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茜色の空(番外編)


番外編・ハロウィン



ローが組織を解体してなにものでもなくなった未来。
1人の楽しげな声が部屋に響く。

「よし!」

渾身の出来栄えに汗を拭う。
汗は出ないけどね。
ふふふ、とつい声が出る。
今回はなんと長年の友であるローが参加する。
参加するというのは意味が少し違うな。
具体的には参加させてもらう。
今の今までハロウィンイベントや他のイベントなどに参加はして来なかった。
何故ならイベントの流行が余りにも早く、ついていけずじまいで。
彼となら早いも遅いもない。

「んー。これなら納得してもらえる出来だ」

((用意は順調か?))

「!ーー珍しい。テレパスを使うなんて。ああ。順調さ。今出来たばかりで、当日に乞うご期待ってものだ」

((それは楽しみだ。おれの方も準備は着々と進んでいる))

ローのところはもうなにもしてないから時間はかなり余っていると思う。
次の新たな何かをするには時間が掛かると聞いた。
超人的な存在でもなにかする時はじっくり吟味して計画を立てたい。
その気持ちはすごーくわかる。
ローのところへ赴いた時は彼の勧め通り225日もついつい滞在をしてしまった。
何故なら彼らの日々の生活が楽しくて楽しくて。
毎日なにかしらしてくれたりして、飽きもせずに。
美味しい所もかなりの頻度で周った。

世話になったことによって時間を忘れてしまった。
有給を過ぎる前に身代わりを作ったのがいい思い出。
ある程度終わったのでテレビの前に座る

「オリエンタ特急……何度見ても良い作品だ」

小説もドラマや映画も最高だ。

((今良いか?そっちに行く))

「え?また、なのか?入り浸るなあ。別に構わないよ」

「テレビを見ていたのか」

(早い。秒で来たよ)

「ああ。オリエンタだ。名作だ」

「探偵ものの定番だ。俺も名前だけは知ってる。内容は全く知らないが」

「見た方がいいよ?再生しよう」

「見るとは言ってない」

言い終える前に再生する。
仕方なく隣に腰掛けた。
そういう話を聞かなくなるところも彼女らしくて、好きだ。
勝手気ままというらしい。
いかにも現代の言葉に当てはまるそれに笑みを浮かべる。
嬉しそうな顔は見ていて気分を良くする。

「かけるよ」

「ああ。ポップコーンは?」

「食べるよ。チョコバナナ味が良い。それにハマっていて」

「お前はなんでもハマるな」

「君も結構凝り性だから人の事を言えまい」

ローが見ると思っているからか彼女はむくれる事もなく、楽しげに座る。
こうして隣でなんでも観てきた。
星の爆発だって。
塔が建てられる時だって。

「オリエンタはね、トリックを考えれば考える程混乱するんだ」

「お前のそれは5億回聞いた」

「え?そんなばかな」

いや、本当に5億回は固い。
初めてそれを目にしたであろう日は一日中喋り続けていた。
映画も何度も映画館で観たらしい。
共に見たかったのにいつも映画や小説に夢中で、こちらを意識から外していて、なんだか癪で近寄れなかった。

「リバイバル、しないかなあ」

「リバイバルよりも家のでかいプロジェクターで見りゃ良い」

「そんなのあった?」

「作った」

「作ったのか」

「なんだったら映画館を作っても良い」

「規模が大きいよ」

ハロウィンイベントの前に楽しみが増えた。

ローは彼女のハロウィンの衣装を探していたが見つからなかった。
魔法で隠しているらしい。
わざわざ隠すなんて徹底しているな。
益々楽しみだ。
己も様々な仕掛けを当日に用意していて、彼女の驚きが今からでも浮かぶ。

「ほら、このシーン!」

と、延々と解説している相手に耳を傾けた。
聞いているが、すでに何度も聞いているので全て覚えている。
話半分に聞く。
声を聞いている状態だな、これはもう。
ハロウィンまで残り一週間。



ハロウィン当日、ねぐらにしていた建物を改装しハロウィン仕様にしていたものは城のように見えた。

「張り切り過ぎでは?周りがびっくりだ」

「魔法で認識出来ないようにしてある。子供も簡単には来ない。よって菓子を渡す面倒をしなくて済む」

「あげれば良いのに」

そういうのはおれ以外しとけばいい、と男はハロウィンの仮装を身につけて面倒そうに言い捨てる。
この改装は本人の指示だがお菓子を配る事を張り切っているのは別のやつ等だ。

