ふわるんです。



腕捲りをして、いざ夕食後の食器を洗おうかと白髪の彼女がスポンジを泡立てた時、一生懸命に身を任せすぎて途切れ途切れの呼び声が白髪の彼女を振り向かせた。

よて、よて………と歩き始めた赤子の如く拙い歩きで、ずるずると薄紫色の肩掛けと長い長い三つ編みを引きずりながら、螢がこちらへ歩いてきていた。

「……は、は…………我が…母…」

今にも転びそうな危なっかしい歩きの我が子に白髪の彼女は慌ててスポンジを置き、素早く手を洗ってエプロンで軽く手を拭いた。

もう一歩のところまで来ると、螢は顔を上げて嬉しそうに紫色の目を細めほわんと笑む。

しかしそれが螢に精神的緩みを生み、左足の動きを中途半端に止めてしまった。

ぐら……っと螢の小さな小さな身体が前のめりに傾いた。

白髪の彼女は慌てて我が子の身体を抱き留める。

ほぅ……と安堵の息を吐くと螢の脇に手を添え、その小さな身体を支えた。

白髪の彼女の水色の瞳が、螢の紫色の瞳をしっかりと見据え、息子でもなく、娘でもない我が子を「こら」と短く叱る。

螢には「性別」がない。

「歩くのは良いが誰かが傍に居るときにしようと母と約束しただろう?螢。家だから良かったものの、外だったら何か大変なことになるかもしれないではないか」

「はい、ごめんなさい…我が母」

きりっとぴしゃりと叱ったつもりなのに、叱られている側の螢はどことなく嬉しそうだ。怒られているのに相変わらずほわん……と泡のような笑顔を絶やさないでいた。

一般的に螢のような者のことを「マザコン」と呼ぶのだが、残念ながら白髪の彼女は全く気付いていない。

「………螢…母は怒っているのだが…わかっているのだろうか?」





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