怒る魔法使い 前編
上司のミスなのにこちらのミスと言い、濡れぎぬを着せられ、城を首にされた。
許すまじ上司と雇い主。
ただでは起きたくない。
でも、取り合えず自分の安全の為にかけておいた守護魔法を緩めて起き、必要ない魔力を取り戻す。
だってもう働いてないんだから当然じゃん。
くっそムカついたから報いたいのが9割だけどねー。
借りている宿からお城が見えてこれみよがしなあっかんべーをしておく。
魔法でキュルルンとでんちゅうどんというアイテムを出す。
説明しよう、でんちゅうどんとは。
でんちゅう、電柱のように太くて美味しいうどんが作れるキットの事だ。
キットなので予め細かいところは完成されていいるので麺を茹でるだけで直ぐに食べられる。
それを啜ると美味しいし空腹が満たされていく。
これを商売にでもしようものなら爆発大ヒット間違いなしなのだが、作れるのがリーシャ一人なので発売も出来ないのだ。
一人なので売れるとしても大体二つが限界。
それに、なにかあっても手遅れなので簡単に世間にお披露目できないというものもあり、一人で独占していくしかない。
美味しいから大歓迎。
キットで作りせっせと完成させていく。
素晴らしいこしを持つうどんが出来ればお腹が催促してきて早速食べた。
「んー、美味しい」
デリシャスデリシャス。
自画自賛は過言でない。
試しに食べてみて。
なーんてね。
「はふはふ」
熱いのでフーフーして冷ます。
この動作さえ愛しい。
満腹になればあとは寝る。
ぐうたら万歳、もう功績を横取りされる仕事に行かなくて済むのは僭越であった。
寝たあとは宛てもなくさ迷うように歩いた。
その過程で空腹だったのだという男にうどんを食べさせたら虜にさせてしまったらしくなつかれる。
やはり食べ物は偉大だ。
それから頼んでないのについてくる。
うどんを求められて満更でないので渡してしまう。
次々とお代わりを求められてこわれるままに。
そうして落ちついた男にどこかへ帰る場所があるかいと聞くが、迷子なのだと言われる。
迷子?と信じられない気持ちで見ていると迷子ではないと行っていたのだが、仲間達が良く迷子になるのだと迷惑な顔で伝えてくる。
それって、どう見てもこちらが迷子になっているように見えるんですが。
認めないタイプなのかな、まぁ良いや。
旅は道連れとも言うしな。
彼はゾロと言うらしい。
天然迷子な人だと仮定し、彼と歩き出す寸前に大声でゾロと呼ぶ声に肩がびくりと揺れて驚きに辺りを見る。
「ルーム」
なにかが体をすり抜けるような寒々しい、鳥肌が立つ感覚に震える。
と、視界に今までなかった筈の男が現れて杖を構える。
敵襲だと本能が起こされた。
反射行動と言う奴だ。
最初は動物かと思ったけどれっきとした異性だった。
油断は禁物だな。
なんせ、その男は刀を持っていて目も鋭かったし。
それはゾロにも当てはまるのだけど。
目線を男に向けて、杖を向けているとゾロがどうしたトラ男、と気安い呼び名で構う。
知り合いなのかとまだ警戒を解かない。
怒気をた揺らせているのも関係していて、怒っていると雰囲気で分かる。
「ゾロ屋、この女は誰だ。おれがお前を探している間になにナンパしてんだ」
相当怒りに来ている。
苦労人のような台詞を吐く。
「この女に飯を食わせてもらったんだよ」
「なに食わせられんだッ」
更に油を注いでいくスタイルにゾロはケロッとしている。
どうやらゾロは彼が怒っている理由を分かっていないようだ。
杖の構えを解く。
知り合いでこれだけコントを見せてもらえば警戒をする必要もないだろうと。
でんちゅうどんを進められそうな空気でないから出すのは控えよう。
「お前は……誰だ」
「いえ、そんなことより貴方も誰でしょう」
こちらの台詞だと思うんだ。
彼は怪訝な顔をして互いに名前を名乗らないという緊張感のあるものになる。
「こいつは数時間前まで城勤務だった魔法使いのリーシャっていうんだと」
バラシタ!?
まじすか。
「そうか。おれはトラファルガー・ロー。こいつが迷惑かけたな」
彼、トラファルガー・ロー氏は素直に謝ってきたので、いえいえと述べる。
お互いのほほんとした空気になったところで、ローの王城勤務だった項目に注目したらしい。
「魔法使いなのは分かっていたが、城で働いてたのか」
「今さっき辞めたので元ですねぇー」
「もしかして、あっちにある国の結界が緩んだことに関係があるか?」
「え?」
そんな馬鹿な。
魔法のトップも理解してなかったのに、この人に分かるのか?
「二年ほど前からあの国の城の周りの結界魔法が強固になって、周辺国がざわついてただろ」
「おれは魔法は分からねェんでな」
ゾロが興味ない風に答える。
どこの国の人たちなんだろう、言い方的に同じ国の人達ではないのだろうな。
取り敢えずばれても良いことはないのでしらを切る。
「私は貴方達の言う結界がわからないのですが、ゾロさん。お友だちが来られたのなら一緒に帰られては」
話題をずらした。
しかし、ローは瞳を光らせてリーシャの腕を掴む。
それを振りほどく。
「やめてください。警備に言って訴えますよ」
「おれ達は王城に用がある。もしよければ恨みを晴らしたくないか」
晴らしたくないかって?
晴らしたいに決まってる。
今までついでだったけど結界を張り命を守っていたのに知らずに簡単に切り捨てられて腸が煮えくり返ってるんだ。
晴らせるんなら張らしたいと思うが、どうやれば出来ると言うのだろうか。
なんせ、彼らはただの男二人だけ。
一国に泡を吹かせられるとは到底思えぬ。
睨み付けて嘘を言うなと小さく唸る。
それに笑う男。
背筋がぞくりとする。
この人、多分強い。
言うことをそのまま聞くのもシャクなので証明しろと権利を主張。
なんの証拠も無く分かったなんて言えないもんな。
そう言えば、彼の傍にいた人が何故か刀を構える。
男曰く、このゾロは強いので戦ってみろと言われ、びくつく。
いきなり戦うとか戦闘民族なのかこいつら。
結界をはれるだけの女になにをしようというのか。
取り敢えず殺されるかもしれない懸念を抱いて特大の結界を貼ってゾロの攻撃に備えた。
「っ」
――ガキン!
「わ!」
ゾロが振りかぶった先は結界が遮り、ゾロはへェ、と笑う。
その錬度と固さに感嘆した。
ローも思っていたよりも固さを感じて笑う。
「成る程」
ゾロは連続で切りつけるがびくともしない。
前までは国単位で覆っていたが今は人一人の分なので無敵だ。
リーシャもここまで耐えられるとはと驚く。
今まで覆ってきたものを剥がしたゆえに体調もすこぶる良く、コンディションは抜群。
破られることもない。
「キリがないからやめだ」
ゾロはこれからあの国に特攻しに行くので体力をこれ以上消耗させないように刀を仕舞う。
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