俺が介抱してやるから」
「……………う゛……、」

「名子、」


そこから私の記憶は途切れた。








「………ん、」
目を開ける。
真っ白なシーツが目に映る。
どこだ…此処は。
「どこ……………、」

「お、やっと起きたか」
顔をあげると一人の男が私を見ていた。
どこかで会った気が…。
「よぅ、名子」
「なんで私の名前…。あなた…誰?」
「え?あぁ、今朝は顔隠してたからな…………んーと、



俺はワイルドタイガーだ」


え?

一瞬思考回路がショートする。
今朝…今朝、社員証を…。

「ああ!え…あなたがワイルドタイガーなんですか?」
「ああ。今朝…社員証落としただろ?」
「はい…ありがとうございました………あ、もしかして」
思い出す。そうだ私飲みすぎて吐きそうになって、
「吐きそうになってたから…家に連れてきたんだけど…悪いな」
「いえ、そんなこと…!」
不意に手を動かす。

手首に異様な重さを感じた。

「………………………え?」

手錠が掛けられていた。

「いやぁ、まさか運良く酔っ払ってるとは思わなくてさ…」「どういう……、」
「気づいてたか名子」
彼はベッドにいる私に近づいてきた。
「俺は…ずっと…ずっとずっとずっと…………名子のこと見てたんだ」
「………っ」
言葉が出ない。
ワイルドタイガーは私の好きな人だ。
私は彼をずっと見ていた。
だけど彼は届かないところにいて。
だけど私はそれでも彼のことが好きだ。
私はずっとずっと…彼を見ていた。

ワイルドタイガーも…彼もずっと私を見ていた……………?

「名子のことが好きだ。愛してる…。俺はヒーローだから…諦めてたんだけどな」
彼はまた一歩近づいてきた。
私のことが好き?どういうこと?
私も彼のことが好きなのに…何故か…彼が怖い。
「だけど…今朝名子と少しだけ話して、我慢できなくなっちまって…」
ごくり、と私は唾をのんだ。
「しかも知らない男と一緒に飯食いに行くし………」

そう言い、彼は私がいるベッドに上がり、そして…座っていた私を組み敷いた。
抵抗するも両手を押さえつけられる。
手錠のせいか、両手が動かせない。

彼はそんな私を見て、笑った。
「大丈夫だって。少し軽いお仕置きだから…な?あまり痛くしないから」
そう言い、彼はネクタイを緩めた。そして私が着ているブラウスのボタンを外す。

「ちょ!ちょっと!やめてください!」
我にかえり、やっと声を出す。
「なんで?恋人同士だから当たり前だろ?」
彼は笑いながら緑のワイシャツを脱いだ。彼の上半身が露わになる。
厚い胸板…ヒーローなんだな、と思った。
「恋人同士じゃありません!今朝、社員証を拾ってもらっただけです!やめて!そもそも…ヒーローがこんなことしていいんですか!!」
「ヒーローだって一人の男だ」
そう言いながら私が着ているブラウスのボタンを一個ずつ外していく。
「大体…!!あなたの本名知らないんですよ私!恋人って言われても困ります!やめてください!やめて!」


「ああ…本名知らなかったっけ。…………………俺の名前は鏑木・T・虎徹だ」
「こ、虎徹………………」
「名子……………」


虎徹さん、やめてくださいという私の言葉は彼の口内に消えていった。

もう元の感情には戻れない、と思った。






ずっと見つめていたお前を俺のものにする日



>>>>>atogaki
20000hit企画!

浅葱さまと稀龍さまからのリクエストでございます!
お二人のリクエスト内容が被っていたので…まとめてひとつにさせていただきました。
リクエストありがとうございます…!書き直し要請などがあれば、お願いします!(


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