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中年がイイ(後編)


ルフィから後輩を取り戻しもうちょっとで悪魔がたくさん居る楽園へ行けるかもしれないという展開を思ったが、ギルドに残した可愛い同士達を思い出して踏みとどまる。
一緒に中年マガジンを作っては回し読み、中年ランキング作成。
ディスカッションでどの悪魔がイケているかを激しく口論させた。
その思い出が今巡る。
くたびれたおやじが良い、枯れた悪魔だ。
いや、現役バリバリのおっさんだ。
うんうん。
どの中年も良い良い。
中立を貫き皆の深き理解力にいつも共感していた。

『今の時代はルーキーです!』

「部外者は黙っとけ」

今は中年ディスカッションだ。
思わず言ったが他の言葉にかき消されたのはセーフだったな。
つい先日悪魔ならば寛容に行こうと決めたではないか。
そう言い聞かせて新派閥を何度睨みかけたことか。
自分がそれをすればいかに悪魔大好きっ子達でも不満を抱く結果となる。
そんなストレスはかけたくない。
自分と少し、いやかなり、めちゃくちゃ趣向が違うからと怒るのは悪魔が好きな者としてあまりにも器が狭い。

「じゃーなー」

ルフィが帰っていくのを見ているとスモーカーがこちらを見ていることに気付いた。

「おれのことよりも自分のことを大切にしろ」

心臓撃ち抜かれたわ。
後輩に持ってもらわねば地面に頭打ち付けてた。

「尊い!尊いい!」

唇を噛み余韻が響く。
後輩が「共感」と言う。
しかし、ルフィに揺れてたの知ってるんだゾ。

「隠さなくて良い。ルフィに今惹かれてるでひょ」

後輩はあたふたするが首を振る。

「私は確かに悪魔が好きだけれど、好きなものを考えて喜ぶ貴方や貴方達も同じくらい好きなの」

後輩がガバッと猛進して抱きついてくるのを受け止め切れず後ろに倒れた。
結局倒れることになるならと暫くされるがままでいた。
落ち着いてからそそくさと撤収。
組織にはベテラン悪魔と暴れまわっていたので追い付くことすら不可能と報告。
虚偽じゃないから良し。
真実を言うほどバカではないし、皆利用されていると知っているので売る子も居ないときている。
見返りがそもそも想定されていない計画の中に組み込まれている。
会社というものをわかっていない奴が組織を統括しているなと直ぐに察した。
誰だって嫌々している。
無理矢理ならされて、させられていた。
報告する子が居るのは考えられないほど先が不透明な計画。
そうやって幾日か過ぎると銀行に悪魔が入ってきたと通報を受けて嫌々向かう。
嫌々してる第一の仕事人だからノロノロと移動した。
だって、町の人達だってこちらが誘惑することを期待して見てるんだから同罪。
助ける気も起きんわ。
悪態をネチネチ垂れ流しつつ到着すると悪魔が既に逃げたと怒鳴る男を蔑みの瞳で見てから帰る。
が、馬車へ戻るとその悪魔らしき男がスマートに搭乗していてビビる。
さらっと乗ってるし知ってる悪魔だった。
彼はローだ。
スモーカーとの絡みにも良く出会う。
ルフィ程美味しくはないが。

「強盗犯がなにしきに来たの」

「中年意外には辛辣だな」

絶対傷ついてないだろう声音で指摘されそれがなんだと開き直る。
着々と歳を取った容姿になる悪魔には適当に対応している。
あまり邪険にすると中年になる頃に近寄らせてもらえなくなるという下心。
バレてないようで密かに安堵。

「一杯奢ってやろうか」

「よく盗みを働いた銀行前でそんな発言出来るなぁ」

いけしゃあしゃあってやつ。
悪魔だから罪悪感なんてないんだろうけど。
こっちも正義感など持ち合わせてないからどうでもいいという心境だ。
金を持ってようと持ってなかろうが構わん。
気にしないまま馬車は動き出す。
運転者は息のかかった者なのでこのことが知れることはない。

「もっとフケてからきてほしいところね」

「年齢はお前よりずっと上なんだがな」

微かに動じる男は乾いた笑みを浮かべる。

「見た目のことを言ってるのよ。み、た、め」

「お前の好みでフケた姿にはなるつもりはない」

じゃあ、なんでここにいるんだと視線を突き刺す。
このみなのを理解していての発言だろそれは。
じとめではよ消えろと念を抱いているとそれを無視し寛ぎ出す。
誰がそんなことしろと言った。
どこかへ行けと念じていると馬車が止まる。
後輩が強盗犯っすと報告してきた。

