「これはお嬢さん、驚かせてしまい申し訳ありません」
「……っ、」
なんで、こうも会っちゃうかな。
ただ休日を悠々と過ごしていただけなのに。
暗くなった世界に月明かりを浴びて青白く浮かび上がるその存在に、私は気絶でもしたくなった。
したかった。
「今日は風が強い。
いくら温暖な季節でも、体を冷やしますよ」
「……そ、う……ですね」
声を捻り出すのにも一苦労だ。
あぁなんで屋上に来たわけ私。
関わりたくなかったからって、逃げる場所を完全に間違えている。
「グライダーも制御しにくくて困りますね」
「……落ちないよう、に。
気をつけてください」
まぁ大丈夫だろうけど。
という一言は心の中に封じ込めた。
わざわざ口にするまでもない。
「ところでお嬢さん、一つ頼まれてくれませんか」
「?」
「こちらの返却をお願いしたいのです」
「……はぁ、」
目当てのものでは無かったのか。
ビルの屋上のフェンスに凭れている私の前に恭しく膝をつき頭を下げながら宝石を渡される。
それをハンカチで包みながら受け取り、手に握った。
(失くしたら借金地獄や)
そう考えたら余計な力が手に入った。
落としそうだと危惧した私はとりあえずそのまま上着のポケットに突っ込んだ。
「失礼ですが、お名前を教えていただけませんか」
……なんでだ。
いや本当に。
なんでだ。
「……そうですね……次お会いした時にしません?
その時のお楽しみって事で」
そのほうが面白くない?と言いたくないから適当な理由くっつけてみた。
怪盗キッドなら乗ってくれるだろう。
多分。
「……じゃあ、次。いつかお会いした時には……教えてくださいよ」
「会えたら、ですよ。
……さ、キッドさん。
そろそろ行かないと……また、厄介ですよ」
「あぁ、残念だ。
いつか貴方とゆっくりお話してみたいのですが」
「あなたが追われる存在で有る限り、それは難しいでしょうね。
……ま、応援してますから。
風に気をつけてください」
「……では」
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