毛がついてたから
あー眠いなー学校やだなーなんて思いながら廊下を歩く。すると、前に見覚えのある褐色のスキンヘッドが歩いてるのが見えた。先程までの嫌な気持ちがぶわっと飛んでいって、足が喜びに疼いた。我慢できずに駆け出す。
「ジャァーッカルせーんぱーい!」
どーん! と口で言いながらその背中に突進する。がっしりした体はびくりと震えただけで、よろめくことはなかった。素敵。
広い背中に抱きついて堪能していると、「名字か……」と苦笑いを含んだ声が振ってきた。えへへと笑いながら離れると、向き合った先輩にワシワシと頭を撫でられる。
「おはよーございますっ!」
「ああ、おはよう」
あああっ笑顔が素敵! 白い歯が眩しい!!
きゃーっと言いながら今度は正面から抱きつこうとすると、流石にさっと避けられた。
「ジャッカル先輩流石の身のこなし! ベリークールです!!」
「ハハ……ありがとよ。つかお前たまに英語使ってるけど、ブラジルの公用語は英語じゃないからな……?」
「なんと!!」
少しでもジャッカル先輩に近付きたくて英語を話してみたが、空回りだったらしい。それでも優しく指摘してくれるジャッカル先輩本当素敵。家に帰ったら早速公用語を調べよう。
「ほら、突っ立ってないで歩くぞ」
「あ、はい!」
もんもんと考え事をしていると、ジャッカル先輩に頭をぽんぽんされた。周りを見回すと、歩く生徒が増えてきていた。こんなところに立ってたら邪魔になるから、先輩はああ言ったのだろう。ああなんて優しい人なんだ。
隣を歩きながらジャッカル先輩を見上げる。すると、なにやらジャッカル先輩の頭に不自然な物が付いているのが見えた。これはもしや。
「ジャッカル先輩」
「ん?」
「猫……いや犬かな? じゃれました?」
問うと、「ああ、朝に散歩をしていた犬が懐いてきてな」と笑った。やっぱり!! くふくふと笑うと、ジャッカル先輩は首を傾げた。
「どうしてわかったんだ?」
さも不思議そうな先輩の頭に手を伸ばす。先輩は少しびくりとしたが、されるがままだ。ゆっくり、落とさないようにそれを摘み、先輩の目の前に掲げた。
「毛がついてたから!」
そう、先輩のつるつる素敵なスキンヘッドには似つかわしくない、黒の毛が付いていたのである。ぺいっとその辺に捨てると、先輩は虚ろな目で「ああ……ありがとな……」と私の頭を撫でてくれた。思わず抱きつくと、一瞬驚いた様子の後、にっこり笑ってくれた。虚ろな先輩も素敵だけど、やっぱりにこにこ笑った先輩が一番素敵だ。
階段の所で別れた後、私はスキップしながら教室に向かった。今日も1日頑張ろう。
(あ、おいジャッカル、お前名字とでもじゃれたのかよぃ?)
(あ、ああ……なんでわかったんだ?)
(いや、毛がついてたから)
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