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いざ戦わん


此処は、とある戦国という時代。
今、自分は武器の薙刀を手に立っている。
この城のトップだった殿的な人物はリーシャを囮にして誰よりも早く逃げた。
リーシャが逃げられないのは逃げ道の道を岩で防がれて逃げに逃げられないからだ。
ムカつく。
自分は所謂末の姫という地位なのだが、母がド平民で気紛れに身分の高い男に手を出されて生まれたから実質平民のような扱いだ。
侍女が居ない、傍付きも居ない、誰も居ないから全部何事にも自分でした。
所謂独り立ちタイプになったからこんな状況でもちょっとはものを考えられる。
しかし、あのヘタレ殿にはほとほと呆れた。
我先に逃げるまではまあ良い。
その後がもう始末に負えない経緯で、逃げる直前に「お前は残って囮になれ。それか足止めしとけよ」的な事を言ったのだ。
言っておくがリーシャは女であり、別に武将の娘でも誰かから武器の手解きを願って訓練した事もない。
薙刀程度は木刀で素振りの練習をちょろっと体力作りにも満たない事をやったことのある娘である。
貴族だから大々的に運動できる事もなく、普通に腕力も平均並。
なのに、囮になって敵を止めろとか、死ねと遠回しに命令された。
嫌だと言ったのにわざわざロープで縛って柱から片腕を繋がれてしまいどちらにせよ逃げられない。
こんな囮、最早囮でもない。
足止めになるわけもない。
言ったら言ったで「なら色仕掛けでもしろよ女だしなひんにゅー 」とか言われた。
次あったらあんにゃろーぶっころしてやる。
もういっそ敵国に寝返ってやる。

「色仕掛けで?無理だって!」

寝返る前に刀でグサリが落ちだ。
でも、あの男とその取り巻き達は地獄に引きずり込んでやる。

「どうしよう取り敢えず」

ううーんと唸っていると入り口の扉が盛大に横ではなく縦に開いて、いや外れたと言うべきか。
バターンという音と共に砂埃が舞う。
ヤバい敵がここまで来てしまった。
目に焼き付いた光景は真っ赤な出で立ちをした印象深い色。
ここまで真っ赤なんて珍しい。
獅子のような印象で、食らい付かれそうな眼光に色んな意味で身を震わせた。

「…………女?………ちっ、逃げたか」

逃げという呟きにあの殿の事かと推測しながら最後の光景を深々と落ち着いて見ていた。
落ちつているのは表情だけで心の中は罵倒暴言ばかりである。
男は武将のような出で立ちをしていることから敵国の武将だろうと観察。

「おい、なぜロープで繋がれてる?」

「馬鹿な城のトップに囮にされた結末です」

寝返ろうと思ったものの、迫力に気圧されて唇は違う事を言う。
言えよ、言葉っ。

「囮だァ?繋がれた女に何が出来るんだよ…………」

男もことのちぐはぐさに呆れた声音を乗せる。
くの一でも密偵でもない小娘に何が出来ようか。

「色仕掛けで時間稼ぎをしろと言われました。あ、隠し扉はあそこですからどーぞっ」

挙句、行かせようとしている。
生き延びるには他人を上げるのが良いと見を持って知ったから構わない。
駆逐されろやろー共め。

「私の代わりにぎったんぎったんにして貼付けにしてやって下さいませ」

殿に対する忠誠心なんてこの世に生まれ落ちてからも全く芽生えなかった。
置かれた環境のせいとも言うし、底辺に押し込んだと思ったら使い捨て。
どこに敬う要素があるのやら。
俯いて赤い眼から視線を外す。
なんかさっきから凄ーく見られている。
脇腹がざわざわとこしょばくなるのを我慢。
ロープに縛られていてどうにも動かせない。
そう意識すると背中が痒くなって身を動かすが着ている布が分厚いせいで全く効果はない。
うにょうにょと身悶えしていると相手は殿を追わずに「何をしてるんだ」と怪訝そうに問うてくる。

「背中が痒くて………ぐうううう」

それよりも追わないのかと言うと既に忍びが追って確保している頃だと簡単に言われて、本当に捨て駒な結末だった事に悔しくなる。
色々考えつつも背中の痒みをどうにかしようとしていると、ロープの縛りであった圧が途端になくなる。

「あ、あの?何故、じ、自由に?」

戸惑いの声音へ向かう先は今居る男。
ロープを切ったのは腰に差していた刃だ。
短く鋭いその輝きは業物であろうと分かる。

「いや、何となく。それに、その気迫、気に入った」

「え、え!?」

どうしよう、今顔絶対真っ赤だ。
さっきまで肝だろうと何だろうと引っこ抜いて精魂叩き潰してやると活き巻いていたのに、気持ちが違う意味で高揚していく。
嗚呼、この気持ちは何というのか。
今まで男に対してどうとも思わなかったのに、この時になって女の部分か過敏となるのを感じた。

(格好いい…………素敵っ!)

