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黒いスーツ(中編)


こういうところ、男の子っぽい。
女子のたのみより男の遊びの方を優先させるのが。
確かにベポはクールというか、さばさばしてる。
そう思えばローの方が喜怒哀楽が分かりやすいかもしれん。
コックの人が出来たと声をかけてきたので半分切ったものを持っていく。
憂うつな気分でとぼとぼと重たい足を進めて、ボス専用の部屋へ。
ボディガードもなにも居ない部屋の前。
余程能力に自信があるようだ。

――コンコンコン

ノック3回に持ってきましたと唱える。
入れ、と短い言葉にヒャッお体がぶるぶるした。
二人きり!
部屋で!
でもなにもないだろうなという冷静な部分もある。
部屋に入ると調度品が整えられた空間が目に飛び込んできて、ついで本がずらりと並ぶ棚が目立つ。
勤勉家なのか、本が大好きなのか。
見た目はとても頭脳派に見えるけど。

「持ってこれたな」

「メイドが欲しいのなら雇えば良いのに」

ボソッというとくくく、と笑う。

「お前が居るから必要ねェだろ」

「私はメイドじゃありませんけど……はい、どーぞ」

それに、これからも居るわけではなく、いつかは離れるのだ。
それをわざわざ今言う必要もないので無言でタルトを皿に盛る。
ここまで持ってきたのでついでだ。

「お優しいな」

そういう言い方が私に嫌われると知ってくれ。
もう対応するのも疲れるのでなにかを突っかかることなくフォークを渡し離れる。
が、呼び止められた。

「本は好きか」

「え?本なんて滅多に買えないので好きかは分からないです」

本はぴんきりだが、余程の娯楽小説でもないと一点ものばかりで高い。
よって、読むような本もないのだ。

「好きなもん借りて良い」

「難しそうでちょっと」

汚すかもしれないし、汚したら猛烈に怒りそうで触りたくない。
その気持ちを察したのか、ローはきらりと目を光らせてひとつの本を取り出す。

「別に気にしないから読め。これは恋愛もん」

グイッと押し付けられて反射的に受けとる。
強引な受け渡しにされるがまま。

「いつでも返しにこい。期限はないからな」

ぱくぱくとチョコタルトを食しだした男に文句を言おうとするが、くいくいと出ていくように指で示され、封じられ渋々出ていくほかない。
どうせ置いていっても今住んでいる部屋に置かれそうな気がするから。
どう問答しても無駄っぽい。

「失礼します」

「ああ」

一応聞こえているらしい。
都合の良い耳だこと!
ぷんぷんとなりながらそとへ出ると賑やかなゲームをしている声が聞こえ、そこにベポも居るのだろう。
輪に入るつもりなんてなかったのに顔を出した途端こいこいと歓迎されてしまい、断る心を持ってなかった故に引き込まれてしまい庶民小者が泣く。

「ゲームしてんだけど、これ知ってる?」

聞かれて存在は知っているがなにがなんだかは無知なので首を横に振る。
全員によるレクチャーが何故か始まった。
苦労して聞いていくけれども記憶力にはとんと弱いもので、無理である。
普通に覚えられるわけもない。
ぐったりして知恵熱を出しそうな顔だったからか冷たいジュースを寄越してくれた。
なんか甘いな皆。
もっと殺伐としたものを感じていたが。

「私、監禁とかされて必要な時にしか出されないとばかり思っていたのに全然違うってびっくりしてます」

つい、ぽろり。

「ははは。まぁ、うちは引き入れた奴には楽にしててほしいってか、ローさんも別にそこまでして今回の事を重要視してないんだ」

「まぁ、言ってみればおまけみたいなものですもんね」

命を守らずとも、囮にすれば良いのにと通常ならば考えるわけで。
守るなんて煩わしいんだから。

「おまけって、うーん」

「簡単にいっちまうと気に入られたんだと思うぜ」

「え、はいい?」

聞き返すくらい幻聴ではないかと言うことを言われ目眩すらする。

「そうだよな。気に入らなかったらユースタスんとこに押し付けてたろうし」

「面倒事は関わりたくないんだよなローさんは」

「面倒を貰っても良いって思うってことだ。ほら、やっぱ気に入られてるんだ」

その続々と寄せられるものに眉間を寄せる。

「ええええ」

「はは、いやがってらァ」

「わかりにくいもんなうちのリーダーは」

仕方ないなぁという顔で語る面々。
内々で脳内完結してるくないかそれ?

