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ダンジョン人生


今日はドラスレッドを討伐しに、岩山へひたすら進んでいた。
晴天で狩り日よりである。
仲間らも驚くほど歩が軽いと笑みを浮かべている。
最近元気のなかった子が提案したのだ。

「ねぇ、リーシャ、聞いてる?」

(ん?)

ぼんやりしていたので全く聞いてなかった。
代わりに首をかしげて彼女は心配そうな顔をする。

「にいさまのプレゼント決まってるの?」

歳が近いからか距離感も近く、親近感を持たれている。
気兼ねなくお喋りを続けられるのはありがたい。
本当の妹の方とは大違いだ。

「プレゼントってラミ、誕生日はまだ先だよ」

いくら兄でもその張り切り方は張り切り過ぎと言える。
今からそれじゃあ、息切れするよ。

「あとになって慌てるよりマシ」

確かにそうだが、と苦笑を浮かべる。

「おーい、もうすぐ着くぞー」

仲間の一人であるシャチが叫ぶ。
先に行って敵の視察に向かっているペンギンが直ぐに戻ってくるらしい。
ペンギンも仲間の一人で、このチームは男女混合のチームなのだ。
バランスは整っているだろう。

「ねっ、お願い。向こうの世界で何か見繕ってきて」

こちらの特異体質を知っている相手がむむむ、と手を合わせる。
向こうの世界というのは本来己が暮らし生まれた世界だ。
リーシャの故郷だが、居たいとも、帰りたいとも思わない所。
全てが灰色の現代世界。
異世界のこちらの方に永住したい。

「良いよ。なにかあったら持ってくる」

可愛い妹のラミのため。
その願いは叶えてあげたいし、その兄の誕生日にもプレゼントを渡したい。
二つも意見が合ったので断る理由もなくなる。
気軽に二つの異世界を行き来できるにせよ、向こうの本来の世界にはあまり長居したくないが、今回ばかりは仕方ない。

「本当は一緒に行きたいけど、行けないから、任しっぱなしでごめんね」

「ううん」

ラミが優しいのは知っているので、行きたくないのは理解してくれているので、無理を言っていると罪悪感を感じている顔を向けられ、苦笑。
大丈夫大丈夫と気丈に振る舞う。
それくらい、向こうの世界に戻るのは憂鬱。
プレゼントを持ってきてさっさと帰ってこよう。
段々この世界に居る時間が多いせいか居心地も良く、向こうの世界に行くとなんだか違うと違和感を感じるようにもなっていた。
本当はこの世界に生まれてくる予定なんではないかと思えるほど。

目を閉じて次に開けると見慣れた天井に絶望した。
リーシャが生まれたのは父母妹の四人が住む家。
しかし、家族と思っているのは三人だけで、己は家族と思われてないのだ。
溺愛する妹さえいれば完成しているのだから。
自身とて家族と思ってないから別に良い。
朝に会いたくないので外で食べて時間を潰しお店を回る。
そして、るんるんと気分が上がってきたとき、都合の良いときだけ思い出す親の買い物リストメールが送られてきてありとあらゆる感情が死ぬ。

買い物に行き、袋をテーブルに置いてそそくさと自室に戻る。
自称妹に声をかけられたが聞こえないふりをして扉を閉めた。
目を閉じるとラミの顔が見えてついギュッとする。
わっ、と驚くことなくいつものことだと笑顔で受け入れてくれる彼女は天使。

「ごめんね。辛かったよね」

「……これ、あった」

プレゼントを渡すとラミがふわりと笑う。
ああ、全てを捨ててこちらの世界に行きたい。
もう一度抱き締めて離す。

「シャチ達は居ないね」

「うん。換金しに言ってる」

今回は久々に大物を討伐できたので気分も良いだろう。
二人で話し込んでいると名前を呼ばれた。
振り返るとローたちがこちらへ向かっている。
落ち合うと普通にお帰りと言われ胸が張り裂けそうになる。

「ただいま。なんかあったの?」

やけに嬉しそうで慌てた様子のシャチが気になり聞けば、シャチがペラペラと流暢に言い出す。

「さっきおれらも聞いたばっかなんだけどよ、どうやらお前の世界と近々繋がるらしいんだよな」

「え?」

「既に何度か繋がってて、向こうと意思疏通と交流とか警告とかしてるっぽい」

割りとこの世界は向こうの世界のような政治的な駆け引きとかはないので国民に告知されることが多い。
今回のことも直ぐに発表されるとか。

「お前も一応向こうの世界から来てるって報告してあるだろ?だからおれらに早く情報くれた。な、ペンギン」

ペンギンも頷く。
繋がるとはこの世界と向こうの世界が?

