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ダンジョン人生3


ローと学校へ戻りトイレにち向かうと元妹が立ちふさがった。

「家族の癖に依頼を受けないなんてどういうつもり?」

「受ける受けないかは冒険者の自由なんだよ。説明されたでしょ。物覚え悪くなったの?」

「な!?」

「それよりも初対面なのにいきなり不躾なのはいけない。誰と勘違いしているか分からないけど、退いて」

「治しなさいよ!」

退かない上に怒鳴り付ける。
ハイ証拠。

「恐喝だね。証拠はちゃんと残したからお仕舞いだ」

「フフ。もっと追い込んでもいいぞ」

トイレに言ったがローもついてきていたのだ。
元妹がついてきていることはバレバレ。

「なんなのよ!あんたが聖女とか持ち上げられているせいで!私は!」

「よかったね。私と同じ立場になれて。私の苦しみや痛みを体験できて」

ローの調査によれば両親も姉という最強の地球側としての存在を逃した存在として有名らしい。
なぜ知られているのかと言うとマスコミにより事実が知られているから。

「無能な姉と蔑んでいたらいつの間にか無能な妹として呼ばれていたってわけか」

トラファルガー・ローはくつりと嘲笑う。

「治して治して治してぇえええ!」

顔の傷が耐えられないのか叫ぶ。
教師達も異変を知り飛んできた。

「なにをしているんだ!」

「なんてこと!」

事前に政府にも警告されていたかな。
それなのに授業参加させるって酷いな。

「安心してください。ちゃんと映像と音声を撮っているので事実確認はしなくて結構です」

にっこり笑みを浮かべてとんとんと指を振る。
教師陣はぶるぶると震えていて、なにをそんなに怯えているのか分からない。
妹だけ切り捨てれば助かるのに。
あ、そっか。
もしかして妹は回復魔法が一番出来るのかも。
手放したくなくて、排除もなにもする気がなかったのかもしれん。
色々ふに落ちる。
底辺の魔力しか所持してないのに今でも優遇されていたり、リーシャを取り返したくなったり。
回復魔法の運用が始まったので使ってみたら良くて、それよりも凄いと言われている自分が惜しくなったと見える。

なら、どちらかを選べば良い。
とは言っても選ばれたとてのこのこ行くことはありえないけどね。
それにしてもこの対応の温さにはほとほと呆れる。
隔離でもして隠しておけば問題も起こさなかったろうに。
余程かつてあれだけ虐げた家族にすがって治療してもらえると甘いことを考えていたようだ。
甘い、甘すぎる。
そんなの、情すらないのに、なにを期待出来るのか脳内が理解出来ない。
しても、関係ないけどさ。
ローに付き添われて騒動の中心から直ぐに離れた。
あの騒動を無視して授業に出るとその日は終わり、帰りがけに政府の責任者と名乗る人が謝りたいと言っている人が居るというので、ローが面白そうに笑って行こうかと車に乗る。
車に乗るのも久しぶりだな。

もう乗ることなどなくなるかもしれんが。
着いたところは一見普通のオフィスビル。
呼びつけるだなんてなんなのだと怪訝に思いながら階段とエレベーターを使う。
くねくねといい加減にしてほしい道行きに向かう。
あー、成る程。
相手が段々わかってきた。
扉の前に立つと案内役の人が扉を開ける。
窓のない部屋。
なにもなくぽつんと人が数人居るだけ。
殺風景なものだ。
前に居る相手を見ると何度かテレビで見たことがある人だった。
もし会わないと言ったらどうするつもりなのだろうか。
とふとせんないことを思ったがすぐ飛散。

ローに寄り添いながら前に進むとこのくにで一番権力を持つ相手がにこりと笑い、こちらもお世辞として笑う。
緊張で怖じけると思われたのかもしれない。
魔法の国でもっと大きな国の王様に会った事もあるのだ。
相手は先ず自己紹介をして、こちらの名乗りを聞くと妹について謝る。

