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かわいい王様


異世界にまで来たのは単純に自分だけの奴隷が欲しかったからだ。

己を常にヨイショさせるように躾る。
その野望の為にはと辺りをキョロキョロして居るとドクロマークの船があって、無法者ならば遠慮なく叩き落とせるなと加速。
船に飛び乗って相手が武器を抜く前に蹴りを放ち全員を無効化した。
最後の男がなかなかに粘る。
むう、こいつ生意気だわ。
眉間にシワが寄る。
最後の一撃を加えると周りが船長船長、と騒ぐ。
どうやらこの船で一番の偉いやつだったようだ。
それならそれで良い。
嬉しさに頬を緩めてつかつかと船長と呼ばれた男、というより少年の前に立つ。
虫の息の周りと違いこちらを鋭く睨み付ける男の子ににやりと笑う。

「今日から私がこの船のボスよ。そして、あんたたちは私の奴隷になってもらう」

その日、旗揚げして間もなくトラファルガー・ロー率いる海賊団は敗北後、乗っ取りを受けた。



***



船に団員たちが集まり、一様に一人の女を見つめてはこそこそと話し合う。
テーブル席にはゲーム用のカード。
そして、女の手には残り少ないカード。
女は不機嫌に顔を歪めて空へカードを打ち上げた。

「な、どうしてよ!どうしてこの私が負けるの!」

きーきーと喚くのはあの日、ボスになると宣言した女、リーシャ。
周りの団員たちは奴隷とされたが一人として悲壮感もなければ特に恨みを感じる空気ではない。

「そりゃお前が弱いからだよ」

へらっと笑って団員がいうが、その相手をぎろりと睨み付けていく。

「弱いのではなくてあんたたちがイカサマしてるからじゃない!よってたかって自分達のボスを嵌めるなんて奴隷として失格よ」

ふん、と息巻く女に周りはやれやれと思いつつ、全員でこの戦いだけは強いのにその他は極めて弱い女をよってたかって愛でるのと弄ぶのを楽しんでいた。
一味が全滅した日から既に何年も経過しており、このマウント取りと周りの認知欲求が高すぎる王女なリーシャのアホさは総員のしるところ。
命令したがり、認められたがり、頼られたがりと詰め込まれる人を模した女を生ぬるい目で見守るのがハート団の日常。
戦闘に関してだけは規格外だが、この船で王様になりたい女に関して既に愛玩の域に突入していた。

「負けたのか」

「あ、船長」

後ろからトラファルガー・ローたる男として成長した姿が現れる。
周りの船長呼びにリーシャが怒る。
船長は私よ、と。

「リーシャはボスだろ」

「船長とボスなの」

「負けた時のことはなにか考えてるのか」

リーシャを無視してやり取りされる。
その事にこいつらはいつも人をバカにしてと憤る。
自分が買ったらストリップしてもらう予定だったのだ。
ローに聞かれた団員はまだ決めてないですと答える。
おのれ、こいつらリーシャにはない敬い口調でローに言うとは。
自分を奉るべきだ。

「私が負けても買っても、私がルールだからあんたたちは負けー」

ぎゃはは、と笑う。
そういう幼稚なところが、と全員和む。

「そうか。じゃあ取り合えずお前は来い」

「お前じゃなくてリーシャ様って呼び」

手を無理矢理引かれて担がれて男の能力で男の自室に連れていかれる。
人に触る時は了解を得ろ。
むかむかする。

「ぎゃ」

どすん、とベッドに落ちる。
着地が重い。

「ローあんた、私にこんなとこするなんて奴隷の癖に!」

「取り合えずまだ罰は決めてないから待ってろ」

「待ってろじゃない、敬語使いなさい」

「うるせーんだよ」

と、何故か上を脱いだ男。
というか、うるせーとかなんだそれは。
ぶん殴ってやる。

「ふざけた言動はっ……うぐ」

仰向けにされて手を押さえ込まれたまま耳を舐められた。
こいつめ、奴隷の癖に主にクーデターとは。

「やめ、やめなさいよぉ」

ふがふがとなるが、最後まで言ってやった。
こんなことをするのはローしか居ない。
なぜローだけこんな風に自分にマウントを取るのか。
リーシャは精神的なマウントを取りたがる。
それなのに、こいつは卑怯にも物理的に支配下に置こうとする。
許されないこと。
リーシャはこの船の王である。
王が奴隷にくみされるなんて不祥事。