「繋がりかたはまだ音声のみだから完全になったときどうなるかわからんが、ダンジョンは確実にお前の故郷に侵食するらしい」

「そうなんだ」

ペンギンは故郷というが、リーシャの故郷はこの世界だ。
ダンジョンが現れるとか言われてもどうでも良いが感想なのだが。
自衛だけはしなきゃな。

「ってことはずっと一緒に居られるってことだよ!やったねにいさん」

そこでラミがローに話を向ける。

「確かにラミの言うとおりだ。お前もあちらと繋がったらこっちに避難してこいよ」

「ありがとう!」

家に居ても良いことなんてないし、モンスターが襲ってくるかもしれないのでこちらで活動するのは決定していて、分かっていても笑みがこぼれる。
こちらは魔法がある世界なのででモンスターを閉じ込められるが魔法を扱えないあちらではダンジョンは驚異となる筈。
ローたちはすでにこちらの世界があちらの政府たちに色々説明しているらしいが、いまいち驚異を分かってないらしく、諦めムードらしい。
確かに目に見えないのなら、危険を感じにくいかも。
多分馬鹿馬鹿しいと取り合わない人が殆どなのだから対策の取りようもない。
勿論リーシャは向こうの世界が破壊されても気にしないので特に感想はない。

向こう世界に一度戻り高校を卒業する寸前、ダンジョンが学校を飲み込んだ。
なんの運命か、新入生説明会に参加している家族たちも揃っていた。
随分めかしこんでいたので気合いが入ってて場違い。
遂に来たかと臆することなく、己の体に沸いてくる魔力に嬉しくなる。
これでローたちと心置きなく冒険を続けられる。
何人か魔力が芽吹きつつあると感じとり、その人たちを優先して助けることにした。
周りは煩いほど悲鳴が上がっている。
耳障りだ、ダンジョンでは物音を立てては危険というのを知らない人たちが好き勝手に騒ぐ。

この前新入生説明会その一を聞きに来た妹について鬱陶しい程聞いてきてうんざりしていた男子が腕をモンスターに噛みつかれて顔をぐしゃぐしゃにしていた。
そんなに騒がなくても冷静にモンスターと距離を取れれば怪我なんてしないのだが、初心者だからか仕方ない。

「リーシャ」

聞きなれた優しさしか感じない声に後ろを向くと現実世界に向こうの普段着のローが居た。
格好を見るに直ぐ来てくれたのか。

「ロー」

本物だと確かめたくてつい抱きついた。
男の方から息を飲む声が僅かにあったが、驚かせてしまったのかな。

「どうした。心細かったのか」

いつものようにからかう声音にまさかと笑みを浮かべる。
現実世界に来たローと本当に会えて嬉しかったのだと知らせる。

「男にそういう隙のある台詞は言うな」

「なにいってんの。もう」

心の支えである仲間を前に緩むなとは可笑しな話。
そして、いつもの愛銃であるマジックライフルを手にローと探索する。

「うちの政府にこちらの政府から要請があった」

早い、もうあったのか。
そのわりになにも知らされずにダンジョンは現れた。

「魔力保持者を優先しろと」

なるほど、出来るだけ確保して囲い混みたいのか。
うちには実力者が溢れているのでそういう囲いこみはあまりピンとこず。
あんまり片寄ったやり方をしているとおわるのだが、そこのところを理解していないのだろう。

