ダンジョン人生4(完)
ラミ達は唸って意見を言い合うが、相手の狙いがさっぱりだ。
なんのために負けると分かっていることをしようと思えるのか。
「誰かに囁かれたとか」
いくら傲慢なあの女であろうとダメなことは分かると思っていたが、幻想だったか。
それとも、こちらの世界の魔法に触れて自分が弱いと知ったか。
どちらにせよ勝ち目などないのだが。
いっちょ揉んでやろうかと通信で友人が笑っていた。
それくらい変なことなのだ。
冷やかしで遊ぶ程度の認識。
そういうの、親善試合でもない限り難しい。
向こうが負けること確定なのだから。
それなのに恥を公開しひろめるというというのだろうか。
止めた方がイイ、色々言われるだろうしさ。
何故これが通ったのか疑問。
はてなでしかないが相手がしてほしいのならすればよいのではないかと思う。
「勝つのは決まっているんだから良いんじゃない」
負けてあちらが文句を言ってくるわけでもないし、ローのかっこよさが見られるのだったら良いかもしれない。
かっこいい夫がもっと見たい。
そんな邪な気持ちが最優先。
もしかしたら正装してくれるかもとお願いしてみる。
白いのも良いが銀色も捨てがたい。
あの軍服擬きのようなキチッとした服が良い。
「別に構わないぜ?金払えよ」
ふぅん、と手の甲に顎を添えて意味ありげに笑みを突き出ししんなりと緊張する。
我が家の通貨はマネーと述べているが現金ことじゃない。
物々交換なのだ。
「えと、少し前に堀当てたスターリーナキの鉱石があるんだけど」
ローはこういうところが厳しいので物はちゃんと選ばないと。
が、反応は思わしくなく、いやいらないと断られてガックシ。
「2日、日を開けりゃ良い」
「……あー、そういう。うん、なるほどなるほど」
新婚だからピンとこなかった。
「私ももう人妻なんだから、そ、その提案、乗る」
勇気を出して宣言してみたらローが驚いた顔を浮かべ、フイッと横を向く。
ぼつりと「不意打ちやるな」とボソボソ聞こえて、こちらも横を向いて赤くなった頬を隠した。
親善試合が申し込まれて三ヶ月、今リーシャ達は自国の土地で余裕な顔をして座っていた。
バトルフィールドという、所謂試合会場を用意できなかったあちらさん。
魔法を使っても良い土地がそこらじゅうにある家。
必然的にうちへとなる。
そんな土地がないのにいきなり試合をしようと言えるあちらの思惑が薄く見えたのでギルドに話をして、楽しみにしている人達もいるのでなくなることなく開催されることとなった。
向こうの軍人達が手慣れた様子でテントを張っていく。
向こうのギルドは軍人、つまり国が管理しているのでこういうイベントで積極的に動くのは軍人達だ。
客達は邪魔ゆえに放送だけにしている。
人がぞろぞろ来ても魔法で怪我人が出るだけだ。
因みに親善試合なのでお互いが死なないように、というかあちらが瀕死とならぬように治癒師を待機させてある。
向こうも元妹が出場枠として出ているが、治癒が得意なだけなのに戦闘力なんてありはしない。
けれど、戦闘はしなくちゃダンジョンには潜れぬので戦う訓練は必須。
一応救護するが、完全には治さないつもりだ。
そのうまをちゃんと伝えておいたので不備はない。
昔と違う気持ちで迎える日。
元両親が無理矢理ついてきたらしく居た。
うん?
「政府はお前が帰ってくるよう心を揺さぶる作戦に切り替えたらしい」
「控え目に言って無駄」
良く使う言語をよういて否定。
揺さぶるもなにも無関心を通り越した憎悪さえあるというのに、取引要素にならない。
くすりと笑みを溢し、ローに寄りかかる。
元両親がこちらをみていた。
気配は分かるので自分から顔を向ける意味はなし。
恐らくなんらかの取引かなにかをしているから此処に居るのだろう。
聖女と歌われている妹が入れば良いだろうに欲深い女達だ。
まだ足りないとは。
「只今より親善試合を行います」
カメラが向く。
中継されているそうだ。
彼らの民衆は自分達が強いと思っているのか気になる。
「赤っ恥を放映しちまうんだな」
同じく試合に招待されていたシャチら。
ラミも笑って応援していた。
ラミは出ないのかと聞いたのだが物足りないからと、言っていた。
本当の理由はリーシャの関係者を見たら手を出してしまいそうなので控えたと密かに言ってくれ、暖かい気持ちになった。
こういう人達に囲まれて生きられることは幸せだな。
今まで手を伸ばしても欲しくて、でも諦めていた生活。
「向こうはこの展開を分かっているのになんでこんなことをしようと思ったんだ」
ペンギンが疑問を抱く。
既にギルドに可能性を教えていたのでペンギン達にも伝える。
「こちらの世界の情報収集が目的だよ」
「はァ?収集?なんでまた」
「遺伝子操作してとかでこっちの能力がほしいんじゃないかな。または資源目的」
あちらの資源がいつかなくなるのは皆わかっているのでその時の貰える所を吟味しようとしているのだ。
「なにを考えてるんだか」
うん、そうだねと微笑む。
こちらがわざわざ魔法で魔力を無くしてあげている資材を取っても魔力を持たない人間には触れられない。
それにほとんどの自然を統括している聖樹が許さないしさせないだろう。
それを知らないからそういうことが考えられるんだ。
「侵略しようってのか」
