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帰りたい/妄想


帰りたい。

目の前で激しくやり合う男子学生達を呆気に見ながら切に想う。

一つの漫画の設定に付いて頭が記憶として思い出す。

その漫画はよくある異能バトルの漫画だ。

設定をとっても全てありきたりのなく、オリジナリティもない。

ただ異能バトルを使って喧嘩をしているだけ。

それを先生目線で見た時、その子達は単なる問題児になるというのを知って絶望した。

その先生こそ、私なのだ。

呆気なく、なんの感想もなくサラッと転生していたことはこの際どうでもいい。

問題は目の前に居るクソガキ共だ。

わーわーと野次馬が集うところで喧嘩をしていて、入学から数え切れぬ騒動を引き起こしている奴ら。

退学も視野に入ってるとの噂がある。

学校も手に負えないのだろうな。

「いい加減にしなさーい」

青筋を浮かべつつ、穏やかーに注意する。

ーーゴン

「う」

真横に伸びていた腕が通る。

もう少しで当たるところだった。

「はあ……やるしか無いか」

手を振って異能を発動させる。

ーーウィンドウィップ

シュルル、と地面から黒い紐が伸びて二人の生徒をぐるぐる巻にして拘束する。

本当はこのまま締め上げて一週間学校に貼り付けたい衝動にかられるけど、なんとか抑える。

そんなことをしたらPTAになんと言われることが。

文句だけはいっちょ前で現場に丸投げな無能集団に今や成り果てた。

「ぐあっ」

今では声だけデカくて目障りでしかない。

「いだー!」

異能を良く知らないまま、危険に晒されていることなど知ろうともしない。

「やべ!黒帯の先生だ」

二つ名を叫ばれ、そちらにも注意する。

「そこ。私ことはちゃんと名字と先生をつけて呼びなさい」

指摘するとそそくさと去っていく生徒。

嫌ならモラルとマナーを守れ。

注意するこちらも人間なのだから。

拘束系の異能なばかりにババを引いていく役目なのだ。

嫌われ役なんて誰だって嫌ではないか。

好きでしていることでもないのに、変な目で見られるのは気分が悪い。

職員室に戻るためにてくてくと進む。

丁度給油室を通る時、グイッと手を引かれて中へ引き込まれる。

こういうのは壁などにぶつからないように計算されているのかと内心考えた。

普通、腕を引いたら抵抗力を感じてズレると想う。

「先生。待ってたぜ」

「こういうのはやめなさい」

学生服に身を包んだ生徒が立っていた。

「別に良いだろ。それに、見られたくないんならこういう方法しかない」

こんなに馴れ馴れしいのはお隣さん兼幼馴染だからだ。
彼こと、ローは異能に目覚めたのでこの学校に入った。
偏差値の低い学校で、ローならばもっと上の偏差値の学校へ入れたが、家が近いというだけで入ったのだ。
まさか、入るとは思ってなかった。

「ここは学校なの。公私混同は駄目」

「色恋に関してなゆるいって専らの噂だがな」

「それに関してはなにも言えない」

この世界、能力者が欲しいからと能力者同士の関係について、やたら推奨されている。
保証、助成金なんてのも用意されているのだから、無言の圧力すら感じていた。

「おれがお前に手を出しても咎められない」

いや、普通に咎められますが。
人権も守られているしね。

「咎めるとしたら、先にローの親かなぁ?」

いつまでも仲の良いトラファルガー夫妻を思い出す。

「やめろ。お前には心はないのか」

「年上のおねえさんを襲う子に、慈悲はない!」

はっきり告げると舌打ちをしてローが腰を離した。

「同世代と愛でも育くめば?」

「するわけないだろ」

ローは学年でかなり優秀だからかなりモテてる。
それに、異能も強いのでかなり将来を期待されていて、所謂玉の輿だ。

「おれはお前と結婚する」

「私はもりもり仕事したいから結婚は考えてないよ」

「しときゃいいだろ」

しときゃとかいう軽いもんじゃない。
少なくとも私の倫理観は許さん。

「アナタはまだ子供。私は死んでも手を出さない」

教師としての義務。
いや人間という存在のなにかを失うわけにはいかない。

「お前、たまにそれ語るが、変人って思われるだけだ」

「ふん!好きによべば」

そんなもん、お腹だって満たさない。
視界の外にキスしている生徒と美術担当の先生が入る。
奥歯を噛み締めて怒りを抑える。

「あの、男」

(いつも病弱アピールしてるくせに!)