「ひ、ひぃ……!上に乗るなぁ!」

「別にお前が上でも良いが、対してなにも出来ないだろ」

くすりと笑われた内容に歯噛み。
負けたくせに、リーシャの温情だけでこの船に乗ったままなことを忘れているに違いない。

「私は忙しいんだからはなしなさいっ」

「忙しい、だ?なにが忙しいってんだ」

船の中のことはローが一番把握している。
なので、女がいつも暇をもて余して構いたがりが出てきてクルー達に突撃していることも勿論、把握。

「は、うぅん」

とろとろに溶かしたチーズのように熱を放出してくたりとなる女がバカでいとおしい。



***



今日は島に着く日なので楽しみで楽しみで仕方ない。
それを冷めたビールのように温い瞳で見守る面々。

「おい、隈できてんぞ」

「ぎゃはは!船長とお揃いにしたかったってかァ?」

日課のように彼女をからかう声。
ローは朝食後のコーヒーを飲みながら聞いていた。

「はぁ!?バカじゃないの!」

いつものように悪態をつきつつも、絡まれた事に嬉しさが滲む声音。

「砂の国なんていかにも冒険が詰まってそうじゃない!」

期待した目で語る女に周りはそうだなと同意。

「干からびたミイラでも襲って来たら楽しい絶対」

「「「楽しくない!」」」

ぎゃぎゃあと聞こえてくる声にローはいつもの光景として耳から通る。
砂の国では水が必要になりそうだ。
多目に用意しているが足りるかどうか。



リーシャはどういうルートで行こうかと悩んでいた。
遠目に見えるのは町だ。
シャチ等はなにも見えないぞというが、彼らの肉眼で見えたらそれは蜃気楼である。
さくさくと沈む足にたたらを踏む彼らを見て情けないわねと優越感に笑みがにやにや。
それになんだとこんにゃろーと言う男達。
少し進むと砂の上でも運べる動物が居て、販売でレンタルされている。
それは面倒だなとお金を使うのがもったいなく感じた。

「ねぇ、同じやつがあっちにいるから野良を捕まえてきてくる」

「野良って乗り心地悪そうじゃんか」

なにかブーブー言っているが、無視して野良を捕まえに向かう。
一瞬で後ろを取り野良の不覚を取り捕獲。
それに暴れていても気にせず操作して砂を巻き上げつつ進む。
一時間程乗っていれば乗れるようになったので下僕どもの元へ戻る。
全員ぽかんとしていたが喜びが顔に浮かびどや顔をせずにはいられない。
これよこれ!
やっぱり私は誰よりも一番!

優越感に浸っていると皆がぞろぞろと乗り出して、ギリギリだった。
狭いなもう。
ぎゅうぎゅうと狭い空間で操作してさっさと砂の国を遊泳した。町につくと砂の中で生きる生物は逃げたそうにしていたので自由にしてあげた。
皆はなんで逃がすんだというが、飼う事のできないものに責任など負えない。

「文句言ってねーで行くぞ」

騒ぐ男達を置いて先にいくのはローだ。
構っている暇はないと言わんばかりに先へ進むので慌てて追いかける皆。
リーシャものんびり追いかけた。
直ぐに追い付くことは容易く、全員の歩みなど遅いのだ。
そういうと皆怒るので優しい己は黙っていてあげている。
ローが初めに入ったのは歓楽街が見える方面だった。

そんなに遊びたいのかと不思議に思う。
そうしてついていっていると食べ物を食べる店に入るにでお腹が減っていたのかと、言えば良いのにと思わなくもない。
ローは基本的言わない事が多々ある。
そういうところも受け入れているので構わないような、言えよと思うことがあるので、やはり一概に言えない。
レストランに入ろうとして気配を感じて振り向くと男が立っていた。