トラファルガー・ロー贔屓を体験したリーシャは後日、読みおえた本を返す為にそろりそろりとローの部屋へ行った。
いかにも入ろうという足音を立てて部屋を訪ねる度胸はない。
この屋敷で暮らしていくうちに警戒心はこれでもかとなくなっていった。

「誰だ」

ドアをノックする前に感知され、渋々名前を名乗り本を返しに来たことを告げて「入れ」と言われる。
ああ、言われちゃった。
近寄らぬように本だけを読んで過ごしていたのに気づけば損得関係なくドはまりしていたのだ。
恐るべし小説。

「読み終えたのか。かなり早かったな」

「面白くて」

「続編もある。持っていけ」

示された場所に行き、本を戻し続編も手に取る。
ジッと表紙を見ていたら後ろに男が立っていたので驚いて本棚にぶつかった。

「いたっ。なんで、後ろに」

「他の本も教えようと思ってな」

態度にくつりと笑う。
悪趣味なことだ。
驚かしてなにが楽しいのか。
男性ではなく男の子に見えてくるなんて目が可笑しくなったかもしれん。

「近すぎです」

「そうか?普通だろ」

「いや、近いです普通に」

ローは本を手にしようとしているのか腕を上にあげた。
するりとなれた手付きで本を取り出すと滑るようにこちらへ差し出してくる。

「これも恋愛ものだ」

「恋愛もの結構あるんですね」

「知識はあっても困らねェ」

わかるような分からないような。
返答に困っている彼は差し出した状態の本をリーシャの顔まであげると目のある位置まで移動させ、視界を塞ぐ。

「え、あの暗い」

い、の状態で文字を紡げなかった。
本ではないもので塞がれてチカチカする。
やがて本も下ろされ目が見えていた時と同じ高さに男は立っていて。
ぽかんとしていた。

「いつでも返しにこい」

トラファルガー・ローは本をしっかり持たせるとリーシャを自室から退室させた。
その時の記憶や部屋まで帰った記憶が抜けており、放心していたのが消えた時はお風呂から上がっていた。
一体何時間放心していたのか。
というか、あれは白昼夢ではないかと思うくらい夢のような朧気なものだった。
本ではないけれど男の指先が押し付けられただけなんだと己に暗示をかけて無理矢理眠った。

屋敷にお世話になって一ヶ月。
例の件からなにもなくてやはり指先だったんだなと通りすぎた思い出になっていた。
そう緩んでいた日、トラファルガー・ローに声をかけられて手伝うように言いつけられた。
なにをするのかと思えば祭りがもうすぐ開催されるので飾りつけの紙を切るようにとのことだ。なんでこの人達が祭りに?と疑問に思う。
チャリティーみたいなものだと返される。

「うちは地域密着型。わけのわからねェ団体よりもこういうのに参加して透明さを示してやってる」

「んんん」

なるほど、とその滑り込みに唸った。
警戒心は確かに薄れそう。
そういうことならと暇を感じていたので手伝った。

「これが型番」

説明をされ手順をおって切っていく。

「おー、やり易い」

「毎年のことだからな」

「こういうの私やったことないから新鮮です」

祭りは楽しむ側だったし経験も新鮮。
内心楽しく切っていく。
ティータイムも途中で挟む。

「お前も慣れたな」

なんのことか分からなくて、ローはここでの生活だと付け加えられてああ、と頷く。

「お陰さまで。皆も優しいし」

「おれが優しいからな」

「え、ああ、はい」

優しいのは優しいけどなんか怖いな言い方。

「このままここにいても構わない」

ローは立ち上がってこちらへ来るとスッと腰を曲げて自然に挨拶するみたいに口付けた。

「あ……指先」

「指先?」

彼は離れたまま顔をしかめて変なことを呟く女を見たが、呆けているのは一目瞭然。

「適当に休め。今から出る」

そう告げるとさくさく部屋を出る。
勝手にキスされてしまってこちらは混乱しているのに最低ではなかろうか。

「って、なに今の。当然みたいな」

そんな間柄でもないのにキスして当然な仲のような対応だ。
なんの認定を受けているのか激しく知りたい。
呆然と座っていて、飲み物は冷めていた。
口直しにしても全く効果もない。
酷いティータイムとなった。

その後、また一ヶ月経ち、さすがにもう犬になめられたと思うようになった。
一ヶ月後とに空くということは、彼は単にキスしたい男なのだと察した。

「そろそろおねぇちゃんに電話したいです」

どういう状況なのか知らないので聞いてみることにした。

「そういやそんなこともあったな。ああ、良いぜ」

あっさり許可をもらい、煮え切らない返答に驚いた。
姉の存在を忘れるなんて、本来の理由を忘れていたというのか。
信じられないぞこの人。

「じゃあ行ってきます」

電話を借りる為に向かおうとしたら腕を引かれてキスをされた。
またか。
どんだけ好きなんだと。

「まだ解決してない。そのことを忘れるな」

「はぁ、わかってますけど」

なぜ今いうのか。
今更脱走なんてしないんだけど。

「自分の立場は分かってますから」

良くわからないけど、釘をさされたのかも。
鈍いから分かりにくいので分かりやすく言ってほしかった。
姉に電話をかけるとユースタスファミリーが電話に出て、姉の不在を確認すると色々質問され、本人確認の後あねと会話した。

「無事だよ」

うんうん、と頷き、何度も話す。


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