一通目

拝啓、苗字名前様

 春の日差しが暖かい季節がやって参りました。うちの周りにも春の訪れを告げるような鮮やかな花々が咲いております。
 久方振りですが、お変わりないでしょうか?
右腕だけで手紙を書くのはまだ慣れず、字が歪で読みづらいだろうと思いますが、どうかご容赦ください。
 こんなにも長い間、お互いに顔を合わせる事が出来ないのは初めてかもしれないね。君に会えないのは少し寂しけど、代わりと言ってはなんですが、これから君に手紙を書いていこうと思います。実は俺の趣味は文通なのです。鱗滝さんに千寿郎くん、あとは義勇さんと、他にも両手で数えるくらいには文通友達がいます。知っていましたか?時間がある時にお返事いただければ幸いです。
 あれから善逸と伊之助と共に俺達の家に帰りました。久しぶりに帰った家は変わらずに同じ場所にあって、あぁ、やっと帰って来たのだと、ようやく全てが終わったのだと実感しました。それからみんなで大掃除をして、風呂を沸かして、顔を見合わせながらご飯を食べて、眠りにつきました。そんな何でもないような当たり前の日々が続くと、あの戦いの日々がまるで夢だったのでは無いかとさえ思えてきます。そこに貴方がいたら、どんなに幸せなんだろうか。
 明日は禰豆子が作ってくれた弁当を持って近くにある大きな桜の下で花見をします。一昨年前にみんなで花見をしたのを覚えているだろうか。名前が朝早くから腕を振るって作ってくれた弁当を花見の場所に着くまでの最中で伊之助が全部食べてしまって、でもあまりにも美味しそうに食べてしまったものだから、誰もそれを責めることなんて出来なくて、俺も名前も善逸も思わず顔を見合わせて笑い合いながら桜を見ましたね。お弁当は食べれなかったけど、あの時みんなで見た桜は本当に綺麗だった。「またお弁当作るね」と君が言ってくれたあの約束が、まだ有効であるのならば、来年こそは一緒に君の好きな桜を見に行こう。その時の弁当には、俺の好物であるタラの芽の天ぷらを入れてくれたら大変嬉しく思います。
 全てが終わって、俺が君にも一緒に来てほしいと誘った時、故郷に残してきた両親の身を案じてすぐには一緒には来れないと申し訳なさそうな顔をしていたけれど、俺は、君が俺との未来を見てくれたことが嬉しかったんだ。また季節が一周巡り巡って、君と一緒にこの家で暮らす日が、今から待ち遠しく思います。近いうちに、君のご両親にも挨拶に伺えたらと思います。       
 花冷えに、くれぐれも風邪など召されませぬようご自愛下さい。
敬具
竈門炭治郎

追伸 やっぱり少しじゃなくて、結構寂しいよ

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