「どけ、小娘」

「はぁ?」

なんだかやたら身長もなにもかも大きい男がやたら偉そうだ。
ムカついたので退かない。

「あんた誰ぇ?」

生意気なのでどうしてやろうかと思っていると男は目をスッと細めて砂にしてやろうかと宣う。
なにを言っているんだこの男は。
睨みあっていると呼び戻しに来た団員が声をかけてくる。

「おい、もう皆座ってるぜ〜……んなァ!?」

すっとんきょうな声をあげる下僕になにを驚いた声をと呆れる。
団員は興奮を隠しきれない。

「お、おま!その男っ!馬鹿野郎!離れろっ。てか、関わるな」

こんなに罵倒を受けた事があろうか。
いや、ないっ。

「なんですって!誰に口聞いて」

「もういい。邪魔だ」

男はスゥと横を通りすぎてレストランを右に曲がり見えなくなった。

「なんなのよもう」

喧嘩を売ってきたのかと思っていたのに。
団員は顔を青ざめさせてなにしてんだよ、と説教する。
どうやら今の男は元七武海らしい。
えっと、七武海ってなんだっけ。
異世界に留まる事も殆どなく、一定の世界のことなんて覚えていてもきりがないので、覚えたかったのだ。

「今のクロコダイルだっての」

言われてもぴんとこない。
例え勝負を挑まれても負けないのでもう忘れてしまおう。

「あー、確かにあんとき脱獄したな」

「なんのとき?」

「いやほら、あー、ぜってェ船長に怒られるな今の」

「一人で怒られてれば」

「怒られるのお前なっ」

「嫌よ。ていうか、私はトップなのよ!」

怒られるなんて可笑しいのだ。
レストランに入ると遅いと言われ、主役は遅れてくるのだと背筋をぴんと張る。

「船長実はですね」

団員が話すのを聞いて空気が緊張するが、どこかへ去ったと聞くと緩む。
そこまでの脅威とは感じなかったので杞憂だ。

「やりあうのは得策じゃない」

ローが結論つけるけど、別になにかこちらからしたわけでもないので、只の気にしすぎ野郎なだけなのである。
砂の国のご飯を堪能した。
デザートは美味しい。
水が割高なのはお国柄なのだろう。
先ほど話題に出てきた男は砂の能力を持つらしい。
だから砂の国に来たのだろうか。
なんとも、国を昔乗っ取ろうとしたらしい。

「じゃあ、この国乗っ取られちゃうのね。デザートだけは残しといて欲しいわ」

「あーあ、他人事なんだなー」

「うるさいわよ。海賊のくせしてなに潔癖ぶってんの」

「おまえ海賊だなァ」

「たまたま襲撃したのが海賊だっただけで山賊なら山賊やってたんだけどね」

「山賊したら被害酷かったろうな」

「はは、違いねェ」

「いや、海賊も山賊も脅威度は同じだぞ?」

「そーね、老若男女平等の攻撃は全てに降り注ぐことになったことね」

「そのネーミングセンスなァ……」

「お、おお?」

団員達の一言が多い。
レストランから出るとやや暑さが強くなっている。

「貧弱なんだからターバン巻きなさい。命令よ」

スン、と急に無症状で大人びた顔になる女に団員は出た、と密かにざわつく。
たまにであるが気品のあるオーラを醸し出すことがあり、逆らってはいけない気分にさせる。

「わーったよ」

自分達の事を案じているのを分かっているので素直に聞く。

「あーーーー!」

「チッ。うるせェ」

「おま!クロコダイル!?」

「なんでここに!?」

「お、クロコ!久々だなァ」

「ルフィ、おまえなに呑気に挨拶してやがる!」

向こう側が騒がしい。
ローはぴくりと眉を動かし、面白そうだと見に行こうとする。
その出会いは激しく一人の船長を後悔の波に突き落とすこととなるとは知らず。

「面白ければついていってあげる」

リーシャは満面の笑みでローを抜かし一番になった。


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