「やあ、レイ。
久し振り……なんだけど、覚えてる?」
目の前にいる人間の存在が、信じられなかった。
「にしてもまぁー懐かしいくらい酷い顔だね。
不眠症は健在かな」
バンド付きのメガネに、無造作に纏め上げられた髪。
嘗ての戦友が、今目の前にいた。幾分か若い姿だが。
いや、それよりも、だ。その口ぶり。前から、昔からの知り合いのような、その言葉。
「…………ハン、ジ……?」
「あはは、今のレイすっごい間抜けヅラだよ」
様々な感情がこみ上げてくる。
久し振り、だとか懐かしい、だとか。
珍しく感情の制御が効かなかった。
「うわっ、ちょ、レイ!泣かないでよ!
あんたそんなに涙腺緩かったっけ!?」
だめだった。こらえきれなかった。
ハンジが慌ててるのが少し、可笑しかった。
昔から滅多に泣くような人間ではなかった自覚はある。それ故慌てられているのも仕方ない。
でも、そんなことは今、関係ない。ふらりと足を進め、近寄ると、彼女の方からそっと抱きしめてくれた。決壊。
「はんじ、はんじ、ハンジッ……!」
「いつからこんな甘えん坊になったのさ。クールで売れてた君は何処に行ったの」
呆れたような、でも嬉しさを滲ませたような。
落ち着かなければいけない。
しかし、こちらに来て初めての涙。到底制御など出来る訳が無かった。
「レイ、いい加減動き難いんだけどー」
「……ごめん」
「素直かっ!もう仕方ないなー」
未だグズるレイに、周りの視線が痛すぎる。
すっかり目を赤くしたレイはずっと私の後ろに付いて行動していた。
ホグワーツである意味の有名人レイと、ボーバトンである意味の有名人の私。
両校からの視線は勿論、なんだあの二人組、とダームストラングからも視線が来る。
いつものレイなら気付けただろうけどねぇ。
隈をみれば一目瞭然だが、まだあの不眠症が続いている様だ。
それで、より一層、情緒不安定気味になっているのだろう。
「……そういえばレイ、授業は」
「………………」
ちょい、と目線を逸らされる。
「あっ、まさかサボったな!?ほら、なんの授業だったんだい?」
「……あとで、罰則でも何でも受ける……ハンジといたい」
でた無自覚無意識。
しおらしいとも取れるその態度。
ちょっと俯いた表情の可愛さ。
前々から、分隊長の中でも年下で可愛がっていたその子の、こんな可愛い仕草見せられて、断れる人間が居るならそいつは人じゃない、猿だ。
「あ、それ以上近寄ったらダメです。レイが起きます」
「…………えー、ミス。少し、お聞きしたい事があるのですが」
「私は動けませんので……申し訳ありませんが、それ以上近寄らず、そのまま声を抑えてくれるならお聞きいたします」
マクゴナガルは困惑していた。
自寮の問題児が他校の生徒の膝枕ですやすや眠っているのだから。
今日の授業で見かけなかったのは彼女と居たからかと納得しつつ、授業はちゃんと出席するべきという考えを持つマクゴナガルだが、いつも隈を作るレイが寝ているという事実に驚いた。
「……あなたは、レイと親しい仲、なんですか」
「まぁ、そんな所です。この子の事は、ここに居る誰よりも知っている自信がある」
昔から、精神的な原因の不眠に悩まされるの可哀想な子ですよ。
そんな呟きを聞き取ったマクゴナガルは僅かに目を見開いた。
彼にそんな仲の友人が居たとは。それに、不眠症だったのかと同時に色々な事が判明する。
「昔から、何も変わってない……いやでも、少し泣き虫になったかな。身も心も弱っちゃって。
ったく、昔は私に散々ちゃんとしろって言ってきた癖に!仕方ない奴!
あ、先生、この子授業サボっちゃったみたいだけど、何でも罰則受けるって言ってましたよ」
「ちゃん自覚は有ったのですね。では、後日知らせるのでそのように」
「伝えておきます」
ふふ、と笑うついでにレイの頭を撫でる。
前より手抜き感がある手入れに、やっぱり人の事言えないじゃんかと小さく息を吐いた。
「……ん…………***……**……?」
起こしてしまったか。
……それより、寝ぼけ過ぎて前の言葉になってるよ、レイ。
「******。***」
「…………*****」
もう少し寝ていればいい、と撫でればその手に擦り寄ってくる。
あぁ、素直だ。
行かないでとか何本当に。
「……夕食前には起こして行きます」
「…………わかりました」
ホグワーツの先生は杖をひと振りして私の下にクッションを、レイに毛布をかけてくれた。
それを有難く思いながら、レイを再度、なでた。
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