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隣人が変わりました


朝起きたら、お隣りの名のしれたお金持ちだったキラキラした宝石を指にゴテゴテと付けていた髭を生やした四十代の男の人が住んでいた豪邸がなくなっていた。

「ななななんで〜!!?」

代わりに『ハート診療所』とかかれた建物が出来ていた。
確かに二日前まで在ったのだ。
今私は朝起きた時に突き指をしてしまい、病院に行こうかと家を出たことでお隣りさんが変わったことに気づいた。

「診療所ってことは、病院だよね……」

ちょうどよかったといえばよかった。
私はそれならと入口へと向かう。
ウィーンと自動ドアが開くと私は絶句してしまった。

「あ、お客様一号だ!」

「え?」

受付と書かれた窓口があり、そこから声が聞こえたと思ったら――。

「くくく熊っ!?」

「熊ですいません」

「えっ!」

シロクマがいて、でも喋っていておまけに打たれ弱かった。
私が困惑していれば「どうしたんだー?」と気の抜けた声と共にキャスケット帽子を被った男性が出てきた。

「お、初めて客が来たな!おいベポ、早く受付けしろよ」

「うん……こちらへどうぞ!」

「は、はい……」

催促されたシロクマ、ベポさんが私を呼んだので窓口に行くと記入する紙を渡される。
簡単な質問しかなかったから私はすぐにベポさんに渡した。



「あれ……?もしかして隣に住んでる?」

「はい……真隣です」

「マジか!じゃあサービスしなくちゃな!」

「え、べ、別に……」

「さァこっちこっち!」

とキャスケット帽子の人に背中を押され半ば強制的に私は連れて行かれる。

(強引……!)

やけにテンションが高い人だな……。
なんて思っている間に連れて来られたのは診療室らしき場所。

「ロー先生ー、初めての患者ですよ!」

さっきもシロクマのベポさんが言っていたが、私はどうやらこの診療所の一人目らしい。


キャスケット帽子の人が「じゃあ中へどうぞ!」と私を押すと必然的に部屋へと入れられてしまった。

「よく来たな」

なんて普通の医者は言わないような言葉遣いに驚きながら椅子を見る。

(わ……綺麗な人……)

その人の第一印象はそれだった。
他の言葉を使うなら『かっこいい』だ。
色んな思考を巡らせていればその人は「座れ」の一言。
やっぱりいきなりの言葉遣いに私は変わっていると感じた。

「それでどこが悪いんだ?」

「え、えっと……突き指をしました……」

つい、と指を出せばそのお医者さんは私の手を取って軽く左右に腕を回す。

「軽い突き指だ。包帯と指に沿える棒を付ける」

「わかりました……」

私が答えるとお医者さんはガサゴソと治療道具を出し私の指に包帯を巻き付け始めた。

「あの……」

「なんだ」

私はここへ来る前からずっと聞きたかった事をこの人に聞く。

「少し前までこの診療所ってまだなかったですよね……?」

そう。私はそればかりが疑問だった。

「フフ……そりゃあ昨日出来たばかりだからなァ」

「はぁ……昨日です――昨日っ!?」

無意識に納得しかけたが私はその言葉に度肝を抜く。

「昨日って……前に住んでいた家は……?」

「あァ、あの豪邸か……もちろんどいてもらった」

「ど、どうやって……」

「ククッ……企業秘密だ」

と言ってニヤリと笑う顔に悟る。世の中には知らない方が幸せなこともあるということだろう。

「あ、ありがとうございました」

お礼を言い椅子から立とうとすれば突き指をしていない手を取られた。

「え……?」

「もう少しゆっくりしていけよ」

と私の指をスルスルとお医者さんが撫でる。

「っ……!」

その手つきがなんともなまめかしいのはけして私の勘違いではない。

「ちょ、は、離してくださ……い」

「フフ……やっぱり、治療代はいらねェ」

「はい……?」


おかしな事を言うお医者さん。



「俺はトラファルガー・ロー。呼び捨てで構わねェ」

「は、はぁ……」



突然自己紹介だなんて、もしかして私行く病院間違えたかな、と今更ながら感じているとスッと頬に男性特有のゴツゴツとした手。
そして気づいた時には唇に熱を感じた。



(キス……されて、る?)



そう感じた時にはすでにその医者はニヤリと笑い「確かにお代はもらったからな」とカルテに書き込んでいた。



「な、なななな……!」



ただ何も考えられなくて私は口元を抑えながら診療室から飛び出した。



***



「あ、お代はいらないよ〜」

「え」



飛び出したが、まだ診察代を払ってないと思い先程の白クマベポくんへいくらか聞けば今の言葉が返ってきた。



「キャプテンがもうもらってるからだって」

「もらって……あ!」



そこで私は先程のローと言う男性の言葉を思い出す。



「あと、包帯取り替えるから明日も来てね」

「それも先生が?」

「うん!」



ベポくんのニコニコ付きの笑顔で私はキュンと胸をときめかされながら「わかりました」と本当は凄く嫌だけど了解した。


「あ、先生の診察終わったか?」

「は、はい……」



私を診察室に押し込んだキャスケット帽子の人が来た。



「どうだった?うちの先生腕がよかっただろ」

「………まぁ」



悔しいけれど確かに手際が凄くよかった。
私が躊躇しながら返事をするとキャスケット帽子の人が握手を求めてきた。



「俺はシャチ。この診療所の看護師だ」

「俺はベポ。受け付け係だよ」

「よろしく、です……」



ロー先生と同じく本当はこの診療所と関わりを持ちたくないが、私はお隣りという宿命を受け入れるしかなかった。


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