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魔法郵便局 後編


というわけで、素知らぬふりを突き通し、なにもなかった澄ましがおを晒して職場へ。
懐には退職届の封筒を忍ばせていた。
いつでも逃げることができるし、ローもこれ以上言うのなら転職しよう。
ストレス溜めるとダメだしね。
普段と同じ仕事をこなし、受付でぼんやりしていると幼稚園の園長のベルメールがやってきた。
幼稚園のナミという女先生の親らしい。
それにしてはやけに若い。
いったい何歳で生んだ子なんだ。
40過ぎには見えん。

「お、今日もやってるな郵便局」

「一応年中無休のブラックですからね」

「有給あんじゃねーか」

隣で受付をしているベポが口を出す。
有給でも、バイトだからびっくりだ。
どんだけ待遇破格なんだってね。

「でも、ここのバイト面接で落とされる率が高いって有名だぞ?」

ベルメール情報で初めて知った。
一回で雇って貰えたけど。
随分狭い条件が設定されてるんだな。
一発合格できて幸運だ。

「ほい、みかん郵送な」

知り合いに送るものらしく準備して郵送可能だと判断すると、受け付ける。
ベポがせっせと運ぶのを見届けるとベルメールが違う話題を降ってくる。
この町の人、ここで話し込むの好きだな。

「聞いたか?例の怪盗マク、ぼろぼろで発見されて逮捕されたんだってな」

「子供を誘拐したんですし捕まりもしますよ」

「確かにやっちゃいけねぇことだよな」

ベルメールもうんうんとうなずき賛同。
だよね、やっちゃ駄目だよね。
全く許せない反抗だ。
度しがたいくらい、子供を誘拐することは人としてやってはいけない。
ベルメールからお墨付きをもらった気持ちになってローに言われて曇っていたモヤモヤが晴れた。
因みに新聞では通報した人を探しているとのこと。

100の確率で出ないけど。
偽物が現れても誰も相手にしない。
むしろ、出てこない方が良い。
この町の住人は後ろぐらいことをしている人だって必ず居る。
その人たちを無闇に刺激したいわけでないからこの騒動はこれ以上なにもないだろう。
ベルメールを見送ると再び受け付けになる。
からんとおとがして顔をあげると今一番会いたくない男に会う。
勿論ローだ。
どうして裏口ではなく、ここからきたのか少しだけ気になる。

「どこに行かれてたんですか?」

「野暮用でな。大したことはない」

そういわれても普段働かない人が動いているだけでびっくりするし、行動理由を知りたい。
衝動にかられつつも、我慢。
これ以上関係を持ちたくない。

「というのは嘘で、ただお見合いしてきただけだ」

えっと、どう応対すれば良いのか。
断ってきたがなと聞いてもないのに勝手に進んでいく会話。
いや、全く上司の恋愛については興味がないんだ。
いやまじで。
あったらそもそも同じ職場で顔を付き合わせられるか。。
それに、色々弱味を知られているなんて、そんな余裕はない。

「断る為に仕事があると抜けてきた」

「実際来てるじゃないですか」

「権力者の娘が店に嫌がらせしないように見に来ただけだ」

「なんですかその見合い。店長ってそんな相手をされるくらいの人でしたっけ?」

「知るか。他人の下した評価がそれらしい」

本当に他人事なのである。
それに、嫌がらせって酷いにも程がある女である。
それともやるのは親なのか。
潰れてしまうのは困るのだがな。
さっきから普通に話しているから先日のことを根掘り聞かれず安堵。
今度こそ匂わせられたら逃げてしまいたくなる。
折角居心地の良い土地を見つけたのだから、出来ればリーシャは居続けたいというのが本音。
それをこの賢い男が察してくれますよーに。
五年も働いているのだから少しくらい信用されていると良いのに。
五年の間に言えたことを今言う謎は残るけど。

「困惑するのは無理もない。別にお前を追い出そうとしているつもりはない。ただ、おれがお前を一方的に好いているだけだ」

突然の不意打ちに脳が固まる。
思考することすら出来ず、動き出した頃には男の冗談だと判断された。
そうとしか思えん。
大体、裏で動く女を好きだとか物好き。
自分だったらナイ。
裏で動いていく女を好きにならない。
疑わしくて流すことにした。

