三姉妹(前編)
美女な長女、平凡な次女、ほんわか美少女三女。
三姉妹は村に来たという余所者であるが、そんなものを感じさせぬ程オーラに満ちていた。
この三姉妹、秘密で溢れている。
例えば、この三姉妹は本当の血の繋がった姉妹ではないとか。
実は次女は魔法使いとか。
更なる秘密は、次女の召喚した使い魔が二人の姉妹だとか。
使い魔と知れて別に構わないと思うが、ある程度身動きが取れるように姉妹として生活している。
最近困っているのが、貴族が長女をお気に召してしまったことだ。
簡単に言ってしまえば使い魔である。
純粋な人族ではない上に、本当の姿ではない。
人型であるとこの地で動きやすいというだけの理由で変装している。
だから、結婚など物理的に無理である。
貴族の結婚は容易くはね除けられる。
ちょっと夜逃げすれば良い。
困っているのは、魔法使いの次女が村で変な立ち位置に立たされているからだ。
とある日、友人の魔法使いが家にやってきたので招き入れた。
「あら、ローじゃないの」
美女と名高い長女が出迎える。
「よォ」
ローは使い魔二人を連れて部屋へ入る。
ペンギンとシャチは人型になっているので村に入るのもすんなりである。
ペンギンの登場に長女は嬉しそうにはにかむ。
「おれを差し置いて恋愛ドラマすんじゃねェ」
ペンギンにローの蹴りが炸裂する。
「酷い言い掛かりだ」
ペンギンは涙目で反論。
「リーシャは今留守よ」
「何しに行ってる」
ローは用のある人間が居なかった事で不機嫌になる。
「この村の人達に薬を売りに言ってるの。薄情な人達なんて見殺しにしておけば良いのに」
長女は猫を被り美しすぎて心まで綺麗だと言われている真逆な事を述べる。
村は排他的故に長女と三女がプロポーズをしてもハイと言わないのは次女を可愛がっていて、次女が結婚しないからではないか、という検討違いな事を噂し、次女をのけ者にしているのだ。
薬という村にとって貴重な人材だから完全に無視とはならず、空気で排除しようとしている。
八つ当たりだ。
「そうね、お姉さまは村人なんて捨てて、私達と逃げれば良いのよ。ふふ」
天使と言わしめ、全てを欲しいままにしている三女が紅茶ポットを持ってきて会話に参加する。
こちらも猫をかぶり真逆の思考を垂れ流している。
「お前ら怖いな相変わらず」
シャチがそう言いながらも三女に熱い視線を送る。
それにローは素早く反応しシャチが座った椅子を真上から蹴り上げてシャチを椅子から浮かせる。
お尻が悲惨な事になっているだろう。
「痛い!」
「おれよりも先に甘い空気漂わしてんじゃねェ」
「理不尽っ」
涙目である。
「あーら、ローってばあの子が居ないからオコなのかしら?」
「ネットスラング使ってんじゃねェ、世界観壊れるだろうが」
「良いじゃない。この村面白いのよ?私達をまるで所有物と思ってるの」
何かあれば会いに来て、何かあれば頼ってくる。
好意を持って住んでいるのではないのに、都合の良いときには声をかけるのだ。
リーシャは流れるように薬を売るが、彼らが邪険にした場合売ってもらえなくなるとは考えないのだろうか。
バかなのであろう。
姉妹はこの村に住む必要もなく、用がなければとっくにおさらばしている。
「確か、魔石の採掘可能な所が近くにあるんだったよな」
「ええ。まだ少しかかると言われたわ。こんな辺鄙で何もない、人さえも辺鄙な所なんてさっさと離れたいわ」
長女に三女が賛同する。
三人分のお茶が入れられて出される。
「そーよね、人が優しかったのならあと何年か住んでも良さそうなのに、本当、嫌になるわ」
ロー達は出された紅茶と缶に入っていたが皿に出したクッキーを摘まむ。
サクサクと音を立てて二人の不満を聞く。
女のお喋りには口を出してはいけないと本能的に察している。
「たーだいまー」
呑気な声音に二人の女は喜びに染まる。
「まぁ!クソ村人達にはもう売ってきたの?」
長女は更に言葉を悪化させて問う。
「クソ村人………」
シャチは哀愁を漂わせる。
顔は最高なのにな。
「お姉さま!お客様が来ておりますわ」
三女がフォローするが、もっと違う場所をですね、とペンギンも内心思う。
お姉さまと呼ばれているリーシャは魔石の採取をメインに薬を売るのはあくまでサブとしてやっている。
村人がどんな態度で買おうと別に気にならない。
魔石を採ったら薬など売らなくなる。
それどころか、村から出ていく。
薬を売っているのは村人が必要でお小遣い感覚になるかな、というもので始めたのだ。
村人が嫌そうに買っているのなら逆に売らなくなる事は喜ばれるのではないか。
そう思考を漂わせつつ、客に目を向ける。
「ローと二人、わざわざここまで良く来ようと思ったわね」
歓迎するが、ここまで来ようと思ったその根性に苦笑する。
ここは特に何もない村だ。
最近は三姉妹が有名になりつつあるからその顔を見ようとやってくる観光客が居るくらい。
でも、姉妹は一日中外へ出ているわけではなく、寧ろ中で過ごす事が多い。
しかし、何を勘違いしているのか、村長が貴族が来た時に三姉妹のうちの二人に接客するように頼みに来るようになった。
それが、鬱陶しいなと思い始めた。
「そろそろ魔石も結構取ったし、出ていこうかと考えていたの」
「フフッ、そりゃ都合が良い」
ローは村人がリーシャを除け者にしようとしているという話を聞いたばかりで、どうやって村人を苦しめてやろうかと考えていたので、やる手間が省けそうだ。
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