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幼馴染は魔王である


こんにちは村娘です。
自己紹介ついでに転生者でもある。
殊更、設定を盛るつもりはないが幼馴染が居て、肩書きが魔王である。
詳細を述べると魔王の息子だ。
本当の魔王は幼馴染のお父さんでイメージと違ってのほほんとした人。
逆に何故魔王なのか不思議である。
それに対して幼馴染みで息子な男は父親に似ず魔王かとみまごう奴だ。
あと、この世界には聖女という肩書きが居て、聖なる光属性の魔法が使えるらしい。
此村、全員全ての属性が使えるんだけどね。
何故そうなっているのかというと、他ならぬ自分がしたからだ。
転生したからとあれこれしたらプロセスを見つけて全員にやらせたら全員使えるようになった。

なので、聖女など光魔法しか使えぬという欠陥だ。
鼻で笑うくらい簡素な事実。
別に聖女も魔王がわと敵対しているわけではないが、なんのために聖女を担ぎ上げているのだろうと不思議に思う。

「おい、無視するな」

回想に身を委ねていると周りの騒がしいテノールが耳に後れ馳せながら入ってきた。

「無視はしてないけど、研究してるの」

それは無視しているのだと意見するのは今回想に出てきた魔王の息子さんである。
こいつには妹が居て、性格は普通の魔王の娘。

「その研究をやめようとは思わないのか」

研究は生物にまで及び今は魔牛や魔羊というこの村の名産品に及んでいる。
この村の家畜達はランクが上だ。

高位貴族や王室が挙って買おうとして独占しようとしたが、この村の場所や人間を介さねば品質が落ちることを分からせてやったので大人しくなった。
ただし、やったことに全員の怒りを買い、認識阻害を施したので村の場所がわからなくなり、こちらが他のところに下ろさないと手に入らなくなった。
魔王の息子のトラファルガー・ローが居る国と隣り合っている村なのでメインの取引先がその国なのでお金には困ってない。

「忙しいんだもん。用ってなに」

空返事で対応していると無言になった男はリーシャの持っていた本を取り上げて、返してというこちらの腕を掴むと転移の魔法を展開した。
着いたのはローの家、魔王城。
いつもの使いなれたところなので寛ぐ。
あの村はこちらが関与する前から繋がりがあったらしく、近場で探検していたちっこい頃のローと会ってからの付き合いだ。

「もー、なに?」

前から突然来て勝手に連れてくることはあるが、結局理由は不明なまま。

「なんでも良いだろ」

「忙しいって言ったのに」

「お前、魔王の花嫁の儀になんで参加しない」

この世界は別に魔王と敵対してない。
他国みたいな扱いだから所謂世間的に王子ポジションの彼を求める者は居る。

「え?………………わたしになんの関係があるの?」

本当に疑問に想い過ぎて、思考が停止しかける。
その回答に物凄く怒るのがこの男の反応。

「おれを前によくもそんな言葉が吐き出せたな!」

「そんなことを言われてもな」

困った。

「お前としか結婚しないぞ」

「えー」

非常に人生をエンジョイしている己にとって結婚とは全く関与なし。
一人で生きてくしさ。
花嫁の儀とは、ローに嫁ぎたい子のアピールの場。

「むちむちぼでーな女の子がおすすめだよ」

「だれがお前の好みを聞いた」

自分が男だったら選ぶタイプを言ったがダメらしい。
と、問答していると気配を感じて振り向く。

「ロー、お前に選択しがあるように彼女も選ぶ権利がある」

「父上……」

「ローのお父さん、お邪魔してます」

「うん、いつでも歓迎するよ」

トラファルガー・ローの父親、そして魔王な男がしずしずと歩いてくる。
因みに母親である王妃も存命していて、父親と同じく穏やかな方であった。

「無理強いはしてはいけないと言った筈だが。覚えてないのかな」

気まずげに父親を見るロー。
言われてたんかい。

「二人とも大人だからと思うが、無理強いは許さない」

「分かってるよ」

ローはふて腐れた顔で答え、父親はやれやれと苦笑した。

「この子に代わって謝るよ。ごめんね。君は好きに生きれば良い。この子のことは気にしなくても良いから」

「はい」

しっかり答えた。
目の前に眉を下げた子が居るけど気にしない。
トラファルガーの大黒柱が部屋から去るのを見送ると幼馴染が苛立った顔でこちらを見ていた。

「おれはお前と結婚したい。なにがダメだ」

「愛していれば解決するなんて甘い考え」

ぽかんと口を開けるローにやっぱりかとため息を吐く。

「私たちは寿命が違う。仮に結婚して子供を産んでも子供達は早くに母親を失う」

ローはその言葉の背景に息を飲む。
彼女の父親が歴代の悪魔と罵られる所業をしたことを今になって思い出したからだ。
彼女の父親は魔族でローと同じだが母親が人間であった。

父親は確かに母親を愛していたのだろう。
しかし、彼女が小さな頃母親は病になって早くになくなり、母親が居たからこそいとしんでいた娘に見向きをしなくなり、行方不明になった。
冷めたのではない、母親という最大の愛の相手の子供という付加価値をいとおしみ、3人家族という甘味に浸っていたのに、甘味も抜けただの無味無臭に成り下がった娘に目を向ける意味を無くした。