「我らイケオジ推進派に挑むとは命知らずね」

「そのネーミングの意味が激しく分からない」

ローの呆れた声をガン無視しつつ馬車を降りる。
悪魔の手を借りるかと思いました?
残念、ありえません。

「金を置いていけ」

卑しい笑みをこさえて例え置いていっても相手がこちらを異性と認識したのであればこの体さえ襲われるのは目に見えている。
だから、相手の好きにはさせない。
スラッと刃を抜き、相手に向ける。

「人間など敵だ」

自分達の存在はまさに人間の浅ましいエゴによって作られた。
どこに味方するやつがいる。
密告だってされないほどこちらを見下すのだから全く人望がないと笑っていた。
あいつらが間違った存在なら、教えられたことだって嘘まみれなのは明らか。

「やれっ」

強盗が数にものを言わせてこちらへ走ってくる。
やられると外野は思うかもしれない、しかし、そんなありきたりな悲劇は起こらない。
あんな自信満々に降りてきたのだから当然切り捨てる。

「人間に情けは無用」

それに習うように後輩も剣を抜き、己も型に沿うものを構える。
悪魔はここに出てこないようだ。
見つかったらあとが面倒だし見物気分なのが見え見え。
強盗犯をこちらへ向かってくるのに反応してすらりとステップを踏む。
殺しにかかるというのなら身を守るだけ。

――ズバッ

鈍い音がにて肉が落ちる。
地面を50キロごえを受け止める。
地面も可哀想に、欲と結末を見なければならないなんてね。
無の顔を維持したまま次へ。
相手はこちらがなんの躊躇もなく反撃したことに驚き、逆上。
なんで怒るのだろう、全く不思議。
先に襲ってきた癖に怒る道理などあるものか。
内心、つまらない感情だと切り捨て、肉体も同時に捨てた。
どさりどさりと伏せていく人体。
残りの奴等は敵わないと遅すぎる体験を経て逃げようとしている。

「魅了を発動」

後輩に許可をし、彼女は手に印を書き犯人の後ろ姿に向けて振り上げる。
手からは不透明な糸が出現し魅了と名付けられたそれが犯人達を縛り上げる。
本来悪魔に使われるそれが人間に使われる方が遥かに多いと民衆は知らないかもしれない。
いや、知っている筈だ。
特殊な能力を無理矢理使わされるというのはそれなりのリスクがあるのに。
言わば、被害者しかいないのにね。
民衆はその罪悪感を嫌悪に変えてわざと感情を誤魔化しているのだろう。
だからこそ、救う価値を見出だせぬのだ。
助けて欲しいと頼られても白けるだけ。
犯人達を全員縛り上げて放置した。
全員を馬車に入れたら馬車が壊れる。
警備を呼んで人手を借りるしかあるまい。
この手柄は誰のものになるのかを考えると笑えた。
自分たちの物にならないことは確かだ。

「行こう」

「はい」

後輩も慣れているので静かな様子で馬車を操る席へ向かう。
乗っていたところへ腰を下ろすとローはあいつらは放っておくのかと声をかけてくる。

「ええ。生きてようと私達がしたとはならないもの」

「ひでェ世の中だ」

「貴方が言うのなら酷いのでしょう」

長年生きていた悪魔に同情させる社会など死した方が世のためだなと薄く笑う。
肩が凝ったなと左右に首を回していると彼が小さく息を吐くのが耳骨に反応した。
息が当たるくらい近いから仕方ない。

「ちょっとは労ってやる」

そう聞こえるや僅かに相手がもやもやして、次いで見えたのは味のある中年だった。

「えっっっっ!」

世の中を揉まれに揉まれて疲れきった窓際中年に見える。

「どうしたの?誰かに嫌な事を言われたの?」

「お前の手のひら返しが一番怖い」

見事アフターで年を取った彼はキツくこちらを睨む。
それはそれで母性に突き刺さるから良いや。

「やめろ、その顔」

思っていたのと違うとクレーム。

「ほら、頭ギュッてしてあげる」

「いらねェ。こんなんならやらない方が良かった」

ローはあっという間に青年に戻った。

「あああ。私の可愛い中年が」

「元はおれだ」

ぷんすかぷんぷんと怒って馬車から飛び立ってしまった。


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