★こどもの日ですよ。




「……螢ちゃん……随分さっぱりした鯉のぼりですね」

「水色が我が母。紫が我だ」

「螢ちゃんワールドにはおばあちゃんと螢ちゃんしかいないんですねぇ」

いえ、わかってはいましたけどね、と若草色の彼女が頬に手を当てて笑いながら螢の作った小さな鯉のぼりを見ていた。

螢は居間の卓に広げた折り紙や画用紙の中で二匹の鯉のぼりを改めてその紫の瞳でまじまじと見つめた。

螢が作ったのは二匹の鯉のぼり。こどもの日だと言うことで若草色の彼女に促されて作ったものだ。年齢はまぁ……不詳であるが、見た目と出来る範囲が子どもな螢は予め用意されていた鯉のぼりの形に切られていた画用紙に折り紙や、クレヨンで色づける、描く作業を(白髪の彼女の促しもあり)作ってみた。

が、螢の中には母である白髪の彼女と自分しか存在せず、当然のように作った鯉のぼりは自分と母を模した二匹だけ。

わかってましたけどねぇ……と笑い、螢の頭を撫でる若草色の彼女を見上げながら螢は首をかしげた。

今日は今朝から家の住人たちが騒がしい。……基、楽しそうに色々と準備をしている。

「おじょーうさんっ。今お手伝いお願いできるー?」

「はぁい」

台所からのんびりとした、けれど大きな声が若草色の彼女を呼び、彼女は「あとから仕上げしましょうね」と螢の頭をさわりと撫でて日の光を存分に抱いているかのような踵まである若草色の長いをさらりと揺らしながら台所へとかけていった。

その背中を見ながら花壇がよく見える庭に目をやる。

そこを見れば……恋敵(?)である長身の赤い髪を持つ男性が庭に大きな鯉のぼりをあげていた。

腕をまくり、からからと音をたてながら慣れた手つきで鯉のぼりをあげる赤い彼と、台所で何かと食事を準備している少々癖っ毛のある金色の彼と若草色の彼女が仲良くほのぼのと作業を進めているのを見て、螢はもう一度自分が作った鯉のぼりを見つめた。

「…………」

そこには、己と、己の愛する母をイメージした二匹の鯉のぼり。

螢にとっては少々(実際にはかなり)幼く見えてしまうが、恋も知らずに自分を産んでくれた母が世界のすべて。それは間違いない。

例え世界が、母を罪としても螢は母を積みとはしない。魂がつきても守る意思だけは、それだけででも母の傍らにいる。

螢の母は、とてもじゃないが平和とは言いがたいところで生きてきたのだと、時々勇気を振り絞って話してくれる母のはなしから知っていた。

「…………」

こどもの日。だからだ。

この家にこどもは螢だけ。  








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