朝のおはなし。




願いを抱いた水泡のような親子の朝は早い。

目覚まし時計など必要なく、白髪の彼女は早朝五時になると目を覚ます。

「………ん…」

ぼや……と重たそうに瞼を押し上げ、閉じて、を何度か繰り返して白髪の彼女はその水色の瞳を開けた。

ゆったりと身体を起こし、少し大きめな寝間着の袖で目もとを擦る。

若干ぼんやりとした頭でゆるりと首を動かして外を見る。

柔く広がる朝日が襖越しに部屋に入ってくる。ゆらゆらとした水面が揺れる様子が朧気に見える。

ああ、いつも通りの朝だ。と白髪の彼女は再び首を動かして、同じ布団、隣で眠る愛しい我が子を見た。

すぅすぅ……と安心しきった寝息が早朝の部屋に朝日の中に調和する。

そしていつも通り、ここで一日のはじめの笑顔を浮かべて螢の頭を水泡を割らないように、丁寧に丁寧に、慎重に撫でた。

母の手の温もりを感じてか、ふにゃりとした緩みに緩みきった寝顔にくすりと笑って白髪の彼女は我が子を起こさないように静かに静かに立ち上がった。

「………ん………んぅ…?」

……つもりだった。そう、毎朝そのつもりなのだ。

布団の上に、我が子を起こさないように立ち上がると螢は決まって動く。

微睡んでいるはずの意識の中でぱたぱたとその小さな小さな手が布団の上を右往左往する。

それから「むぅ……」と寂しさに顔を歪めて、瞳を開ける。

小さく細い腕を軸にゆったりと起き上がり、のそりと今までいた場所から動き、軸にしていない方の腕を伸ばし、母の足、寝間着の裾をくいっ、と引っ張った。

大きな紫色の瞳が起きたばかりなのにも関わらず、嬉しそうにほわん、と泡のように笑顔を浮かばせた。

「……おはようございます…我が母」





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