「うっわぁ」

何となしにつけていたテレビ。
一分間クッキングとかいう番組だったろうか。
ワドルディがせっせと何かを練って乗せて焼いている、と思ったら。
事故で大王がクリーム塗れになった。

いや、事故といえば事故なのだが。
どうして、レンジに入れたパイが爆発して大王にぶっかかるのか。

現場の者は大爆笑。
ワドルディって笑うとそんな声出すのか。
あれ片付けるの大変そうだな。

さて、と。
予約してた本でも取りに行こうかなと立ち上がる。
テレビを消して、必要な物だけ取って部屋を出た。









「ねぇユメさん、先程のテレビ、ご覧になりました?」

「あのデデデ陛下の!」

「あー、あれですか」

「もうおかしくっておかしくって!!
久しぶりにこんなに笑ったわ」

「もう陛下のあの顔といったら……ふふっ」

村に降りたら、先ほどの番組で話題はもちきりだ。
どこからも『パイ』と『陛下』と『テレビ』という単語ばかりが聞こえてくる。
あの番組がここまで話題になるものなのか。

「私、用がありますのでこれで……」

正直に言うと、私はあまりツボに入らなかったので話についていけない。
そっとその場を離れようとしたその時。
五月蝿いエンジン音がどこからか聞こえてきた。
まぁ、そんな音立てるのは一人しか心当たりが無いわけだけど。

予想通り、陛下の車と兵士であるワドルディが走ってきて、村の広場で停止した。
何か、やたら大きい荷物を引っ張って来ているけど……なんだろうか。

「あー、人民どもに告ぐ。
人気番組『デデデで一分クッキング』は今日にて打ち切りゾイ!!」

人気だったのか、と思わずつぶやいてしまったが、今さっきまでの村の会話内容は殆どその番組の事だったからあながち間違いでもないかもしれない。

「代わりに、これから新番組『パイで処刑でショー』が始まるゾイ!!」

「パイで処刑でショー?」

「それは何でしょう?」

「あほらし」

「おいそこ!!聞こえてるでゲスよ!!」

ちょっと呟いたくらいのつもりだったのに、聞き取られていた。
地獄耳でしょうか。
そもそもパイで刑を処すって何、どういうことだ。
疑問点がいくつも浮かぶ。
ただ確かなのは、絶対に面倒くさくなるという事だけだった。

「落書き、信号無視、立ち小便、反逆罪など、あらゆる罪を犯した者はパイを喰らうゾイ」

「裁判抜きの公開処刑生番組でゲス!」

この閣下の言葉には流石に驚きの声が上がった。
裁判抜きって……そもそもこの国に裁判所なんてあるのか。

「なんだってそんなことで?」

「あんたたち頭おかしいんじゃないの?」

ブン君とフームさんが真っ先に文句を言う。
そこに、パイが投げつけられた。
……パイ投げ機?とやらで割と正確に飛ばしてくる。
べちゃ、と飛び散るクリームにあれだけは喰らいたくないと心から思った。
絶対に片付けるのが大変だろうし、気持ち悪そう。

ユメが全く関係ない事を考えている傍らで、村人もボルン署長や村長をはじめとした者達から抗議の声が上がり始めていた。
しかし、そこにもパイが投げ込まれる。
反対意見を持つ者を次々に潰していく様はまさに独裁者。
いやもう独裁者だったな。

次第に、住民側も落ちたパイを拾っては陛下に投げつけ始めた。
雪合戦を思い出させる光景だが、当たると雪より面倒だ。
巻沿いになるのは嫌だったのでそっと広場を離れて城に戻ることにした。








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