お頭に連れて行かれた敵船には、いつもしかめっつらで眠そうな黄色い髪の男の人がいた。
お頭はわたしをここに連れてくるくせに、わたしをほったらかす。
周りは敵だらけで、わたしを好奇な目で見るから好きじゃなかった。
そんな、すみで小さくなっていたわたしに話しかけてくれたのは、その黄色い髪の男の人だった。
彼はマルコといって、隊長らしい。
彼の笑顔は明るくて、好きになるのに時間はかからなかった。
「また来たのかい」
「お頭が、良いお酒入ったから白ひげにって」
「大変だな」
「そんなことも、ないです」
マルコさんに会うのが楽しみになっていて、最近は自分からお頭にくっついて来ている。
マルコさんはわたしのとなりに同じように座って、黙ってお頭と白ひげを見た。
「おまえさんとこの船長はどうにかなんねぇのかい。
毎度おれにちょっかい出してきやがって」
「無理ですよ、お頭はああやってひとをからかうのが好きなんです」
マルコさんがこっちの船に乗ってくれたら、わたしとしても万々歳だけど、彼の白ひげへの忠誠心は半端なものじゃない。そしてそれは、わたしも同じこと。
「なぁ」
急にトーンの下がった声で、マルコさんが切り出す。
どうしたのかと思って彼の方を向くと、真剣な顔でこちらを見据えていた。
高鳴る心臓を抑えるように、わたしは手に力を込めて、いつものように返事をする。
「少しばかり、会えなくなる」
マルコさんの目の奥は揺れていて、少しばかり、が一年か二年かわからないくらいの話に違いない。
ただ、そうですか、としか、言えないで、黙る。
迷った顔をしたあと、マルコさんは再びくちを開いた。
「おまえさんがこっちに来るっつーのは、考えられんことかよい」
「…え、?」
聞き間違いかと思った。
思いたかった。
でも彼の目は真っすぐにわたしを見ていて、逃げられない。
ひどく、胸が痛む。
彼が本気でも、冗談でも、
「わたしが囚われのお姫さまだったら、是非お願いするんですけどね」
「…おれが王子さまだったら、良かったのにな」
お互いわかってる。
別の尊敬すべき相手がいて、どんなことがあっても、その人についていく。
だからこの想いとも、さよならしなくちゃ。
「じゃあ、また」
「ああ、またな」
また、はない。
もう会わない。
だってわたしたちは、海賊だから。
敵同士で恋人なんて、夢や絵本のなかだけ。
馴れ合いはここまでにして、現実に戻ろう。
憧れた物語
(彼はロミオじゃないし、わたしもジュリエットにはなれない)
Loving!Love!Lovd!さまに提出させていただきました。