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「#エロ」のBL小説を読む
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エンドレスな話


服屋でバイトをしている異世界のトリップを経て、ここにちくちく針をぬっている女こと自分。
異世界トリップとはなんだろうと真相心理に問いかけ、ここへ飛ばした見えない存在へ大声にして訴えたい。
お願いだから飛ばす人の年齢を考えて欲しい。
瑞々しい若者である男女ならともかく、ファンタジーにもノベルを読む程度しかしたことがない自身を選ぶ意味。
おかげで仕事にありつくのも大変だった。
へこへこと頭を下げて必死についたのがこの職。
身分証明のなにかしらを用意してから異世界へせめて送ってこいとなけなしの罵倒。
ちくちくと縫っているリーシャ達とは違い、楽しくお喋りしてサボる若い子達の声を聞いて、潤っていきますなんてことはなく、サボってんじゃないよと悪態をつく。
この子達よりも給料が少ないなんて本当に嫌になる。
今頃、己は気の合う誰かと酒盛りして土日を楽しんでいるだろう向こうの世界に馳せ、ちくちくちくちく。
この世界の服装は基本的に地味という言葉に限る。
地味で目立つことはなく、遊び心もない。
そういう人達は都会のなんちゃらなんちゃらとかいうお金持ちの道楽にデザインをかいてはお金持ちのお遊びとなっているに違いないな。
こんな島に道楽で服を買う人も居ないし、提案したところで着る人も居なく、需要もない。
クサクサした気分でいつものように慣れてはいないけど、コンベアーのように同じことをずーっとした。

――ガッシャーン

唐突に耳へガラスみたいな割れる音が。
お喋りに興じていたメスシカ達も声を出すのを止めて、向こう側へと続く客に売る服が展示されている部屋を見る。
扉越しなのでここから見ているだけならば見えるわけもなく、無機質な扉を凝視して女らはなんなのだと疑問を仲間内で消化していた。
そんなに気になるのなら見に行けば良いのにと再び針を動かす。

「ね、ねぇ、あんた見に行きなさいよ」

「お断りします」

ばっかじゃねぇの。
自分よりも年下の癖に偉そうなのは、リーシャが新人であるからだ。
だが、それは仕事内の話であって、今回はどうやら勘ではあるが、仕事から遠くの位置にある出来事みたいな気がするので一刀両断。

「な!新人が私らの意向に逆らうの?」

「貴女が新人という言葉通り、私は針仕事では新人で、この中では新人ですね。でも、今の音と、仕事になんの関係があるのか分かりません。内容確認、のち、報告、そして、なにか私の身に起きた場合、貴女は治療費などを負担してくれるということでないと、外にはいけませんよ。先輩」

現代でもアウトなのに言うこと聞くわけないだろ、低知能が。
倫理観底辺な女達の言葉なんて同じ生命として恥ずかしさすらあるぞ。

――キィ

展示されている部屋と繋がっている部屋の扉が開いて、顔面打撲を確実に負っている男、すなわちこの服屋のオーナーが顔を出す。
その形相と怪我に御針子達は大きく悲鳴を上げた。
リーシャも流石に針の手を止める。

「お、おお!お前達」

オーナーは光を見つけた愚か者のように眼を輝かせる。
比喩だけど、嫌な予感がする。

「ユ、ユースタス様!お詫びとしてこの中から好きな娘達を持っていって下さい!も、勿論!お金などいりませんで」

え、嘘、とんでもないこと言ってるけどこいつ。

「お前の従業員はお前のものではないだろ」

清涼感のある声、ドスのきいた声。

「もう一発入れとくか」

「ひ、ひぃ!?」

オーナーがこちらの部屋に完全に足を踏み入れ、逃げる姿を晒す。
なにが、誰が来てるんだ。
オーナーがこっちへ来たせいで店へ来た人が部屋へ姿を表した。
イメージは赤、メタルバンドとかごうめん、凶悪、という文字すら浮かぶ。

「あ」

思い出した、最近話題となっている島の権力者になった男の話。
この島は平和だけど、平和じゃないときには防衛が甘くて地味にひどい目に合う。
独立している島だから裏の人間とかの住みかにされやすい。
それと、オーナーが逃げているのを考えて、こりゃ、就職先を探さないとなと直ぐに切り替わる。
のしのしとやってくる大男に女らは恐怖のあまり声が出ないらしい。
でも、異世界トリップというこの世のものではない経験をしたリーシャにとってはもうなにが起きても不思議ではないという思考があり、こういうこともいずれ起こるだろうという程度しかうっすらと思えない。
このオーナー、多分怒らせることをしたんだろうな。

「きっちり罰は受けて貰うぜ」

凶悪な顔でいい終えた男は自分を含めた女達を見て、ふと上を向き、次いで入ってきた男に声をかけた。

「キラー、今住んでいる屋敷は広いから掃除が大変だっつってたよな?こいつらまとめて引き取れば解決するよな」

その台詞に女らの肩が跳ねて、震えて、顔は真っ白。
ねぐらに連れてかれるんだもんね。

「確かに人手は欲しいが、本人達の意思も確認しなくては」

「どうせ今日でこの店はなくなんだろ。別に良いだろうが」

「逃げられても意味がない」

「へー。んじゃ、契約書書かせろ」

「無理矢理だと面倒な事が多いんだがな」

キラーと呼ばれた仮面の男はスッと指を上に向けて唱えると、紙が何枚かヒラヒラと舞う。
魔法か、見てはいたが興味なかったしな。
町娘としてなんの事件もなく生涯を過ごしたかったのだから、当然のことだ。
仮面はその紙を持ち、こちらへひゅう、と飛ばして紙を目の前に浮かばせる。
紙が浮いたまま読めば、そこには条件が。
先ずは3ヶ月働き、良いと思えば更新して、ダメならば更新はなしで解雇となる。
条件の下に払われる金額も書いてある。
そして、重要なのは身の安全を保証するという記入だ。

「男達の古城など、嫌だろうがおれが守る。だが、そちらから仕掛けた場合はそうとならない」

仮面らからの言葉に女達は手をソッと紙につける。
この用紙は働くときにもしたけど、サインとかは簡単だ。
リーシャもその場で手を翳す。
職場が変わるだけだしと、ぼんやり思う。
この世界で職が変わったとして大きな変化ではない。
世界事態が変わったことに比べれば。
契約書にサインがされ、その文字が足首にまとわりつく。

「うし。帰るぞ」

「明日、迎えに行くからここで待機していてくれ」

仮面らは去っていく。
赤い男は満足そうにしていた。
彼らが居なくなると皆泣いた。
これからのことで不安がいっぱいなんだろう。
贅沢だな。
生まれた世界に居続けられるだけで、幸せなのにね。


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