「俺がどうして片腕だけになったか、って?」
俺の言葉に興味津々で頷くアイリーンさん。
うーん・・・別にこれといって特別な理由もないんだけどなー。
少なくとも目の前にいるこの犯罪大国の王女さまを満足させるような面白おかしい理由もない。
「面白くもなんともないよ?」
「別に構わないわ、ただそんなに綺麗さっぱり腕を消す方法を知りたいだけなの」
普通になりたいと言っている彼女がそんな腕を消す方法を知ってどうするのか気になる事ではあるが
わざわざ突っ込むことでもないか。
「これは俺のすっげー仲の良い友達の妹に食われた。」
俺の台詞にポカンとした表情のアイリーンさん。
「食われた?道具を使ったわけじゃなく?」
「うむ、というか友達の妹は道具を使うのが壊滅的に下手クソだったし、むしろ自力でやったからこそ
この綺麗な断面だった。」
「ちょっと、どんな化物よその友達の妹は」
きっと、今アイリーンちゃんの仲ではおおよそ人間とは思えないゴリラのような物を想像しているのだろう。
そのくらい見た目で危険だと分かるような人間だったらよかったのになー・・・。
「ちなみにそのときの年齢は15歳で身長は今の俺よりずっと小さかったからな?」
俺の言葉にもっと化物じみたじゃない・・・と愚痴をこぼすアイリーンちゃん。
「で、なんだって友達の妹に腕なんて食われる状況になったわけ?」
「友達の妹曰く『おそろいじゃないと、可哀相でしょ?』らしいけど、俺には分からん
あと、俺の腕を食ったのと同じ日に友達の腕も一緒に食われたからおそろいってのはそのことだと思うけどな。」
残念なことに詳しい事を聞く前に、彼女は自分の兄にバットで殴られて気絶してしまったが。
「その友達の妹、バイオレンス過ぎるわよ・・・・。」
「だよなー、今は病院に入ってるけどまたいつ現れるかと冷や冷やしてるよ。」
ふーん、さっきから色々突っ込んで来た割に全く信じて居なさそうな様子のアイリーンちゃん。
今度は俺の腕に興味を示した。
「ほんとーに、綺麗さっぱり無くなってるわねー。」
何の遠慮も無く俺の義手を外して、断面を触ってくるアイリーンちゃん。
どうやら俺は男として意識されていないようなので、結構遠慮なしで触られる。
なので・・・・・。
「アイリーンちゃん、くすぐったい、ヤメテ。」
俺が結構必死に堪えているのを見て、むしろどんどん触ってくるアイリーンちゃん。
「ふーん、火都って腕が弱いの?」
ツツーと指でなぞられる。
「ッ!!」
腕が弱いというか、あまり触られ慣れていないんです。
しかも触っているのは、美少女、そうゴッツイ男でも怖いオネーさんでもなく
普通に美人な女の子。
そりゃあ・・・・・ねぇ?俺だって思春期な男の子だし。
ちょっとアレな声が出てもしょうがないと思う。
俺が声を出さないように我慢しているのを全く気にせず、さらにアイリーンちゃんは触りまくる。
ベタベタという感じではなく、こうサワサワみたいな、痴漢みたいな触り方だ。
「いや、あのアイリーンちゃんっ?マジでくすぐったいって。」
「ちょっと、動かないで!さっきみたいにいい声出しなさいよっ」
どこの男前ですか、アンタは。
妙に男らしい台詞を吐いたアイリーンちゃんはいつに無く輝いて見えた。
どうにも、アイリーンちゃんとの会話を見られていたらしい。
アイリーンちゃんの魔の手からなんとか逃げ出してきた俺はなんとカーティス=ナイルさんに
呼び止められていた。
「腕を出しなさい。」
それは新手のカツアゲですか。
「はい?」
「いいから、出しなさい。」
どうにも逆らえないオーラ。
もちろん無言で出しましたとも。
ガシッ、ポイッ、ヒュー、ドスッ、「あ”〜〜〜!?」
出した瞬間問答無用とばかりに右腕を投げ飛ばされた、最後のは俺の悲鳴だ。
勿論、右腕が無くなった俺の腕はもう何も無い。
どうしよう、あれないと不便ではないけど借り物だし返さなくちゃなんだよなー。
なんとかしてあの腕の所に行く方法は無いものかと考えていると
「えッ・・・・・」
右腕に違和感。
慌てて見ると、ナイルさんが触っていた。
「なるほど・・・確かに完璧になくなっている・・・・・」
本日二度目、まさか一日に二度もその台詞を聞く事になろうとは。
「あ・・・・・っの、ナイルさん?」
妙にいやらしい手つきで触ってくるナイルさん、わざとか、わざとなのか。
はっ!もしかしてさっきのアイリーンちゃんとの会話を聞いていて、俺に嫉妬してるのか!?
でも、ナイルさんが・・・・?いやナイルさんだって人の子だ、好きな女の子が男の腕を触ってたら
嫉妬するに違いない。
(いやー、ナイルさんも結構可愛いところあるじゃん。)
「なんだか、凄く不愉快な誤解を受けた気がします。」
ナイルさんに凄く睨まれた。
しかも睨みながらも、俺の腕を触りまくっている。
(しかし残念でしたね!ナイルさん、さっきアイリーンちゃんに触られまくったおかげで、もう慣れてしまいましたよ!)
もちろん、こんなの声にだしてなん言えない、何せナイルさんは怖いから下手に調子に乗った事を言うと
殺されそうだ。
俺があまりいいリアクションを見せなくなったのに気が付いたのか不満げな表情のナイルさん。
「つまらないですね・・・・。」
そのまま俺の腕を離したと思ったら・・・・。
「!!!」
舐 め ら れ た
もちろんナイルさんの舌で。
「ぎゃー!あのナイルさん!?」
女の子だったらまだしも、ナイルさんに舐められるとか恐怖しか感じない。
・・・・いや女の子はそもそも人の腕を舐めない!
「なんですか?」
いや、普通におかしいですって!
「あんたはアレですか!?人のことを舐めるの大好きなんですか!?」
ふと、昔アイリーンちゃんに愚痴られたのを思い出した。
たしか、砂漠を歩いていたら暑さで可笑しくなったナイルさんに頬を舐められたらしい
そうか!今日は暑いからナイルさん可笑しくなったのか!
「ナイルさん、とりあえず日陰に行きましょう。」
「僕は別に暑さで可笑しくなったわけでばないですよ、だいたい今は夜で暑くはないでしょう。」
何故だか俺の考えは筒抜けらしい。
「・・・・・・・・・・・・・塩味」
「いや、感想は求めてないっす・・・。」
という夢をみた。
「新年早々の初夢がこれって・・・・・」
俺の願望なのか?アイリーンちゃんとの会話はともかく、ナイルさんとのあの腕を舐められるのを俺は望んでいるのか!?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ないな。」
とりあえず、寝直した。
おやすみなさい。