なに目線なのだろうと思わなくもない。
答えは決まっていたので「それはどうも」と流す。
勿論、許さないけどなにか。

「彼女は貴重な人材なので現場から離れられると困るのです」

だから暴言を吐いても良いと言うのかな。
無言のローの怒りで相手は許されないと分かったのかポーカーフェイスで首を振る。

「好きにしろ。おれ達はここには二度と来ないだけだ」

「……それは」

「好きにしろと言った。おれ達も忙しい。もう行く」

ローのおれ達はどの範囲なのか判断しかねている相手。
二兎追おうとして、全てを逃すことになる。
典型的なことを思考する。

「待ってください」

相手がなにか言う前にローは転移をして元の世界に移動した。

「やっぱり断れば良かった」

着いて早々後悔したのか吐き捨てる。
内容に薄く笑う。

「私は良かった」

「何故だ」

「私の居た世界は相変わらず救いは必要ないと改めて知れて」

くすりと笑みを落とす。
地球、やはりありのままの姿はそのままであることに安堵。
でないと、安心出来ない。

「良いのか、放置して」

「慰謝料だけ貰う」

こちらの世界の人間を害すると利益損失が甚だしいことはとっくに知られているから、もし敵わない相手に攻撃したりしても、不快に思われてはたちいかなくなる。
なので、その場合の額が凄いのだ。
向こうで聖女と呼ばれていようか関係ない。
こちらからすればただの低級回復魔法しか使えないレベルの存在。
貴重でもなんでもないのだ。

どれくらい請求すれば破産するだろうかと、破滅を望む心が歓喜した。
とは言っても、妹が貴重だと思われている限り国がお金を出すだろう。

「うーん。でも手打ち」

むーんと唸っているとローが悪くてかわいい顔をするのでふにふにと頬をつついた。

「お前もするようになったな」

「だってローだもん」

「ふん、可愛くねェぞ」

と言いつつ意味ありげに耳を撫でる手に震えた。
甘えることで今日のことを思い出に変えることとする。

授業を請け負って5日が経過した。
ローが他のその依頼を受けた人に状況を確認してくると言い残して出掛けていく。
向こうのテレビが通販スキルで買えるのでそれを部屋に設置して視聴するのが日課だ。
この魔法の世界にもテレビが浸透していき俳優などが映るチャンネルもあるがまだまだ未発達。
インタビューやニュースを見ていると21世紀の聖女と名を打たれたものがあった。
あー、うん。
んんんん。
微妙な気持ちになる。
聖女と呼ばれているのは不肖の妹だ。
ろくに使えないのにそう言われていると魔法の国に居れば不相応だと分かるから嫌な気分。
そんな軍名で呼ばれるような力はないのだから。

とある人達がこちらとあちらで大会を開かないかと打診しているらしいが、力の差がありすぎて楽しくないと魔法の国の人達は乗り気でない。
向こうのお偉いさんも一部の人は差を知っているので渋っているらしい。
スポーツ選手なんかはもしかしたら誰かの目につくかもしれんと期待しているが、このくには、世界は魔力史上主義というか、価値が魔法なので魔法を使えぬ人間など眼中になかった。
ぷにうさぎとインタビューを見る。
あちらの世界へ行く前に撮られたものらしく、自信ありげにインタビューに答える妹。
普通に恥ずかしい。

「あの程度でこのドヤって」

ため息を吐きたくもなる。
本物の回復役を見たことがないのだな。

『最近はどうなさっているんですか?』

化粧で傷を誤魔化そうとしているが隠せてない。

『えっと、訓練生達の怪我を治していますね』

慣れてら。
インタビューしまくられてるなこりゃ。
リーシャもそれなりに回復魔法の使い手だが、もっと上が居るからそこまで注目されない。
なのにあの程度でちやほやされるなど。
恥ずかしい。
元でも身内だった恥である。
回復魔法を使う者として辞めて欲しい。
あ、だから、かな?
だから皆治さないのかも。
自分達の世界基準で底辺なのに驕り高ぶり、それを晒す女を許せないのかもしれない。
それなら、皆が顔を治癒しないのも納得だ。