「入れ」

「うん。おお、広いし綺麗だし、なんと言っても真っ黒」

「黒は良い。だろ?」

「私はホワイト派だから」

「そういう所が正反対なのもおれ達らしい」

「ふふ。だね」

にこりと上機嫌にあいずちを打つ仕草にローは優越感がじわりと胸に広がるのを感じる。
仲間等に雰囲気を大切にした方が良いと力説され、こうして城に変化させた寝ぐらへ相手を招待したわけだが。

「かっこいいだろ」

「そうだね。シンプルなのにクラシック的だ」

「クラシックな装いが分かるのか?」

「ああ!もち、いや、やっぱり良く分かってない」

最初は勢いが良かったのだが、少し肩を落とす姿に自分も拘ってないから気にするなと慰めた。
こうやってここに遊びに来るのが己も待ち焦がれていた事を知られるよりは良い。
更に中に入るよう足す。
滑るように歩いていく姿は見ていて感慨深い。
こうやってハロウィンをするのは初めてだが、彼女が共に参加するのなら悪くない。
はしゃぐ声音に頬が緩む。
結構拘ったからな。
出来栄えもローの満足のいく内装。
ところどころハロウィンを意識した飾り。

「おお、凄くハロウィンだ」

「ハロウィン自体の歴史はそこそこあるがここまでサブカルに起こし込まれたのは最近。まだついていけてる気がしないけどな」

「私も見ているだけだが、良いイベントだと思うよ。クリスマスもね。見ているだけで楽しいよ。ケーキを買ったりするんだ」

「1人でか?おれを呼べば良い。次は呼べ、必ず」

「え?忙しいのではないか?」

「忙しくない」

「ええ?そう?なら、君とクリスマスを一緒に楽しもう」

「ああ。楽しみにしておく」

「ハロウィンは用意してくれたからクリスマスは任せてくれ」

今からクリスマスの事を考えているのかいつもより3倍ニコニコとしていて、呆れる。

「今はここに集中しろ。もう11月とはいえ、な」

「そ、そうだね。うん。うん、わかってるわかってる」

分かってなかった返事に、くくく、と笑う。
自分の思考に忠実なところ、好きだぜ?

「お菓子を用意してある。特に、お前専用だ」

「それは嬉しいことだ。人類はまさに天才的な進化を遂げた」

「まあ、そりゃな。平安とかに比べれば上手くなったものだ」

「あれはあれで思考を巡らせていたよ」

「殆ど砂糖の塊か、餡子だった」

「固かったけど、美味しかったよ。あんまり思い出せないけど」

「脳が否定してるだろ、それ」

「さ、さあ?ちょっと考えたくないかな」

誤魔化す態度にさくさくと進む。
目の前に広がるのはお菓子のバザール。
その光景に彼女の目はこれ以上ない程キラキラし出す。
それを用意した手間を考えるとやって良かったと自己絶賛した。
彼女をテーブルまで行かせると全て食べても良いんだ、と誘惑。

「!ーーあ、そうだった」

「?」

相手が居住いを正す。

「トリックオアトリート」

「は、フフ。そうだったな。忘れるところだった」

「ええ?忘れるなんて面白い事を言うね。これを用意した側なのに」

「お前が来るからそっちに気を取られててな」

「わ。もう。なんだか胸がいっぱいだ」

「お菓子はもういらないくらい?」

「いいや!いる。居るともっ」

意地悪な視線に負けず、はっきりと意志を誇示する。
美味しく食べるためにここまで仮装をしてきたんだ。
笑みをさらに深くして「早く食え」と皿を渡されて甘い香りにうっとりした。



***

クリスマス番外編


しんしんと降る雪を彼女はマイコタツの中で過ごしていた。
その正面には当たり前のようにローが我が物顔で鎮座。
ここに来て暫く経つが晴れて自由の身となった男が居座らないわけもなく、今日もこうして部屋へ居た。
何故自分のうちに帰らないのかという疑問は魔法使いにとって愚問なのだ。
私も気にならないのでお互い特になにか思う事もない。
それよりも今大切なのはどうこの季節を過ごすか。

