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まざりもの 前編


初めて目にした時、思わず大きな声で本音をぶちまけてしまった。

「めっちゃ汚っ!」

「……」

その子は汚れた体や煤けた顔でぎろりと闇を溶かした殺気共々向けてくる。
この時、その顔を向けられても仕方ないことを言ったのだ。
しかし、更に言うとその子に高い高いをしながら発言したのだから、嫌悪から発したのだから許されても良いと思う。
子供だし、白い羽を持つことから清い魂を持つと噂の天使族であるのだ。
多分そうだ。
だって彼はどう見ても憎悪満載の顔をし続けていて、いかにも誰か一人手にかけていても可笑しくない目をしている。
散々評価を張り付けている己はというと、彼とは正反対の種族。
悪魔族と言われる。
世間的にはエロスの代名詞にされることが多い。
それは違う系統の悪魔だと突っ込みたいところだが、きりがない。
で、この子供をぶらんとさせていると匂いも気になって思わず。

「お風呂入ろうね」

声をかける。
相手の了承を取る必要は感じない。
拒否されても入れることは必須。
なんの種族だろうと等しく入ってもらう。
特に何も言わぬ子を風呂に放り投げた。
そこに一切の配慮がなかったのは誰かと暮らしたこともなかったから。
この世に生まれ落ちて結構経つが、世間が全く暖かみのない空洞の洞穴のように寒い事を知っていた。
だから、こんな睨むことしか出来ない者に配慮するという気持ちはなかった。
窓が汚れていたから拭こうというのと同じ感覚で拾ったのだ。
そこに同情も憐れみもない。
たまたま拾った者がかなりアレだったから。
理由なんてそれだけだ。
そんな些細でちっぽけなもの。
ざぶんと水しぶきを撒きながら放たれたというのに、その子はやはり睨むこと以外しなかった。



あれから数百年。

薄汚くて無口な子だった者に足蹴にされていた。
その眼はじとりと形どられていて今にも般若が降臨しそうだ。

「お前……いい加減にしろ」

激怒とならず焦らされる声音にウッとなる。

「菓子は午前の分食っただろうが!」

周りには食べこぼした菓子のクズが落ちていた。
上手く掃除したと思っていたが、思っていた時間より早く帰宅した男に焦りおざなりになって発覚してしまう。

「だってぇ、今日はアップルパイだったから……待ちきれなくてぇえ」

萎んでいく語尾。
凄く反省しているものの、我が理性が働かなかったのであのときに戻ったとしても食べるなと思えない。
手が勝手に理性を突き抜けて伸ばした。
すっごく美味しかった。

「謝るから許して」

「お前の体重が増えるだけだから好きにしろ」

そんな、一週間前に二キロ増えたというのに。
運動不足とは分かっていても足は動いてくれない。
羽があるので運動という程のことをしないのだ。

「うう、でも食べた〜い」

「太ったらハムにしてロープで縛ってやるよ」

憎悪2000%の瞳を向けられグッとなる。
仕方あるまい、こうなったら自分は頑張っているアピールをするしかない。
働くとか動くとかが滅茶苦茶億劫なのに、男の為に動くだなんて。
あのとき拾った子はとてもすくすく育った。
そして、予想を遥かに越えて逞しく煩い姑様と成ってしまった。
シクシク。
涙に濡れる顔を上げて彼――ローは男の子だったのだが、もう長い関係を過ごしているので彼の移行を無視出来ない。
彼の存在はまさに衣食住全てだ。

「がんばるわー、走ってくるうう」

「へェ、そりゃ期待しないで待ってる」

彼は素っ気なく出ていくと成果を見る事もなくあっという間だ。
酷いな〜絶対やらないと思っている。
でも100メートル走るんだから運動した証明になるし、彼も良く頑張ったとご褒美にパイでも焼いておいてくれないかねえ。
甘い想像を描いてすたこらすたこらと100メートルまで走りきった。
久々過ぎて太股が痙攣している。
もう当分外へ出たくない。
森の中で動きたくない必殺、体育座りを慣行。
ジメッとしてはいないが麗らかな陽気がズバッと差し込んでいて、己と身を焼き尽くすような眩しい星を恨む。
これではごりごりと体力が回復しないままなくなっていく。
HPが日照り効果によってなくなっていく。
引きこもりには天敵なのだ。

「おいこのバカ。お前はなんでそう後先考えねェ」

青筋を浮かべてローエモンが迎えにきてくれた。
リーシャくんは大喜びで背中にだっこをせがむ。

「一人で歩け」

羽が有るだろうと言われたが、それさえも億劫なのだ、分かって欲しい。
羽で帰る気があるのならとっくに使用していた。


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