01

眠れない。
少しも眠くならない。
もう夜なのに。寝なきゃいけないのに……。
布団の中に潜ってみても無駄。
ただ苦しくなるだけ。

「どうして……」

みんなを起こさないようにそっとつぶやいてみる。
当然、返事は返って来るはずは無い。
もう一度、目を瞑ってみる。
やっぱり駄目。

……本当はわかってる。
何で眠れないのか。

今日の昼間、お城での事。
――マリアって人とミルザって人の事。
あの話からすると誰が考えても俺の過去と関係あるのは一目瞭然。
俺はきっと昔にマリアって人と一緒にアストスに会った事があるんだ。
でも思い出せない……
全くわからないわけじゃ無いけど。
その時に誰か……多分マリアさん……がアストスと戦ってて……そしたらアストスが俺に向かって魔法を……。
……それを多分マリアって人が打ち消してくれた……のかな?
これくらいしか思い出せない……

何で思い出せないんだろう。
もう何年もわからないまま……。
……あの家ではまだ名前もわからないままだった、そう言えば。
でもあの家での俺の存在価値なんて無いに等しかったから名前なんてわからなくても良かったんだよね。
聞かれた事も無かったし。

俺が記憶してるのは暗くてかび臭い倉庫のようなところに無造作に寝転ばされているところから。
その前は全くわからない。
名前すらもわからなかった。
――俺の過去なんてこんなもの。
思わず自嘲の笑みが漏れた。

倉庫から売られてあの家に。

それからあの家を逃げ出したけど、結局は最悪の暮らしだった。
その中でも俺が必死に助けを求めてるのに、あの人に見捨てられたのが一番ショックかな。

でも幸か不幸か、そのおかげで俺は自分の名前を思い出す事が出来た。

……これからこの旅を続ければ恐らく俺は全てを思い出す。
根拠は無いけどそんな気がする。
でもハッキリ言うと俺は思い出したくない。なにか壮絶で重大な事なような気がするから。

……でも、今はもうそんな事、言っちゃられないのもわかる。

重大な何かは多分、この旅に関係してるから。
だから……俺はミルザさんに会わないといけない。
マリアさんの娘のミルザさんならきっと何か知ってるはず。
……でもやっぱりミルザさんには会いたくない……。
どうしてかわからないけどなるべくなら会いたくない。

でもみんなに迷惑かけたくないからミルザさんに会わなきゃいけない。
これは俺が決めたんだから。

さ、もう寝なきゃ。
布団を頭までかぶってみた。

やはり今夜は眠れそうもない――


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