「それと、魔力保持者は審査して戸籍をこちらに移せるように話し合われた」

「やった。じゃあ私が最初の戸籍取ろ」

「フフ、もう取ってるだろ」

なら、更にスムーズに行われるな。
国は魔力を持つものを手放したくないから縛り付けられないだろう。
ライフルで撃ちながら進む。
途中家族っぽい人が居たが似たような服ばかりなので放っておく。
見た感じ魔力を保持しておらず、妹はかなり魔力が低い。
あれでは戦力として当てにされた途端死ぬ。

ダンジョンを一通り見て助けていくと外に出る。
すでに制服を脱いで動きやすい服にフォームチェンジしているからこの世界の人と思われない。
政府らしき男達がこちらへ来る。

「中の様子は」

「怪我しているが今のところ死者は居ない低レベルのダンジョンで幸いしたな」

向こうの世界の人たちって所謂SSランクとかチートとかの猛者ばっかりのヤバイ世界だから、弱い人がたくさん居るという感覚がわからないんだと思う。
子供でも今のダンジョンは攻略出来、楽勝レベルだ。
政府たちはただの人間なので中に入れない。
そうこう慌てている周りを放置して戸籍を変更する書類にサインしてローが用意してくれた戸籍、元からある戸籍を正式なものにする。
このドタバタしている時に変更するとはローはやり手だ、流石過ぎ。

「これでお前はこの国の人間でなくなった」

その言葉をずっと夢見ていた。
この書類にサインするまで癒しの魔法は使わないと決めていたので、早速救出されていく魔力もち達にかけていく。

「な!」

「傷が!?」

みるみる塞がる傷に貴方たちも魔力があるよと伝える。

「え!?」

魔法なんて絵本の中でしか、という存在に戸惑う。
そんな中、魔力もちといえばないようなものの量しかない妹が運ばれてきた。
顔に酷い裂傷があり、凍っている。

「いだいいだいだいぃいいい!」

煩くて敵わない。
ずっと蔑まれてきた存在が弱っている。
うーん。

「良いのか」

「依頼金を払えるんなら」

別に自分でなくとも魔法を使える人は居るから。
その場合依頼してお金を払うのだが、さすがにボランティアとしてやる気は起きない。
今の痛みを良く覚えておいてもらいたい。

「あ、産みの親」

どうやらあちらも怪我を負っている。
足がなくなりかけている。
あれじゃあ仕事は無理だろう。

「じゃあ、行くぞ。救援依頼は済んだ」

ダンジョンから沸いてくるモンスターを押さえこもうとする人達を見ることなく二人は魔法で転移した。

魔法の世界では地球と繋がったニュースは特に動揺することなく広がる。
魔法が殆どないと聞こえた瞬間に人々は興味を無くす。

「乾杯!」

「乾杯!」

ギルドの仲間たちもぞろぞろとやってきては祝ってくれる。
世界が開通したことやこの世界にちゃんと来られたことなど。
あやふやな存在だったのでギルドでは仮のメンバー扱いだった。
リーシャがそう頼んだ。
いつ来れなくなるか分からなかったから。
その不安がなくなったので仮が取れて正式メンバーへとなった。
常々この世界の人間になりたいと良い続けていたことを知る知り合いたちも嬉しそうにお祝いをこうしてしてくれている。
幸せしかない。

「そーれにしてーも」

知り合いが酔った口調で滑らかに滑らせる。

「ローはいつになったらお前を嫁にするんだ!」

「ん?」

「っ!?」

「んなぁ!?」

「きゃあ!」

一部が絶句したりと大惨事。
リーシャはなんのことだと首を傾げる。

「うるせェ。漸く家が完成するんだよ」

ローが初耳なことを言う。
ギルドの家があるのに何故また家を。
嫁というワード。

「っええ」

「あいー!」

手から落ちるコップをベポがキャッチする。
あれ、遠い町に行ってて暫く会えないと思っていた熊獣人が何故ここに。

「キャプテン。オーロラ捕まえてきた」

ベポが見せるのはオーロラという貴重な無機物。
それが指輪に加工されているもの。

「タイミング良いのか悪いのか」

ローが頭が痛いと呟き、ベポから取った指輪を手にこちらへ寄る。

「おれと…………一緒になれ」

「!!?」

こんなに幸せで良いのだろうか。


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