Clap
螢の好きなこと。
螢は自分で三つ編みを結える。
自分よりも長い長い母親譲りの少し緩い白髪を、自分で編むことが出来る。
今日だって、ほら。
「………………」
我が母が机に向かって、鉛筆を片手に考えこんでおられる。
我が母から頂いた水色の結紐を手に握って、上げた手を下げた。
結紐を畳の上に置いて、後ろ髪を前へと持ってくる。
重たく、動かし辛い両足を前に突き出して、髪を三つに分けて交互に交互に編んでいく。
「………」
編み編み編み編み。
編み編み編み編み。
我ながら慣れたものだと思う。
だって、我が母に何度も教わったから。
我が忘れるわけがないのだから。
………記憶力と、出来るようになるまでの過程、はまた別物であるのだが。
親指、人差し指、中指を使って少しずつ少しずつ三つ編みを作っていく。
背中を丸めて机に向かっている我が母が立てる鉛筆の音。
どうやらお仕事の調子がよろしいようだ。軽い鉛筆の、文字を綴る我が母が奏でる鉛筆の音が我はとても嬉しい。ほっこりする。
「………」
我が母の後ろ姿を見ながら、三分の一程編んで、傍に見える鏡で我は我の編んだ自身の三つ編みを見てみた。
慣れた。うむ、確かに三つ編みを作るのには慣れたと思う。
だが、少しばかり均等が取れていないし強弱も粗がある。
我が母のように絶妙な力加減はまだ難しい。
自分自身で編むと所々髪はきちんと編めていないところがあるし、弱すぎるし、強くしすぎて痛い所もある。
やはり我が母に編んでいただくのが一番気持ちが良い。
鏡を見ながら己が編んだ三つ編みに溜め息をついてぱっと手を離した。
ふわあ……と我が母と同じ色の髪が解けていく。上手く出来なかった三つ編みを諦めた。