十二通目

拝啓 苗字名前様

 やわらかな春の日差しがうれしい季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
 名前が今日、汽車で俺の住むところまで来るとお便りをもらって、居てもたってもいられなくて家を飛び出し、駅のホームまで来ましたが、どのくらいにこちらへ到着するのかを聞くことを失念しておりました。君に会えるのが嬉しくて、舞い上がってしまったようです。君を乗せた列車が到着するまで、ホームの長いベンチに腰掛けて手紙を書いてみようと思います。きっとこれが一連の君との文通の、最後の手紙になることでしょう。
 この一年間、君からの手紙が届くことが俺の楽しみとなっていました。手紙の文字から伝わる君の優しさや、開いた便箋から仄かに香る君の残り香から、君を感じることができました。それでもやっぱり、君と顔を合わせて同じことで笑い合ったり、君が悲しいと思うことや苦しいと感じることは俺も同じように感じたい。二人で分け合っていきたい。君の隣を歩いていきたいし、俺の右手で君の手を握ってあげたい。君の小さな身体を抱き寄せて、君の体温を感じたいと思ってしまうのです。いつの間にか、こんなにも俺は欲張りになってしまいましたね。
 ちょうど今、蒸気機関車の汽笛の音が近付いて大きな音を立て、終着駅であるプラットホームに止まりました。列車から降りてくる人の中で君を見つけたので、この続きは直接、君に伝えようと思います。
竈門炭治郎

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