わかってる、この世界じゃ生徒と先生の組み合わせは倫理的にも許されているということに。
見ているとグギっと無理矢理顔を反対に向かせられる。
痛む首に涙目で犯人を咎めた。

「他の男を見てるからお前が悪い」

悪くないという態度でこういうことをされる。
く、年下やるな。
若いから突っ走れるのかねぇ。
爺臭い事を考えしまう。

仕方ない、価値観も倫理観も違うもの。
生徒で未成年なんてゴメンだ。
ぜっったいに嫌だ。
流石に親も嫌がる私に対して配慮してくれると願う。

追い詰められた動物みたいに端に寄せられて、ローは手を横についている。
でも、成長期途中なのでこちらよりも背が低い。
ちょっと閉まらない。
こういうの漫画だったらうまくいくんだけど、現実だからシビア。
可哀想なような。

いやいや、ローはこちらを意気揚々と狙っている。
下手に優しくするとつけあがりそう。
睨みつけても無意味らしいので諦める。

ちゅ、と音がして気付いたら肩を捕まれ変な格好で鼻に唇が。
うわあ、と妖怪を見たような声をあげた。

「いやだッ!私は犯罪者に成りたくないいいいい!」

いつもそのことを言っていた事を知っているローはハイハイ、と聞き流す。

流せる問題じゃないだろ。

グーパンで殴ってもいい法律が出来ればいいのに。
寧ろなんで殴るのは駄目で恋愛はありなんだ。

倫理観がない世界なんて嫌い。













今の状況は泣きたくなるし、逃げたくなる。

「う」

「まだ動けるのか」

散々逃げ回って、必死に足掻いた結果……捕まった。
なぜ彼が私に執着するのかは本人のみぞ知る。
リーシャからしたらしっかり船長と呼んでいるのだが時々彼に「甘ったるい呼び方をしてる」と指摘される。
なんのことだかちんぷんかんぷん。

今は戦いの手ほどきとやらを受けている。
戦闘員ではないので付け焼きレベルなんだけどな。
お願いとも頼んだことはないんだけど、どうして地に押し倒されないといけないんだ。
理不尽にも程がある。
そもそもの話、私は一度も海賊になりたい、と言った覚えなんてない。
乗りたくない、それ一択。

「降りる。船、降りる」

「降ろさない。却下」

「私のことなんだから私が決めるっ」

キッと睨みつけるが格好のつかない姿なので怖くなどないだろう。

「……立て」

「嫌!どうせさっきみたいに訓練とか言って私を虐めて楽しむつもりなのはお見通しなんだから」

パッと立ってローから離れる。
最初はそりゃ、期待にワクワクしてさ……私が未来の猛者を間近で見ながら幼なじみ枠で見られるのだと希望に満ち溢れていた。
でも、こんなの嫌だ。
思っていたのと違う。

一切の感動的なエピソードもなく、淡々と冷えた目で見られるような、足手まとい枠のまま。
しかも、海賊になるつもりもないのに無理やり乗せられて、強制的に肉体指導を受けるんだったら、最初から他人の状態で放置していた。

トラファルガー・ローと出会ったものの、パシリなんてごめんだ。
彼は準メンバーの活躍をするというだけの人だ。
私が居なくても生きていける大人。
なぜ居合わせただけの素人をここまで扱くのか。

「私が嫌いなら言えば良い!私もお前が嫌いだから!」

捨て台詞を吐いてあてがわれている部屋へ行く。
擦り傷が痛む。
一度生まれ落ちた身なんだから、もう一度転生出来ることにかけてみるべきかも知れない。
海に飛び込もう。
どうせ期待していたことにならないのなら、ね。

と、膝をかかえて真剣に検討している間に夜になっていて、横から人が現れた。
さっきまできついことをしていたご本人様。
なにしに来たのだと睨みつけたが、彼は無言で顎を支えてゆっくり口づけをした。

いつもそう。
なにをしたいのか未だわからない。
そのままシーツの上に重なる。
受け入れるのは単に拒む理由もないから。
向こうも深く考えてはいまい。
便利とでも思っているんだろう。

甘えられているのに感じるのは妄想なのか、聞くことはない。


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