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偽りの


なぜなにも出来ないのだと失望された。
失望されるような期待なんて元々持ってなかったくせに、虫の良い話だ。
そんなに失望したいのならば好きなだけ思えばいいさ。
やけくそになったリーシャは能力などが関係ないポーションを売るお店をすることにした。
これならば戦えないとかは気にしなくても良い。
両親に失望され、同年代の子供達にバカにされたって生きることはやめらんない。

そうして、放浪のポーション売りとして軌道に乗り出した頃、どこか空気の違う男がポーション屋の常連になった。
口を開くとポーション屋か、とか、治安悪いな、とかいつも不機嫌そうで。
こっちは商売だからと聞いてないふりをした。
男の常連は頻繁にこちらの知らぬ言葉を話す。

「まだ無理みたいだ」

彼は独り言なのか、全く繋がらないことを急に言い出す。

「早くやれば良いのにとろいな」

悪口かと思えば違うらしい。
視線は変なところに向いている。

「なんでポーション屋なんだ」

聞かれたので魔力が少ないので戦えないのだと小さく発する。

「は?魔力が?なんだそれは……くだらねェ。魔力がないからなんだってんだ」

この世界では魔力が全てなのに、変な男だ。

「そんなもん、なんの役に立つ」

「お客さんだってこうやって暮らしてるでしょ?」

「魔力がなくても食える」

「なかったらろくな仕事に就けないんです」

苦笑して常識を唱える。
でも、男は不快だという顔をして帰っていく。

「もう少しだと」

なにかのカウントダウンをしているみたい。
なにかあるみたいだ。
それがさっぱりでいつも適当に聞き流している。
男がまたやってきて今度は嬉しそうに今日はやっと終わるんだと報告してくる。

「魔法のない生活をしてきたお前なら、きっと復帰も早い」

「お客さん、なにを言って」

「名乗れなかったが、やっと言える。おれはローだ」

「え?名前?」

「思い出せ、目が覚めたらもう忘れるな」

ローは勝手に言い捨ててリーシャの手を掴む。



「ユーザーネーム、リーシャ。ログアウトを申請」

そう言い終えた男を最後にホワイトアウト。






目が覚めると世界はぐるりと姿を変え、異世界に飛ばされたような感覚に陥った。
後にそう言えるくらい、世界が変化した。
リーシャが今まで居た世界は生まれた世界でなく、作られた世界だったのだ。
何百万人ものゲームユーザーがゲームの中に閉じ込められるという事件。

閉じ込められるという展開はよくあるし、今回のゲームの悲劇はゲームの中の世界が現実だと錯覚する傾向が強いこと。
現実とゲームの世界が混雑している。
やって来た男で常連の男はローと言い、思いでの中では幼馴染の存在だった。
今まで忘れていたのが不思議なくらいに傍に居た。
彼がゲームの世界にこれたのはローが緊急事態の中で開発したゲームに入れるデータのお陰。
天才の部類に入るとは思っていたが。
小説ならばヒーローなのだろう。

しかし、ローは全ての存在を救ったことを隠した。
僅かな期間だろうと魔法のある生活をしていたユーザーらは現代に戻ってきたことにより皮肉にも衰退した現代の生活水準に戸惑い苦悩しているらしい。
テレビでは放送されない情報なのでローは事態を把握するために集めて教えてくれた。

「戻れそうなの?」

「難しいが、人間の脳は慣れる生き物。いずれ慣れる」

「水準を下げられるってしんどいのに」

「さてな」

リーシャをバカにして追い出していたユーザー達のことをローはちゃんと知っているので冷たく吐き捨てた。
魔法が使えないと罵倒し蔑んだやつは因果応報でどうでもいいと思っている。
それが自分に帰ってくるだけだ。
使えないことを受け入れることだって出来たんだ。
世界観はゲーム会社は作ったが、魔法が使えないからばかにされるような設定にしたことはない。

ということは、ユーザー達がそういう社会を好きに作りこんでしまったのだ。
一年もない社会で。
自分の決めたルールに自分を苦しめているだけ。
あとは責任を取るやつとユーザーの自由。
ローはリーシャが無事ならばそれで良かった。

「またゲームしたいな」

「あんな目にあったのにか?」

「それは……ゲームっていうのは楽しいからやめられないよ」

「ポーション屋でもまた開くのか」

「流石に普通に遊びたい」

「普通にって単語が変になってるぞ」

ベッドの中に居て、リーシャの予想では恐らくゲームは当分周りから禁止にされるだろう。
事件の後遺症を心配されることになる。
無能と呼ばれて魔法が使えなかった自分。
まさか、こんな展開になるとは想像もしてなくて、魔法を使わない生活をしていたから、むしろ水準が上がっている。
火だってわざわざ斧で切って薪にしてくべなくても良いのが嬉しい。

「お前だけスローライフだったよな」

「確かに。釣りとか普通にやってたもん」

「釣り、今度連れてってやる」

「私、キャンプなら自信ある。火おこしとかやれるから」

「フフ、楽しみだ」

野生の暮らしならば結構自己評価が高め。
楽しみなのは己も同じ。
たまにテレビに出ているゲームに閉じ込められた大人がインタビューに答えているけれど、それを見ているとこういうのを糧に生きている人も居るんだなと感心した。
けれど、ゲームの中で経験したことは一生忘れぬだろう。

隣にパートナーが居てくれて良かった。
もし居なければ、精神的にも挫けていたかもしれないのだ。
それくらい迫害の暮らしは想像を越えていた。
ああいうのは体験してみないと全く違う。
会話の途中で目をぼんやりしてしく女を優しく抱き締めた。
後ろを向くと瞳を鋭くさせて大丈夫だと言ってくれる。
リーシャはそこに体重を預けて目を閉じた。


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