父親が居なくなっても娘は大人の魂も得ていたので特に悲観することもなく、父親はクズだっただけだと冷静に判断した。

「あんなクズとおれを一緒にするなんてお前らしくねェ」

「一緒にしてるんじゃないよ。寿命なんて別に事実だし」

愛が永遠なんてその時にならなくては証明の仕様がないもん、となにも色がない目が見えた。

「でも、ローの愛と渾身は受け取った」

この時、彼にこの言葉の意味はわからないだろうなとうすぼんやり解した。


リーシャは己の父親がどれ程身勝手で世の中をなめ腐っているのか周りが思うよりも遥かに理解していた。
母親がなくなって直ぐに消息不明となった父親が娘に会いに来たときもなにかあるのだろうと直ぐに看破するほど。

「であるから魔王さまに取り成してくれ」

こんこんと今まで消えていた謝罪もなく、突然説明し始めた男を女は黙って聞いていた。
纏めると母親以来の愛しい女が出来たから女を安全な魔王の統治する土地に移動させたいが、どうなら向こうでは肩身が狭くトラファルガー一家に睨まれている名前だけな父親。
このままだとろくに土地へ移れないから娘のわたしに許すように取りなせと何様なのか頼んできた。

消えたことも、母親が亡くなったこともなかったことにしている態度に取り繕うこともせず、帰れと告げた。
しかし、娘という存在を思い出して父親だからという理由だけで助けるのは当然だという態度を押し出す愚か者には一度退散するという思考はない。

「誰のおかげで生まれてきたと思ってるんだ」

「私のお陰よ」

ただ、この男は恋人が妊娠したから子供を産んだというだけだ。
この男は特にこれといってなにもしてない。
愛し合っただけ、それだけ。
小さな頃は可愛がられたのかもしれないが、それは家族としてだ。
母親が無くなったら放置して置いていったやつに教育云々と言われなくない。

「恋人と居たいのなら好きにすればいい。他人様のお話だから。私はなんの関係もない」

それ以降男を入れないように魔法で釘を指して土地に足を向けられなくした。
その後は隣国に渡ったのか元いたところに残ったのか来ることはなかった。
と、思っていたのだが、父の言っていた女が村にやってきて訪ねてきたのだ。
どの面下げて来たんだと怒りを滲ませて対応すると父を知らないかと聞いてきたので一言、知りませんと述べ、それでもお願いします共に探して下さいと言うので勿論拒否した。

どうして、娘なのにと言うので、一番始めに母が無くなり置いて出ていったことを話して、無一文になったこと、それまで音沙汰もなく突然来て頼んできたことを説明すると悲劇のヒロインみたいに泣き出し、釜にくべてやりたくなったので我慢。
一度聞いてやれば帰るだろと思ったが、なにを思ったが帰る金がないので家で休みたいと宣ってきて拒否。
脳内お花畑か。
というとこは脳内お花畑カップルだったらしい。

「ではせめて魔牛をください」

うちの魔牛は一頭城が買えると言われている。
この女、結局それかと白けた。
何故私が血を滲ませるくらい苦労した結晶を渡さないといけないんだ。
牛の相場を言うとそんなに払えるわけがないというので、でしょうねと当たり前だ。
ただで貰おうと思っていたらしいがやるわけない。

「これ以上騒ぐのなら牛を盗んだものとして処断されますよ」

貴方の父親の恋人なのよと言われたけど、今さっき経歴を話したのに、なにを聞いていたのか。
処断して貰おうとすると慌てて逃げていく女に近寄れぬように施した。
それから女もそれ以来来ない。

「さて、帰るね」

魔王の城にて十分過ごしたので立ち上がる。
しかし、後ろからぎゅっと抱きついてくるものにより身動きが取れなくなる。
さっき無理強いは良くないと言われたばかりなのに。

「行くな。不安なら不安がなくせるようにする」

「どうやって?無理だよ。人間と魔族は明確に違う」

そのうでは緩まることがない。

「なんとかする」

「なんとか?」

父親とその恋人をどうにかしたときのように?

「これはローのためでもあるの。別に結婚以外にも共存の道はあるから」

説得も無理だなこれは。

「お兄様!」

押し問答が続くかと思われたがローの妹のラミが押し掛けてきた。

「おい、ラミ」

「なあに」

「ノックしろ」

「無理矢理迫ってる人に常識を解かれてもちっとも響かない」

ぐっ、と詰まる男にリーシャは笑う。

「ラミ、用事をいうつもりなんじゃないの」

そうだったと嬉しそうに笑う。

「兄様聞いて。とうとう見つけたのよ」

「誰をだ」

リーシャを見てラミは笑うと。

「転生の儀!」

ローは呆気にとられ、己は仕込んでいた一つが漸く見つかったかと安堵した。
長年研究していたテーマだったので、誰よりも詳しいと自負している。
魔牛は研究の産物だから予定外だったけど。

「なに!?」

「古い書庫なんだけど」

盛り上がる二人にリーシャは見守った。
彼らが自分に例え転生をしてくれと言ったら、自分は迷わず「いいよ」と答える。

愛と渾身を知ったから。


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