「なんだ?信じてねェな」

くつくつと笑う人のどこに信用出来る箇所があるのか。
ああやっぱり冗談だったか。
安堵しつつ、作業に戻る。
ベポは空気を読める熊らしく、既にこの空間に居ない。
いや読まなくていーから。

「そんなことよりおれに構え」

この郵便局のトップが一番やっちゃいけない妨害しだしたよ。
作業止めたらいかんでしょうが。
じろりと見た。

「どうしました?店長。急に私なんかに興味持って」

いろいろ聞きたいことはあれど、それが気になる。
いままで特に会話が多かったわけでもなく、長年働いていても盛り上がることもなく。
至って普通の付き合いだ。
それなのに今さらなにをどう変化したのか。

「お前を採用した時からずっと興味はあったが?」

「初耳」

「そもそも採用しただろ」

採用しただけでしょ。

「私は確かに女ですが、特に目を引くことをしてませんでしたよ」

「一般人ではない雰囲気があったぜ?」

まじか、そんなもの出している意識もない。
至って平凡、品行は良いのだが。
ただの町娘だ。
あの犯行時に見ていたとして、惚れるなんて。
冗談冗談と己に言い聞かせて、まかり間違ってもローが好意を寄せていることを忘れることに。
しかし、一度口に出したからか、幾度も言うようになった。
一人の時があったので周りに秘密にしているのかと思いきや、別に隠しているわけでもなく、堂々と人が居るのに、局員も居る前で言うようになったので冷や汗ものだ。

晒し者みたいになってきた。
これはいづれ町に知れ渡るのでないかと危惧していたら、現実になったことで絶望。
ルフィでさえ、ローと恋人なんだろと言われた時は砂になった。
恋人じゃないし、そもそもデマだし。
と、言い聞かせている途中でローがやってきて、何故か見せつけるように腰に手を回し、体を寄せられる。

「え、なに?」

「やっぱり仲良しなんだな。なんで違っていったんだ?」

仲良しの中に恋人という単語も含まれているぞ。
こちらが戸惑っている間にルフィはローにトラ男に頼みたいことがあるんだと話しかける。
ちょ、待って、この体勢で話すの可笑しいから。
斜め横で作業していたペンギンが「なんだ、くっついたのか」と悟った顔で宣う。
引っ付いてない!

ルフィが去ってローも腰を離して自室へ戻っていこうとするので早歩きで彼の後についていく。
扉を閉められる前に体を滑り込ませて問いかけた。
どうしてああいうことをしたのかと。
お断りしたよね。

「言っただろ、ものにすると」

それを言われると言葉に詰まる。
はくはくと声を出せずなにかを言わねばと思考する。

「私はなりません。ものにはなりませんから」

「なにが嫌なんだ、言ってみろ。少しは考えてやる」

ドエスだな相変わらず。
やる気のないドエスっていうジャンル。
漫画かよー。
肩を掴まれて他の方向に向けられなくなる。
困った挙げ句、言葉も見つけねば。
難易度が高い。

「なにもかもです!私はただ普通に暮らしたいのに、好きとか告白されたくないです」

「普通に暮らしたいのにあんなことをするなんて矛盾してる」

「貴方以外にばれてないのならないのと同じなんですよ」

ローは納得いかない顔をする。
勝手に目撃しておいて。
咳払いをして、この話は終わりですと告げた。
彼の気持ちを受け取れないからだ。

「いずれお前はおれのものになる」

ローは預言者のようにニヤリと笑った。
ないない、と内心荒ぶった。
通常業務に戻るとベポが狙ったように帰ってくる。
薄情ものめぇ、恨みがましく見ておいた。
彼の視線を浴びながら書類を制していく。

「既に五割もお前と恋人だと認識させたんだ、あとは転がり落ちるだけ」

その台詞に先程のルフィの台詞がよみがえる。
本当だ、埋められている。
逃げ時を失ったかもしれない。


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