戦ったら負けるのにどうしてこう、地雷を踏むのか。
何度かこちらのものを派遣して実力を見せて釘を刺しているんだとロー達はギルドから聞いていた。
今回の試合は隠れ蓑。
やけにすんなり企画が通ったことから予定通りだったことだろうね。
しかし、横取りもなにも出来ずに終わるだろう。
「軍人達には敷地から出ないよう通達しておいたし、範囲の外に出ようとしたらペナルティを課せている」
ペナルティについて凄い気になる。
聞いたらお尻に私はスパイですと半年以上文字が浮かび続けるとか。
シャチ達が激しくお腹を抱えて笑っていた。
ギルド運営は面白いなと笑う。
私もそう思い、一緒に肩を震わせる。
えぐいなそれ。
人前で過ごせなくなるやつ。
「仮にも伝えていた事を無視した奴が受けるもんだから楽しみだな」
その懸念は現実になるだろう。
向こうだってこちらが呑気に招いたと思ってないだろうし、互いに監視していると思っている。
この世界には心が読めるスキルを持つ人が居て、記憶を覗けるスキルもあるから不利だと思う。
勝ち目などない。
試合が始まると向こうは真剣な顔をして戦う。
こちらは余裕がありまくり、アクビも出る。
武器を手にやってくる相手を術を使用してこかす。
そのあっという間の出来事にテレビのリポートをして居た男性が慌てる。
思っていたのと違うのだから。
勝てると思い込んでいたわけではないだろうが、良い勝負をしてくれるに違いないとか思っていたのかもね。
趣味で辺りを見回していると元妹がこちらを睨み付けているのが見えてローへ寄る。
「どうした」
「あの子がみてるの。勝ち目がないのに闘志を持ってるみたい」
「それは鬱陶しいな」
次の試合はローと男だ。
鍛えられた体は強いかも、けど、筋肉は関係ない。
圧勝するローはスマートで素敵。
勿論制服着用。
「ルーム」
魔法の力を発動して裁く。
「エグゼクティブ」
「ぐあ!?」
男は最後に呻き倒れた。
その圧倒的な戦力に軍人達がざわざわしている。
今までそこまで見てこなかった人も多いと思うし、紙の中では実物が分からない。
本当の力というものが今見えた筈。
見ているだけでこの人が自慢なんだぞとのろけたくなった。
――ホゥ
思わず黄色い息を吐き出して落ち着かせる。
かっこよすぎてどうしようかとうっとり。
そうこうしているとリーシャが出る番になって誰が出るのかと思えば、なんと元妹だった。
微かな思惑になるほどと白けた。
国は妹を切り捨て飼い殺しするつもりなのだ。
完全に捨てるには回復魔法が貴重なのでしまい。
しかし、囲い込む為にリーシャとぶつけて権威を削ぐつもりだろう。
こちらで負ければ国民からリーシャは生まれた国に戻ってくるべき、働くべきという身勝手な言葉や押し付けを口にする筈。
そうする為の当て馬が、あの子。
「賭けをして」
未だ格下と思っている言動をしているので不快に感じる。
「なぁに」
聞く気はないが結構気になる。
「あんたが負けたらこっちに来なさい」
何様なのだこいつは。
「はっ……バッカしゃないの?」
「な!?」
こんな言葉を自分からかけられたことがないからか、それとも鵜呑みにすると思っていたのにはね除けられたことに驚いたのか。
あまり舐められては叶わない。
「才能を腐らせる場所に戻ってくるわけないでしょ?」
「あんたは……!今まで親に育てて貰った恩とか!」
「…………ぷ」
元妹の口からおおよそ出てくるとは思わなくて、つい漏れる。
「あ、ははは!……うける!」
審判が待っているようなので始めて下さいと言う。
「開始」
「デス・テンプル」
――ドォン!
落雷が雲もないのに起きた。
それからの異変は一点だけを直撃。
まさに元妹だけに。
「私をバカにするってことはローをバカにしているんだよ」
冷たい目でプスプスと煙をくゆる女を見て終わった。
終われば観客の軍人達は不気味なくらい黙っている。
ほら、やっぱりね。
もう宣伝広告としてポイされたのだ。
軍人達にも冷たい目を向け、勝負はついたと去る。
「ふふ、ただいま!」
愛しい男の胸に飛び付いて包容を受けると共にキスが送られた。
「おれ達がこの国の為に動くことはないのに浅ましい」
男は妖しく笑みを浮かべて妻を抱き締めたまま休憩室に向かう。
親善試合の後、国民は聖女に失望して新たな聖女を求め、それはやはり回復魔法の使い手であり自国で生まれた元聖女の姉を狙いつけた。
しかし、今更である。
姉の存在は家族の紹介などでされていたが妹ばかりに目が行っていた国民にとって忘れられていた。
本当に遅すぎる渇望。
あきれ果てる異世界の人間達。
災難だな、お疲れだな、離れて良かったなー、などと声をかけてもらって、逆に異世界の人達の暖かさが強調される日々。
そもそも元の世界に未練も情もない。
「ロー、今日はペンネだから」
「おれもなにか作る」
「ん!」
帰ってきたローがキスしてくる。
元国籍の所に何度も打診が来たが、この国の交流をかけはししている人がすげなく断っているらしい。
もう元聖女の栄光は使えないので新たな旗を立てようしているが、自国で回っていて欲しい。
リーシャにはなんの関係もない話。
料理をかき混ぜることが今は大事なので。
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