01
運命、それ則ち逃れられないもの。
嗚呼、嘆く悲しむ。
そんな事をしても無駄だとわかっていても思わずにはいられない。
だが、運命を運命と気付かない事もある。
じゃあ、一度や二度くらい自発的に思ってみようではないか。
そうだとも、案外悪くない運命かもしれないだろう?
「何かしらこれ……ポエム?」
「違うよ先生」
声変わりなんて程遠い声を主張する目の前の子供が一生懸命説明仕出す。
「僕のパパが読みなさいってくれた本に書いてた文字だよ」
「書いてたの?そう……」
トラファルガーの性を持つ幼い子供の父親は確か――。
「ケイタ」
「あ、ロー!」
「馬鹿野郎、呼び捨てにするなって何度言えばわかる……」
不意に声がして振り返ると黒髪か藍色かの違いはわからない年若い男性が立っていた。
この人は今しがたポエムちっくな紙をリーシャに見せてきたトラファルガー・ケイタの父親であるトラファルガー・ロー。
彼は小学生の子供もほぼ毎日迎えに来ている。
その姿は容姿端麗で噂の的だ。
ケイタがローに抱き着くのを見ていれば自然にお礼を言われた。
「こいつを見ていて下さってありがとうございます」
「いえ、私は特にする事がなかったので」
リーシャはこの『グランドライン小学校』の音楽の授業を受け持つ教諭だ。
担任ではないのだが、ケイタはよく音楽室に遊びに来るのでローもここまで迎えに来る。
「ケイタ、礼しろ」
「ありがとー先生」
「どういたしまして。気をつけて帰って下さいねトラファルガーさん」
「はい、そうします」
フッと笑みを見せたローに人知れず心臓が揺れる。
整った顔つきは私でさえ見惚れてしまう。
トラファルガー親子が去った音楽室でくたりとピアノの椅子に座る。
「はぁ……本当に素敵な人ね」
憧れるような優しさと男らしさ。
[ back ] bkm