「日本のみかんは美味い」

正月を共に過ごそうと約束してから必ず正月前に居座る彼は律儀なのかもしれない。

「ふふ。だろう?自慢さ」

「お前が自慢げにするのか?」

彼は愉快そうに笑みを作る。

「私が細かな危機を取り除いてきた」

「ああ。ワシが育てたってネタか」

「そう。ワシが育てたってネタ。君も育てたから分かる筈だ」

ローはその仕草に脳内で可愛いを思い浮かべた。
この温い空間が愛おしくて手放せない。

「ところでクリスマスはどうする」

「どうするって?特に何かをすることなないよ」

「折角のイベントなんだぞ。乗っかれ」

「とは言ってもねえ」

うーんと顎に手を添えて感慨に耽る。

「ハロウィンと違って参加するってものじゃないから」

「おれがお前のサンタになってやる。欲しいものを言え」

「与えているセリフに聞こえない。どたらかというとカツアゲに聞こえる」

「どっちでも構わないだろ」

「君は少しせっかちだ。考える時間くらいくれてもいいだろう」

「分かった。思い浮かんだら直ぐに言え」

「当然だ。私達は親友だ。いや、盟友?」

「どっちでもいい。差はないだろ」

「そうなのかな?良く分からないけど、分かった」

男は女の煮え切らない顔に苦笑していた。
今になっても言い方に拘っている。
もう言葉にならないくらい長い時間を過ごしているというのに、言語にしようとする様子は人間のように見えた。

「考えたか。欲しいものは」

「そう、だね……すでに自宅にあるから欲しいものはないけど、でも生物ならあるかも」

「生物か?食べ物か?」

「うん。でも食べ物ではないよ」

「そうか。言う気になったら言え」

「いやいや、今言うから」

「ああ」

もじもじする相手はやがて重い口を開く。

「夏になったら祭りに行かないか」

「ーーそれが、願いなのか?欲しいものだぞ」

「私達には魔法がある。欲しいものは手に入る。でも、君はどうにも出来るものじゃない。だから、約束しておこうかなって」

純粋に誘ってくれている女にローは目頭を押さえた。
なんだこいつ。
魔法使いは魔法がなくてもあっても叶える気で欲しいものを聞いた。
それがよりにもよって己との時間。
自分はもうドラマの最終回のその後にいるのではないのかと錯覚してしまいそうになる。
落ち着け、深い意味はない。
長年、物言いで振り回されてきたのだ。

「意味分かって言ってないだろ。適当な言葉を言うな」

早口になる事で心理を整えた。

「君と過ごしたいなと思ってたから適当じゃない。恐竜時代や文化時代までは共に居ただろ。急に来なくなったからそういうものかと思ってね、あまり誘うのも悪いかなと思って」

「おい、誘えよ。知らなかったことをいきなり言い出すってなんだよ」

遊びに誘いたかったと言われてしまいさらに肩を落とす。

「遅くなってごめんよ。だって、忙しそうだったもので」

「忙しくない。お前のためなら」

「私の為なら?」

きょとっとした間抜けな瞳で見られて途端に羞恥心が浮上してきて言葉も続かない。

「外に出て兎に角歩くってのはどうだ」

「良いけど。寒いよ」

「魔法でもなんでも使って暖まれ」

「わかった」

いきなりの提案に彼女は不思議そうに頷く。
嫌だとコタツに篭られたらローは少し落ち込んだかもしれないので、断られなくてよかったと安堵。

「行くぞ」

さくさくと玄関へ向かう彼の背中を追う。
すらりとしていて折れそうだ。
それはお前だと言われることをぼんやり考えて寒空の下を行く。

「もう雪も降りそうだけど、歩くの?」

「ああ。クリスマスっぽいことをしとく」

コンパスという表現も古いのかもしれない。
兎に角足が長い。

「どこまで行くの」

足の長さや身長は魔法で変えられるのだが、長い間この姿で居るから、この姿でいる。

「おい、ボサッとしてると転ぶぞ。前を向け」

背中ばかり見ていたことがバレた。

「アイスクリームを食べないか?」

某アイスクリーム専門店に誘う。
しかし、ローは寒いのに食うのかと笑う。
寒いけど急に食べたくなったんだ。
イタリアでジェラートを食べた事を思い出したから。

「何味が良い?ここには30種類以上あるし、期間限定もある」

「バナナ味で良い」

「私は期間限定にしよう」

2人して入ると視線がローへ向かう。
主に女性からだ。

「ふふ。ローは少しずつかっこいい姿に調節していたね」

「自分らしい姿でしっくりを求めたらこうなった」

「モデルの雑誌でも見て姿を変えたのかと」

「モデル顔はおれが先だったんだ。アイツらは後継達だろ」

地球ができる前は、私達は特にこれといった姿は固定してなかった。
今はどちらも気に入った姿になっているよね。
店員に持ち帰り用を伝えて、あと数日は楽しめるぞとにんまりする。