惚れた。
こんな自分を気に入ったと言ってくれたその懐の器の広さに。
いや、もう止まらないくらい心臓が酷く激しく鳴っている。
ドキドキして今正に自分の中に乙女が誕生したようであった。
高鳴ったままな胸を押さえて名前を問う。
いや、その前にこちらから名乗らねば失礼だ。

「可笑しな所を見せてしまいお恥ずかしい限りです。私の名はリーシャと申します。貴方の、お名前をお窺いしても?」

「嗚呼。俺はキッドだ(いきなり雰囲気が変化したか?)」

キッドは急激な受ける視線の質が変わった事を不思議に思いつつも応える。
しかし、怪訝な空気に幸か不幸か気付き慌てて咳払いをして場の雰囲気を整えた。
乙女故に盲目になりそうでならなかった。
乙女は盲目であり、空気に敏感だ。
特に恋愛の相手には常に情報は大切であろう。
キッドと名前を小さく転がす。

(わ、名前言っちゃった!!恥ずかしい!むず痒いよお!悶えたい。寝床でもんどり打ちます!)

キャーキャー、と内心顔をフリフリと回して外見はキリッとしておく。
内面を出してしまうと絶対に引かれるから出せる訳もない。
内心既に近くに居るだけでその汗と花の香りに失神寸前だ。
花の香り。
それに気が付き顔がピシッと固まる。
花の香りや木の香りは女が匂いとして炊いて付けるもの。
つまりは、キッドには女で香りが移るくらい近い、親しい女が居るという他に無い。
内心心が石化し、外面は笑みを浮かべる。
心の中はブリザードで、必死に暴れる嫉妬心を隠す。
初対面でありながら勝手に好きになって勝手に悶えて勝手に、という物全てを知られたくない。
身勝手な気持ちを知られたくないし嫌われたくないのだ。

「私の身はどうなるのでしょうか?」

モジモジしたくなるのを我慢してキッドに訊ねる。

「それも確かにそうだな。あー………………戦利品?」

シビアだが、正論だし間違っていない。
ロープで縛られていたし、助けられたし、人だし。

「戦利品はどうなるのですか?処分、でしょうか?」

敵国の姫だ。
血は絶やせと言われていても可笑しくない。

「俺が貰ってやる。まァ安心しろ」

勘違いするから。
言い方気を付けて、言い方。
ダメだ、気をしっかり持て自分。
今まで一人で生きてきただろうに。
恋などで破滅なんてダメだ、笑えない。
キッドを見据えて息をゆるりと吐くと目を合わせる。
背の差で見上げたまま言葉を紡ぐ。

「不束者ですが、宜しく願いします」

「……………嗚呼。宜しくな」

少し間が空いてもしかして宜しくされたくないのかもしれないと脳裏を過ぎ、内心落ち込む。
こっちだと腕を引かれて城から出ると城の一部が炎上しているのに気付く。

その場所に何があるかに数分して思い至り、腰から抜けそうになった。
あそこは囮に使われた場所で先程まで居た箇所。
何故か不自然にそこだけ激しく燃えている。
キッドが陰から報告を聞いたのかこちらへ寄越してくる。

「どうやら敵、お前の城の兵がーーの野郎に指示されて焼いたと証言が取れた」

ーーの野郎のーーの部分には囮に成れと述べた殿の名前。

焼き殺そうとしたのだ、敵と共に。
そこまで落ちたかと失望と頭のどこかに諦めはあったので別段凄く驚く事はなかった。
ただただ愚か者だと憐れむだけ。
逃げて、そこまでして逃げたのに結局は捕まったのだから。
同情もしない。

殺そうとした人に気を遣う事はしない。
直ぐにとは思えないがもう忘れよう。
キッドに付いていってこちらがどのような扱いになるのか待つ。

それしかもう身の上はないのだ。
生きるも死ぬも彼らの匙加減。
キッドの居る城に登城し移り住む事二週間、何とか生活も基盤に乗り出し、もし許されるのなら何処かに働きたいと彼に願おう。
彼は武将という立場であるが故に戦いがない時は暇だと言って良く与えられた部屋に来てくれる。
そこで話すのは他愛無いこと。
何も考えなくても話せるのはとても気が楽だ。

母親は平民なので普通に市民の下町にいるらしいが、見たこともない。

今更あっても向こうも望んでない娘だから余計なことになる。

必ずついていくと、俄然燃えた。


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