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悩ましげなカモミール


リーシャがふんわりと香るカモミールの紅茶を前に俯いているのには理由があった。



「飲め」



それは、相席に座る真っ赤な男による出来事。
出会いらしい出会いなんて皆無で。
ヤケになって傘も持たずに雨の中を歩いていた時に会っただけ。
たまたま木の下に彼が赤い傘を持って立っていた。
ガタイの良い身体だとか、強そうだとか。
色々頭に考えが浮かんだ。
相手は、最初リーシャには目もくれなかった。
自分には関係ない人間だとでも思っていたのだろう。



「熱いのは飲めねェのか」

「いえ」



怒った様子はなく気遣かっている空気を感じ、恐る恐る紅茶のカップに手を寄せた。
持ち上げると湯気の揺らめく温かい温度を感じ、ゆっくりと口を付けて飲んだ。
ごくり。
一口飲むとカモミールがとても美味しく感じた。



「あの」

「あ゙?」



返事はとても機嫌が悪いとしか思えなかった。



「紅茶、ありがとう、ございます……タオルも」



雨の中を引っ張られて連れて来られたのは明らかに海賊船だった。
もちろん怖いと感じたが、どうにでもなれと無謀な思考に走る自分がいた。



「そんなことか」



そんなことでも、嬉しかったのは事実。
でも、男は本当にどうでもよさそうな顔をしていた。
海賊ですか?なんて聞くのは野望だと思ったので聞く事はない。



「……何も聞かないんですね」

「どうでもいいからな」



確かに彼にとってリーシャの事は関係ない。
それが今は楽だった。



「私、家に帰ります」

「飲み終わってからにしろ」



席を立ちかけた時、赤い男が唐突に言ってきたので座り直した。
やはり飲まなければ失礼だろうか。
ただ紅茶を飲んで、彼は無言で自分も無言。
何を思って船に連れてきてカモミールを出したのかは分からない。
けれど、明日は雨の中を走る事はないと予感めいたものを感じた。
もしかしたら、ずっとかもしれない。






(あの時の力強い手に世界は広いのだと悟った)


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