「他に行きたいところはあるか?レストランなんてどうだ」

「レストラン、か」

「クリスマスだしな。スペシャルメニューでもあるかもしれないぞ」

「そうかな。でも、帰って親友とアイスを食べたい」

ローはぴくりと反応して、グレーともブラウンとも違う瞳は外を見る。

「映画は何にする」

「うーん。すず○の戸締り」

「クリスマスになんも関係なさすぎだろっ」

くくく、と笑う男は監督映画シリーズだな、今夜はと家へ向かう。

「金曜ロートショーでも冬のものを流すのに、お前ってやつは……」

暫く声を震わせて楽しそうだった。
上映時間が8時間を経過した頃にはアイスクリームの半分が消えていて、ローも最早何を見ているのか分からなくなっていた。
それは楽しくて、こんなことならもっと早くクリスマスを提案しておけばよかったな、とピーマン味のアイスを食べる相方を見守った。



***



番外編





今現在、春も近くなってきた2月。
何故正月編ではないのかというと、イベントはあったのはあったが、お詣りに向かったら5円玉を入れて手を叩き願いを心の中だけで述べていると、社の方向から「そならの方が叶えられるぞ」と聞こえた。
まあ、それだけだ。
実にシンプルにそれだけ。
ローも一緒に居たのだが「事実だしな」と悪い顔で社の方をドヤ顔をした。
正月に起きたことはそれくらいである。

2月といえば目立つイベントの話に移ろう。
ずばりチョコレートだ。
この国に住んでこそ美味しい思いが出来る。
チョコレート商戦に乗っかる。
全力でね。

「安くて美味しいなんて、幸せだ」

んー、と店のチョコを物色して買い込む。

「ねえ、告白しなよ」

「えええ?嫌よ」

横から聞こえてくるバレンタインらしい声にドキッとなる。
愛が今にもふわふわと漂ってきた。

(告白。愛を伝える儀式)

古くからある儀式が時代と共に変化して、今ではチョコレートを渡すというものになった。
海外では物を渡すらしいとテレビで見た覚えている。

「ローは欲しいだろうか」

ハロウィンやクリスマスを一緒に楽しんでくれたから、なにか渡したい。
となれば、その日はとてもタイミングが良いようだ。
深く思案した末に女はプレゼントを吟味し始めた。
彼はクールなカラーイメージだから、青が良いかな。
青とは男の子のイメージカラーに使われている。
でも、バレンタインはレッドを推しているのだし、悩む。

「ね、ね、あの人かっこいい!」

「え?あ、本当」

横で女性達が騒いでいたが魔女は選ぶことに夢中で気付かない。
コツ、と目前で音がしてやがて、声を掛けられた。

「随分と悩んでるみたいだな」

「……青、赤、黄色か」

「魔女、お前だお前」

そっと肩に触れられてパッと見遣る。
おや、我が友ではないか。

「ローじゃないか。どうしたんだい」

「ずっとそこから動かないからなにかあったんじゃないかと思ってな」

世間的にはとてつもない言動だが、地球が出来る前からの付き合いなので特に思うこともなく、すんなりと彼女は答えた。
どの色にしようかと悩んでいるうまを伝えた。
あげる相手に聞いた方が手っ取り早い。

「ローは何色が良い?君にあげるチョコを悩んでいて。決めてくれ。それを渡すから」

「斬新な方法だが、お前らしいな」

苦笑したあと嬉しそうな顔でオーラを撒き散らす。
周りにふわふわとしたものを浮かべ、それが周りに影響を受けて女性達の恍惚とした顔になる。

「あの人に告白しようかなあ」

「私も」

「悩むわ」

「渡すだけでもかなり伝わるわよね?」

愛の気配にローはハッとなり気配を遮断した。
あぶねえ。
思わず、ふわふわとわたあめのような気分が漏れていた

「色はお前の好きなもので良い。欲しいのはお前からの気持ちだ」

「おや、ロマンチックなことを言うじゃないか」

可愛い事を言ってくれる相手に微笑む。
黒い相手は照れた顔で煩い、と言い捨てた。
言われた通り自分の好きなチョコレートを選ぶ。
レジに持っていくと流れるようにローが払おうとするので慌てる。
渡そうとするものに払うなんて変だと指摘すると彼も同感だと思ったのか手を引っ込めた。

