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前編


もし、世の中に対して嫌になったらゲームの世界に飛び込みたくなくなるとしたら、それは本能とでも呼びたい。
近隣で有名な名門校は所謂お嬢様やお坊ちゃんが通う親が資産家な人達が通うところに庶民を放り込んだのなら簡単に予想出来る。
それをわかっているようで頭がお花畑の親は全く想像出来ないだろう。
娘が日々雑用を押し付けられる地獄を。
地獄から脱したのはとある深夜アニメを見ていたときだ。
それはどことなく見たことのある内容なので懐かしさを覚え、食い入るように見た。
その内容はゲームの世界から異世界へ転移するという一見見たこともある二番煎じなものだが、そのアニメが異質な部分はゲームの土地とNPCすらも転移するというものだ。
NPC達は自分達が異世界へ転移したと知っており、主人公を誠心誠意支えていくというもの。
どのNPCも忠誠心が高く、強い。
それを見終われば唐突に眠気に包まれた。
それが眠気ではなく記憶による強制の整理であると後に知る。
それは所謂前世というのか、それとも未来における未来視というものだろうか。
それはこの灰色の日常を照らしてくれる光。
そうなると、あとはやることを速やかにやるべき。
まずはこれからに向けて行動するべく、寝ることした。
朝になると更に記憶を整理させ、その異世界へ行くことになるゲームを調べることにした。
残念ながら配信のはの字もなく、ネットワークページを閉じた。
だが、お金を貯めて課金するためにリーシャは歩き出す。
通う学校に嫌々通いながら今か今かと酷く似ている世界観のゲームを探した。
漸く見つけた時には2年が経過していた。
かなり神経質になっていたので諦めたときもあったけれど。
しかし、これからがスタートだ。
事前登録をすると開始したのは半年後。
これまた気の長いことだ。

雑用をこなしながらも課金する日々がくる。
じわじわとやる人も増えて社会現象となる頃、クラスメイトに命令という名の頼みごとを受けた。
ゲームで己達が上に行くためにしろという無茶振り。
本来なら鼻で笑い心の中で呪詛を吐いているところだが、これが目的だったのだ。
ほくそ笑みながらも笑顔を浮かべて彼らの願いを聞き入れた。
計画通り、順調にNPCたる第2の自分を作るかのように進めた。
途中、強化したら失敗して闇属性を生やしてしまったが、そんなものはおまけだ。
と、のちに大変になることを知らず思ったわけだが。
ただのスマホゲームだと侮ることなかれ。
かなり種類の豊富なアイテムや技、スペルがある。
自分でもびっくりするが詳しいことをノートに書き写したりして凌ぐ。
せっせの己と己の相棒を強化していき、周りのお金持ちさん達もこれでもかと闘争心を焚き付けた。
面白い程に争ってくれるが、クラスメイトと他のクラスメイト達の争いはなんというか、それで良いのかと思わせる程白熱した。
そして、相棒のNPCに向けて声をかける。

「もうすぐサービス終了だね」

相棒が出来てから独り言が増えた。
三年でこのアプリは終わる。
アプリとしては長寿であった。
ちょっとお金を持っている程度では維持費すら課金しきれなかったわけだ。
限界もあるし、一人では無理というのだ。
一応、データもコピーして保存しているが、そろそろかとお知らせを見ているとサービスを3ヶ月後に終わることが書いていた。
よしきた、と思うと同時にもう少し時間が欲しいという傲慢なことを思ってしまう。
サービスが終わるのが惜しく思うのだ。
野望と共に開始したゲームが今は生活の一部となっているのだから。
いくつか、終わる前に紹介しておこう。
リーシャが一番貢献したにも関わらずリーダーでもギルドマスターでもないしたっぱの位置にいるギルドの名前、は改名するとして、ギルドの拠点は『ルピ空中大庭園』という単純な名前だ。
ギルドマスターの好みの名前で決められたのでギルド員達が直ぐにアプリをアンインストールをしたり辞めていくのを予想して事前に装備とNPC達と拠点の権利を貰うことにする。
しかし、あんなに熱くなっていたのにあっさり辞めるのだろうなと心が冷えた。
後日、サービス終了が告知された途端、次々辞めていく人達。
予想していたがこんなにがんがん辞めていくのを見ていたら己の記憶さえも汚されているようで不快になる。
やはりギルドマスターも含め全員が一ヶ月後には抜けた。
その際、ギルドマスターは自動的にリーシャのものとなる。
作戦の最終段階にいった。
そして、重課金の者達も欲しいと申し出れば快く拠点とNPC達、装備をくれた。
やはり、もうデータすらなくなってしまうのだから惜しむものもないのだろう。
そうして、空中大庭園を含め、いくつかの拠点と残された装備、アイテム、お金を集めて己の手中として準備した。
あとは来る日がくるまで待つのみ。
サービス終了その時までゲームにログインしておけば転移は起こる。
もし、起こらなかったしてもゲームとしての思い出は残るのだから構わない。
また灰色でどぶいろな日常を繰り返すのみ。
そして、夜の10時。
タイムリミット。

――コチコチ

時計の針の音。

――カーンカーンカーン

10時になった。
部屋は夜の静寂しか起こらない。
そもそもログインし続けることで転移が起こると思ったのはアニメの内容から真似をしただけだ。
俯いて就寝した。


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