平和な日本に生まれた、普通よりいささか劣っていた中学生だった俺が、なんか知らんがマフィアの十代目に選ばれて、あれよあれよという間に時間が過ぎた。
ボンゴレを継いで数年経って、代替わり後のどたばたやいざこざもなんとか落ち着いてきた、そんなときだった。

血を吐いた。



「あれ?」
咳とともに吐き出されたそれを見て、俺はそんな間抜けな声を上げた。ケチャップとかではない。昼食はサンドイッチだった。そもそも、血は見慣れていてそんなものと見間違えるはずもない。
「じゅ、じゅうだいめ、」
俺のデスクの隣に立って書類を整理している獄寺くんが、おそらく俺以上に蒼白になって手からファイルを落とした。
「あ、うそうそ、冗談」
その表情が今にも死にそうだったから、俺は思わずそんなことを言ってしまった。いや、冗談とか意味がわからないんだけど。大概俺も混乱していた。

うん。混乱してたんだ。

俺はなんかとりあえず大丈夫だよということをアピールしなきゃと思って、慌てて立ち上がって、直後にくらっと来て、ぶっ倒れた。
最後のは聞いた話。俺の意識はくらっと来た時点で途切れている。
次に目が覚めたのは、ドクターシャマルの治療室だったもんな。



起きたら、意識が途切れる前以上に顔色の悪い獄寺くんが泣きそうな顔をしていたから、思わず言ってしまった。
「獄寺くん大丈夫?」
言った直後にぶん殴られた。リボーンだった。
「『大丈夫?』じゃねえよダメツナが。ぶっ倒れたのはお前だろうが」
ならもっと優しくしろよ!と俺は叫んだ。ら、内臓が悲鳴を上げた。
「うぐ、」
「こらアホ!胃に穴開いてんだ、おとなしくしてろ!」
シャマルに怒鳴られる。どいつも病人に優しくな・・・、え?
「穴?」
「ストレス性のものだそうで・・・。十代目がそんなにお疲れになっているのに気付かないなんて、俺は右腕失格です・・・!」
獄寺くんは泣いたが俺はぽかんとしてた。
「穴って、いつの間に・・・」
「気づかなかったのかよ」
「いや、忙しくてそれどころじゃあ」
そういえば時々痛かった、ような。
シャマルとリボーンが呆れたように俺を見る。俺の胃が痛む。
「・・・まあ、代替わりが落ち着いて一気に疲れが出たんだろ。しばらく安静にしてろ」
「や、安静って、まだ仕事がさ・・・」
「いいえ!十代目の健康が第一です!!!」
真っ黒になったスケジュールを思い出して俺は口を開いたが、それを遮って獄寺くんががしりと俺の手をつかんで叫ぶ。
「仕事のことは俺に任せて!!十代目はゆっくりと体をお休めになってくださいっ」
「う・・・、うん」
もう付き合いも長いのに、俺はいつもこの勢いに勝てないのだ。



というわけで、ボンゴレ十代目就任からウン年、まとまった休みをもらったのはこれが初めてだった。
しかし名目は病気療養、というか実際に胃に穴が開いてて、しばらくの入院のあともボンゴレ所有の別荘で大人しくすることを約束させられた。
今まで睡眠時間を削って向かっていた山ほどの仕事から突然解放されて、はい自由にしていいですよ、といわれると、俺はただ呆けるしかなかった。え、なにすればいいの?ってそんな感じだ。マフィアに関わってからというもの初代様々の血のことばっかり言われていたが、ワーカホリックの日本人の血もしっかりと俺の体に受け継がれていたのだ。
「することないなー」
 スーツとネクタイから開放されて、別荘のテラスで、レモネードとお菓子を傍にチェアに背中を預けてだらだらしながらそう呟いたら、クフフ、と笑う声がした。
「折角の休暇だというのにすることもないとは、マフィアの業も深いものですね」
「いや、意味がわからない」
俺は首だけで斜め後ろを見る。案の定、六道骸が立っていた。
 いつものことだけど、いったいどこから入ったんだよこいつは。しかも俺の突っ込みを気にしていないところを見ると、さっきのあれは骸的には社交辞令風の冗談と見ていいらしい。
「で、何でここ来たの」
「暇を持て余しているだろうなと思いまして」
骸が笑った。やさしい笑みだった。
俺の口元がひきつり、思い出したように胃がしくりと痛んだ。





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