*現代
すっかり葉の落ちた街路樹の向こう、浮かぶ雲は高く遠く、空は澄んだ冬の色をしていた。太陽は顔を見せているというのに気温が上がる様子はなく、時折吹く凍えるような風が肌を刺す。
ずず、と洟をすすったのは隣を歩く三郎だった。僕と色違いのマフラーをぐるぐる巻いて顔を半分くらいまで埋めているけれど、覗く鼻も耳も寒さに赤くなっている。ざっくりとしたセーターを着た肩を縮めていると、元々細いので余計に寒そうに見えた。
僕はまだ11月の寒さ位なら少し厚着をするくらいで何ともないけど、寒さに弱い三郎にはかなり堪えるらしい。
「冬物のコート、押入れから出してくればよかったのに」
「…雷蔵が着ないのなら私も着ない」
意地を張る子供のように三郎が言った。毎度のことながらそのめちゃくちゃな言い分には呆れてしまう。
「別に僕が着なかったらお前が着ちゃいけないなんてことはないだろ」
「それでも!私だけ着ぶくれしてるなんて絶対許せない」
三郎はさむさむと腕を擦って震えながら強く言い切った。
「一発で見分けがついてしまう」
そうしている限り無駄だと思うけど。
僕はそう思って苦笑する。これから会う予定の八左ヱ門たちにもきっとすぐわかるだろう。
しかし三郎は相手が僕たちを見て名前を呼ぶときの、一瞬の躊躇に何かしらこだわりのようなものを持っているらしかった。
僕としてはそんなことどうでもいいんだけれど、これで三郎が風邪をひいて寝込むなんてことになったら少し困る。
「まだ時間もあるしコンビニでも寄ってく?何か温かいものでも買おうよ」
提案すると、三郎はこくこくと頷いた。寒風が足元の乾いた落ち葉を攫ってざらざらと音を立てている。自然と速足になる三郎に合わせて僕の歩調も速くなる。
「肉まん食べたいなあ」
「私も」
「あっでもピザまんも…うーん…」
どうしようか。腕を組んで首をひねると三郎が隣で笑った。鼻を赤くしてふにゃりと笑う三郎は僕と同じ顔だっていうのになかなかに可愛いと思う。
「どっちも買って、半分こしよう、雷蔵」
「うん」
頷いて、前を見る。目の前にコンビニが見えてきた。
帰ったら冬物のコートを出さなくちゃ。
2011121
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