「つい癖で」

店を出て、ローが近くのカフェに寄ろうと誘う。
魔法使いは彼女がカフェに居る姿が映えるので見たいだけだ。
何処にいても映えるが、間近に見えるような位置に居たいのだ。

「ロー、カフェでなにを頼むんだい」

カフェはここ最近出来たものだからよく知らないけど、オシャレだ。

「コーヒーがメインだ」

「ふむ。コーヒーが好きだよね君は」

「良い発明だ。アメリカに持ってきた甲斐がある」

ローも気に入ってもっと美味しくするために発明大国に持ち込んだ。
それがここまで広まるなんて思ってなかったが。
コーヒーを注文するのを眺め、さらにメニューにある食べ物も追加。
最近のカフェは本当になんでもある。

「ご注文の品をお持ちしました」

テーブルに置かれたものを寄越され、ぱくりと食べる。
ヘルシーとメニューに書かれていたのでヘルシーらしい。
ヘルシーとはなんだろう。
人間もわかってない節がある。

「ローは食べないのか」

「コーヒーで良い」

「カフェに誘った本人がそれだけなんて変な利用の仕方をする」

「お前と単に入りたかっただけだ」

客層は若い人が多い。
不思議な呪文じみた注文をする言葉が聞こえてレジを見た。
なんちゃらフラペチーノ。
なんちゃらなんちゃら。
彼らは最近私に理解できない言葉を作る。
しかも、流行り廃りが早過ぎる。

「ケーキはうまいか」

「うん。美味しい。シンプルだ」

「チェーン店だから味は保証されてる」

「そうだね。チェーン店というシステムは良いものだ」

「マクトナルドとかな」

「素晴らしいよね。ポテトはふとした時に食べたくなる。真夜中など」

期間限定のバーガーだって美味しい。
美食の日本のものとはまた違う味は私を虜にする。

「お前の美味しいものの探究心には驚かされる」

「ふふ。マンモスを食べようとして返り討ちになったあの日の私ではないのだよ」

「1999年に1999年納めパーティをやりたいっていってたな」

「ノーストラダムスには皆混乱していたね」

「あれは集団パニックだ。どこに責任の所在を突きつければ良かったのか2人で議論したな」

「新聞もずいぶん煽ってたよねえ。酷いものだ」

「いつも人間は同じ人間を貶める」

ケーキをパクつき、ぺろりとクリームを舐める。

「2000年代もいろんな事件があったけどね」

「しばらく安定しなかったな。自分から首を突っ込んでいるイメージしかないぞ。人間は」

「そうだね……」

目前の友達は少し悔しそうにしている。
なにかを悔いている様子。
己に言えない何かがあったのだろう。

「落ち込まないで。せっかく今を生きているんだ。ほら、私はとても楽しいよ。バレンタインを友達と過ごせる幸運な魔女だ」

冗談っぽくウインクをしようとしたが、やり慣れてないので変な風に目を閉じた。
ううむ、無理だったな。
ウインクが出来る人が羨ましい。

「お前はいつでも楽しいやつだ。最高だよ」

「ありがとう。自他共に認められたようだ」

ローと私は笑い出して止まることはない。
カフェではあるが魔法で防音を施してある。
笑い声は漏れることもなく、存分に肺を動かせるというものだ。

「もぐもぐ。うん。ご馳走様」

「次はラーメン屋にでも行くか」

「ラーメンに目をつけるなんて分かってるじゃないか!」

日本はラーメンもおいしい事で有名。
他の国の人達も現在大注目なのだとテレビにあった。
テレビが言うならそうなのだろうね。

「そっか」

「なんだ」

ぽつりと言うだけで即反応してくるのはいつものことなのだけど、私に飽きないのだろうかと質問するのは流石に無粋かもしない。
聞きたいけれど、こういうのって聞かない方が良いのかな。

「ねえ、ローは何味を食べる?」

「味噌」

「ここにきて、日本的には紹介しない味にしたのだね」

「好きだぞ結構。味噌カツも最近海外じゃ人気だし」

「美味しいよね。私も好きだ。名古屋に行こう、今度」

「お前の今度は何十年後なんだろうな」

「下手をしたら100年あるかも」

「名古屋が名古屋じゃなくなってるかもしれないから、早めに行くのを計画しておけよ」

呆れた顔で言うから、からかいが止まらない。
いつまでも永遠にこうであればいい。
ありし日を思い出しながら、未来に馳せた。


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