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四天王の彼


勇者ではなく戦隊ヒーロー達が破壊の邪魔をする。

自分はダークサイドのしたっぱがお仕事なので足止めを役だ。

慣れた手順で相手を撹乱させていく。

したっぱゆえに個性などありはせず、黒いタイツに仮面をつけている。

くそ、と悔しがる敵が居て、どこか他人事に感じる。

今日はダークサイドの四天王が居るからてこずっているみたい。

そして、四天王トラファルガー・ローに見惚れる戦隊ヒーローのピンク。

男はかなり顔が整った部類に入るので見てしまうのだろう。

ちらり、と四天王がこちらの戦況を僅かに一別してから戦隊ヒーロー達に必殺技を出される前にこちらの必殺技を出す。

毎回負ける要因を分析しているだけはある。

「これで終わりだ」

戦隊ヒーロー等を動けなくさせてどこかの施設を破壊した。

それを悲痛に見るしかない男達。

ピンクはそんなことになってもローを黄色い視線で見ていて、平和を守るつもりなんてないのだなと共感した。

仕事を終えてロッカールームを出る。

あの黒いタイツの衣装、着やすくて脱ぎやすいので助かっているとぼんやりしていると、曲がり角になにかとぶつかる。

「いった」

こちん、と鼻をぶつけて悶絶。

顔を涙目であげると四天王だったので土下座する為に膝を曲げる。

「ひ、すみませんっ」

最高幹部とぶつかっちゃった。

しかし、相手はなにも言わずこちらをただジッと見ているだけ。

大変、謝ったのに許してもらえない。

どうすれば良いのだ。

困っていると時の人、ローは徐にリーシャの手を掴むので心臓が痛い。

え、なに?

