今日も今日とて平和である。……と思ってたんだけど。
(なんかつけられてる気がする)
普段通り仕事を片づけ、提出を済ませ、はぁやっと休めると体を伸ばした時。どこからか視線を感じた気がした。
最初こそ気のせいだと思った。しかしずっと違和感が消えず、恐怖心が顔を出し始めた。
「……どうしよう」
確信があるわけでもない。でも、なんとなく。違和感。気持ち悪い。
「あ、ユメ!」
「あ、あぁ、フームさん。おはようございます」
前方から明るく歩いてくるのはフームさんだ。
おはよう、と挨拶を済ませた彼女は続けて口を開く。
「これからカービィとブンと一緒にピクニックなんだけど、ユメもどう?」
「いいですね。丁度仕事も終わったところなんです」
今日はとても天気がいい。絶好のピクニック日和である。
「なにか荷物はありますか?」
「もうサンドイッチもシートも完璧よ。さぁ、行きましょ」
今日のように仕事が早く切り上がるのは珍しい。空いた時間はぜひ有意義に使いたいものだ。
そんな中のフームさんのお誘いはとても有難かった。
フームさんお手製のサンドイッチを頂いて、のんびりする。
隣で彼女がブン君やカービィを眺めて「いつも考えることは一緒なのね」と呆れたような笑っているような表情を浮かべている。
「遊び盛りの男の子ですし、元気なのは良いことですね」
「……まぁ、それもそうね。
んーダイエット中なのについつい食べちゃうわたし……」
サンドイッチを食べる彼女はご機嫌そうだった。
食べちゃいけないと思いながらも、おいしいものを食べるとうれしくなるものだ。
食べ物とは偉大である。
「……ダイエット、ですか。フームさんもレディですね。
今も十分に可愛らしいのに」
「そう?」
「ダイエットも良いですが、過度にはしないようにしてくださいね。心配ですから」
「ありがと。……ねぇユメ、なんだか、観察されてるようなきがするんだけど……あなたは何か感じる?」
観察。心当たりがあった。誘われる前に感じてた、あの違和感。
それについて話そうとしたその瞬間、遊んでいたブン君が呼びかけてきた。
「ねーちゃーん! いっしょに遊ぼうぜー!!」
「まぁ、まったく……ユメ、行ってくるわね」
「はい、いってらっしゃい」
精神面はとても大人びているが、やはりまだ遊び盛りの子どもである。
しっかり混ざって遊んでいる彼女に、思わず笑みがこぼれる。
「いいなぁ、楽しそう。
……私はちょっと、暑くて無理そう」
はぁ、日差しがつよい。日陰に避難しよ。
バスケットを持って移動しようとしたその時、気付く。
「……ん?」
バスケットの横に、黒くて小さい板のようなものがついている。
なんとなしに触ってみると、ぽろりと外れた。
「まさか」
盗聴器?
声が入らないように口を噤む。
観察して、確信づく。やはり盗聴器だろう。
そしてこれが仕掛けられていたのは、フームさんのバスケット。
ターゲットは彼女であると考えていいだろう。
「フームさん、ブンくん、カービィ」
こっそり盗聴器を回収して、遊んでいる3人に声をかける。
「どうしたユメー?混ざるか?」
「素敵なお誘いだけども……ごめんなさい、少し用ができました。
なので失礼しますね」
「あら、そうなの?」
「はい、すみません。
……あの、ちょっとお願いが。なんだか嫌な予感がします。どうか、一人で帰るのは避けてください。ぜったい、一人にならないで」
盗聴器の事を言うかは迷った。しかし、下手に怖がらせたくない。
フームさんには先ほどの違和感のこともありますから、と言ったら納得してくれた。
「どういうことだ?」
「とにかく嫌な予感がします。お願いです。……だめですか?」
「わ、わかったよ」
「よかった、ありがとうございます。フームさんを守ってあげてください」
これでおそらく大丈夫だろう。
とりあえずこの盗聴器の仕掛け人と、しかるべき機関に報告を。
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