×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 
リスの木漏れ日(後編)


トルカは自分を引っ張ると自室に引き込んだ。
眠りの歌の代わりに物語を聞かせると、すうすうと寝息が聞こえる。
まだ甘えたい盛りなのだ。
寝入ったのを確認してこっそり抜け出し彼らの元へ行く。

四苦八苦しつつも看病している。
くまも男の子もまだ目を覚ましていないようだ。
スッと水入りのコップを差し入れると警戒しつつも受けとる二人。
そもそもなにかをするつもりなら見捨ててることをこの人達は忘れてないだろうか。
水を飲ませる男達に危ない手つきだと判断する。
下手に手伝うと良からぬ警戒心を抱かれるに違いないから手伝わないけど。
今はそっとしておいて好きにさせておけば良い。
本当に手伝うのは向こうが望んできたときくらいだろう。

見守っていると片方が余裕を持てて来たのか質問をしてくる。
ここはどこだとか、名前はなんだとか。

「名前は、貴方達から教えてくれないかな?」

突然質問されてもと、こちらが受け身ばかりでなく、責めてとして口を開く。
ある程度情報を教えたから向こうも理解してくれていると良いが。

「命を助けてくれんだっけな。おれはシャチ」

「ペンギンだ。ありがとう、助かった。」

どうやら敵ではないと思ったらしく、素直に話してくれて安堵。
これでちくちくなにか言われたらうちの子が外に放り投げるかもしれなかったから。
名乗りあった後で、なにがあって浜に打ち上げられたのかということを聞いた。
聞いておかないとどうすればいいのか分からないしね。
彼らは船で海へ乗り出したは良いが、嵐に巻き込まれて難破したのだと。

「教えくれてありがとう」

命が助かったのは奇跡だろう。
こちらが礼を述べた途端みるみると目を驚愕に染めるしぐさが何とも初々しい。
こんな風に言われたことがもしやないのだろうか。
介抱を手伝うと申し出てぎこちなく頷く男の子達に新鮮な気持ちで笑みを渡した。


介抱して3日後、遭難した全員が漸く目を覚まし、熱が出たりと忙しくしている内に二週間も時間がかかってしまった。
長居されても構わないが、ここまで長く他人が家にいるのは不思議なものだ。
トルカもイライラすることなく、人が居る空間に慣れつつある。
完全に歓迎することは今のところ無さそうだ。
それでも、一応面倒は見てやっても良いという範囲にはあるよう。
なにか聞いてきても最低限の言葉を交わしている姿も見る。
彼女にとっては客のような感覚なのかも。

彼らはいつ去るのかと様子を見ていると船を作り出していた。
手作りの船で海を渡ろうと考えただけあって、反省しながらも作っている。
また難破するような気が。
全体的に緩い。
彼らはこちらで過ごすと殆ど船の工作に時間を裂く。
トルカが家のことを手伝えと不機嫌そうに呼びに行くのも恒例になっている。
居なくなるのはわかっていても居候の身なんだから、らしい。
呼びに聞くと素直に全員戻ってくるのがとても不思議だ。
言うことを聞く必要がないと自分は思う。
己たちだけに考えれば優先は船だろうから。

帰ってきた子達を眺めて夕飯を並べる。
夕飯の席で口を開いたのはずっと警戒した目を向けていた最後まで寝ていた男の子。
名前はトラファルガー・ローという。
この中でこれでもかと疑り深い。

「いつからここに住んでいるんだ」

「今更。言う必要はない。去る奴には無駄な情報」

こちらが答えるまえに刺々しい声をトルカがばら蒔く。
確かに今聞くには可笑しな質問をしている。
彼女の態度にローは睨み付けるので彼女も睨み付けてばちばちと火花が見えそう。
仲が悪そうに見えて相性は悪くなさそうだ。
口には出さぬが。
出したら二人して否定から入るのは経験済み。

「いつ出てく」

トルカが長居しそうな空気に耐えきれず質問する。
しかし、彼らはマイペースにまだ行かないなどと言う。

(これはフォローしなきゃ)

「ゆっくりしても良いからね」

険悪にならない程度に調整。
ロー達はその言葉に嬉しそうに顔を緩める。

「いてもいーのかっ」

嬉しそうに聞いてくるのでうん、と言う。
それよりも他人なのに良く何日も滞在出来るものだと思ってしまった。
恩人だと思っているにしても、気前良く過ごせるのとは別問題だろう。
まぁ、これは私の中の主観なので彼らの主観が違うのだろうけど。
滞在は良いが、彼らは旅に出たいのではと思ったが、船が上手くいかないのならなにも言うまい。
ロー達はそれからも住みながら船の準備をして試行錯誤しつつ、少しずつ完成させていく。
それをトルカと自分はたまに見ながら完成するのが待ち遠しくなる。

トルカもトルカで彼らを通じて交流を学び仲間のように親しくなっていく。
もう食べ物として認識することもないと思いたい。
ついに完成された船を披露すると招待され、広い海岸に着く。
船を見ると本格的ですぐに沈むことは無さそうだと安心。
前みたいな失敗はもう起こされたくない。
あれから親しくなって情も湧いてしまい別れが辛いが、別れもありきな出会い。
ここは友として迎え、手を振る。

「お見送りしようね」

彼女に言うとこくりと頷く。
船へ近付くと彼らも近くなる。
もう出るのかリュックを背負っていて今にも走っていきそう。

「もう行くの」

「ああ!」

「世話んなったな」

「キャプテン。どうする」

ベポがローに投げ掛ける。
それにローは今言うと告げてこちらへ向く。

「おれ達は海賊になる」

「あ、う、うん」

改めて言われて混乱する。
私に言う意味はないと思うのだけど。
そう思うがリーシャは揺れる。

「で、お前達も乗らねェ?」

ペンギンやシャチが口々に勧誘してくるので目を開く。
驚きに次の言葉が無くなる。
そんな、予定にもないことを。
断ろうとするとトルカが「ママと外に出てみたい」と初めて聞いた事を述べて閉口。
こんな風に思いを秘めていた等知らなかったので苦しくなる。
トルカだけでも外に行けるのに、自分もという気持ちに独り立ちをさせるぺきか。

「私一人はイヤ。ママとなら出ても良い」

「んじゃ、決まりだな」

シャチが決めるのでリーシャは咄嗟に私はと止める。
ローがお前はこのままここで死ぬまで居続けるのかと問われる。
元からそのつもりで住んでいたし、トルカを見つけてから余計にその意思も。
しかし、要のトルカは出ていく。
居続ける意味が無くなるのではないかと聞かれているのだ。

「仮の乗船ならどうだ」

ペンギンが条件をさらりと付ける。

「で、でも」

「乗ろうぜ」

「楽しいし」

最後にローは無言で意思を確認するつもりみたい。

「海賊になろーぜ」

ごり押されてトルカが一人前になるまでというあやふやな理由で乗ることとなった。


それから13年、降りれそうな気配は今だない。


prev next

[ back ] bkm