グン、と手を引かれて歩き出す相手に足をもつれさせてどこかの会議室に連れ込まれた。

ばたんと閉まる扉の音に汗をかく。

密室。

それだけで緊張する。

怖いようなおそれ多いような。

「あ、あの」

「前から思っていたが」

こちらがなにか言う前に低い声音に遮られて喉が鳴る。

な、なにを言うのだろう。

「あのタイツ、胸を強調し過ぎてる」

「……へっ?」

なにを言うかと思えば、タイツのクレーム。

え、なに、なんなの。

「それに、てめェ」

「ふへ」

そして、突然の個人指名。

「おれを誘惑してるのか」

「し、してないです!」

別に秘密でもなんでもないけど、ローと私は昔からの顔馴染みだ。

ローは良くお前は恋人なんだと言うが、そのふわふわした関係の為に自分ではそうと感じたことはない。

かなり俺様な男にこんなしたっぱが恋人とか。

釣り合わないし、重荷だ。

しかし、手放す気配もなくこれまでこうして度々独占欲に当てられる。

あと、胸のことに関しては多大なる勘違い。

「あ」

誘惑について否定したのに熱の籠った口づけをされる。

ん、んと息を吸いたいのに肝心の息が吸いにくい。

だから苦手だ、この行為は。

「は、ぁ、もう、無理」

熱のある瞳が見ているが気にしている余裕もない。

余裕もなく必死なので苦手。

顔を離すローは息の上がって腰をふにゃりとさせた女を見て、内心舌なめずりする。

それを悟られぬ様にして素知らぬ顔で提案した。

「介抱してやるから部屋へ行くぞ」

「解放?」

聞き間違えである。

解放してくれるのなら部屋くらい何度でも行く。

しかし、部屋へ行って静かに過ごせるのなら自分の好みの雰囲気になるだろう。

頬を真っ赤にして頷くのでローは悪い笑みを浮かべた。


***


解放してくれるって言ったのに。

裸がシーツをおおうが、心は常にそれを唱えていた。

反芻させるとやはり彼はそう言っていた。

しかし、一向に解放なんてしてくれなくて疲れることをされる。

まったりとした空間が良かった。

こんな汗臭いのは嫌だ。

お腹に回る腕が生々しくて退かそうとするが男女の差で解けない。

「水でも飲みに行くのか」

寝ていたと思っていた上から声がかけられてびくりと震える。

「帰り、ます」

「帰る?」

返しと共に腕の力が強まり、ダイレクトに皮膚へ伝わる。

「こ、こんな、こんなつもりじゃなかった、です」

「したくなかったってか」

「し、したくは、なかったです」

するしないの台詞に恥ずかしさが走る。

良く彼は言えるとデリカシーの無さに悲しく思う。

「自分の女を可愛がってなにが悪い」

「!、私は別に、ローくんのものじゃ」

「……はァ」

溜め息を吐かれてぐっと奥歯を噛む。

面倒言うなと無言の圧を受けているのだ。

するりと手が這うので息を詰める。

「な、やめ!」

「なァ」

こちらにくるんと正面を向かされて、目を開く。

逞しい体と顔が見えて目を反らす。

こんな関係になりたかったわけじゃない。

ただ、傍にいられれば良かった。

なのに、男はそれで満足しなくて。

無理矢理体裁を整えられて戸惑ったのに。

「なにが不満かは何となく知ってるが、お前は自己評価が低すぎる」

「評価が」

「同僚や先輩に猫可愛がりされているのに自信がつかねェのは謎だ」

「そんなこ」

話している最中なのに唇を塞がれて発言を最後までさせてもらえず。

ふやけるまで止めてくれなくて生理的涙がこぼれていく。

「ん、いや」

「欲しそうにしてる」

言葉で攻められるのが苦手なのにあえて言葉にして羞恥心を煽る。


***


素敵なカフェを見つけたので気分良く歩いていた。

古民家カフェというらしい。

侵略者としてはそこは破壊しないで欲しいと願っておくばかり。

どういう基準で破壊しているのかはしたっぱゆえに知らないまま。

そういうのって組織ならではのもの。

世知辛い。

コーヒーも美味しくてつい長居してしまった。

組織の寮に行くといつもお世話になっている女先輩と会う。

こちらの機嫌が良いことに気付いて朗らかに話しかけてきた。

「あら、今日も可愛いけれど、なにかあったの」

「はい。可愛いカフェを見つけまして」

「良かったわねぇ」

さらりと頭を撫でられて頬を緩める。

ローは可愛がられていると言っていたが、こういうところなのかな。

ぼんやり回想していたら今からクッキーを焼くのだと話題が移る。

片思い中の彼に渡すのだと言う彼女がひたすらかわいくてかわいくて。

美人なのに優しくて好きだな。

一緒にクッキーを作ることになって、何時間も共に居てとても楽しかった。

カフェを巡り先輩と作って今日はなんて良い日。

部屋に帰ってテーブルにクッキーを置いて着替える。

あのクッキーを明日のデザートにしよう。

そう計画を立ててリビングに行けばたった数分なのに椅子に男の気配があり、クッキーを手にしていた。

合鍵も渡してないのにどうやってか入ってこれるのだ。

「あ、そのクッキーは」

「なんだ」

「わ、私のです」

明日食べる為に置いておいたのでローに食べられては敵わない。

慌てて取り戻しに近くへ行くと男はクッキーを再び見てリボンを解く。

あ、と声をあげる。

なにかを思い付いたように笑みを浮かべる。

食べられたくなくてこちらはハラハラしているというのに。

「食べられたくないのか?」

「はいっ」

食べないでほしくて必死に頷く。

一瞬口をへの形にしたが三日月に戻る。

「じゃあ、もっと近くに来い」

「え」

自分から寄るのかと胸に手をやり、怖じける。

どうした、返してほしくないのか。

と、彼は笑う。

この所業が恋人と唱える相手にすることなのかと疑問になる。

いじめッ子なところのある人だから誰にたい

してもこうなのだろうが。

男はテーブルに座ったままゆびを動かして来るように指示。

それにゆるりと足を前に進ませ、目前まで来てから彼はここに乗れと膝を叩く。

今日はズボンで良かった、じゃなくて。

いきなりの指示内容に赤面。

膝の上、出来ないと首を振る。

「お前の意思で乗るんだ」

クッキーを掴むので目で追う。

少しずつ口元に近付けるので潤む瞳を感じて鈍くなる体を動かす。

こ、こんなこと。

クッキーを諦めたいがせっかく作ったもの。

諦めがつかなくて男のふとももに足をかけて昇るように力を入れる。

「前向きか」

予想してなかったと呟き、キツく目を閉じたローは目を開くとクッキーをテーブルに置いた。

後ろで座ってしまうかと思っていた。

まさかの正面に胸に手を置いて距離が縮まる。

「これで、良いですかっ」

恥ずかしいのか瞼を震わせる。

「キスしてくれ、とねだれ」

「えっ、そんなことっ」

「クッキーを奪われたくないよな」

「は、はい」

「それか、お前からしてくれるんなら免除してやっても良い」

免除とは、の意味を深く調べたくなる。

でも、恥ずかしいのなら自分の手で済ませた方が余程マシだ。

ローは彼女が自分からする方を選ばないと思っていたが誤算だった。

「し、します、やります」

唐突に勇気を出したリーシャに珍しくローは押され、勢いで目を閉じるように言われて素直に閉じてしまう。

しかし、閉じる必要はないと思ってあけた時には彼女の顔が今にも迫っていて内心唸った。

「あ、開けないで」

トマトみたいに真っ赤になられて、ローは衝動的に抱き締めていた。

「きゃあ!」

驚異的な身体能力で女の寝室へ行き、唇を食みいつもよりも勢いのある姿にクッキーのことが頭の片隅に過る。

冷蔵庫には入れたかった。


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