一人くらい出来心とかで治すかなと思ったが、このインタビューは何度かされているようだし、情報を知っている冒険者にとっては認知されているわけだ。
知っているから近寄らない。
リーシャだって依頼でなければ恥ずかしい人間に近寄りたくないのだ。
皆の気持ちは分かる。
テレビのチャンネルを買えて考えるのを止めた。
恥を放送する向こうの世界もうんざりだし。
もう関係ないもの。

ローが帰ってきたのでご飯を温め直す。
今日はビーフステーキだ。
これも通販スキルで通した。
通販スキルの利権でがっぽりなので働かなくてもお金が入ってくるが、ロー達と冒険を続けたいので贅沢な暮らしだけに留めている。
それでも快適過ぎてこのまま主婦として彼に愛される生活を求めても良いかなと思うときがあるけど。
今は若いから冒険と青春を優先したい。
わくわくする気持ちを皆と共有したい。

「どうした」

僅かな誤差でこちらのいつもの気持ちを察するローはスパダリだ。
言ってて少し恥ずかしいな。

「うん。今日元妹が聖女扱いされてるインタビュー見てて」

それだけでローは「あァ」と理解した。

「無知を晒してるあのインタビューな」

「恥ずかしすぎてある意味ギャグ扱いされてるっぽい」

冒険者達の話題に度々上がる。
底辺聖女擬きとか、偽物とか、芸人とか。

「今日は一応調査してみた」

ここで言うのかと首をかしげるとローがくく、と喉を鳴らす。
余程面白いネタなのだろう。
シャチ達も交えて報告すると言うので、とても言いたいみたい。
言いふらすことは滅多にないので気になって仕方ない。
そんなになにか問題が起こったのかと不思議に思う。
国が妹を手放すとは思えないのでなにが起きたのかな。
リーシャとローは昼御飯を食べ終えて支度する。
シャチ達も呼び出しているというので早速皆のギルドハウスに集まる。
こういう風に集まるのもなかなか久しい。
ローと自分は己の家でバイバイするから。

集まった面々でどうしたんだと近状報告しつつ、ローの言葉を待つ。
耐えきれないと言う風にペンギンが聞く。

「どうしたんですか」

「うんうん。珍しいよな。わざわざ集めてなにか言うなんて」

討伐とは関係ない事でギルドハウスに集まることは結婚するまであったけど、結婚してからはロー達は男達で集まるくらいだ。
リーダーである夫は周りを見渡しにやりと笑う。

「向こうの状況が分かった。聖女は見栄を張ってこちらとあちらの大会を催すことを提案した」

「「ぶ!」」

ペンギン達が吹く。
私も驚いて口をぱくぱくさせた。
あり得ない、一番なさそうな事のはず。

「聖女がテレビカメラ、生放送で言ったもんだから取り消すことも出来ずそのまま全国放送」

「「「うわぁ」」」

三人は引いた、極引いた。
よりにもよって論争が巻き起こるやり方を。
汚いな、色々。
この前あった国のトップは争いなどや事態が激しく動くことを好むタイプではなさそうだし、今までの言動を見ていたが、特に魔力持ちに対してサービス精神を見せるような人ではなかった。
いつもいつも事務的に行動していた筈。

「なんのつもりなんすかねェ」

シャチが呟きペンギンが思ったことを振る。

「勝てると本気で思い込んでるとか」

「ありえる」

ラミが答える。
ラミの存在感が薄いがこの場にいた。
お茶を汲んでくれていたので静かだったのだ。

「ようかんあるけど食べる人」

「はいはーい!」

ラミが一番手を上げてローは食べすぎるなよとシスコンを発揮する。

「余計なことを言わないでっ」

ラミがむっとして反論する。
この人達はいつまでもこんなんで安心するな。

「で?具体的に大会ってなにするんだ」

話は続く。

「魔力を競うと言っていたが、戦いにならない」

うんうんと頷く。
確かに話にもならん。
差がありすぎてこちらに利点がない。


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