卒業式、なんてなければいいのに。

周りの奴らは興味なさそうに欠伸をしたり、知ってる先輩が授与されるときだけ顔をあげたり、まともに見てる奴なんて、いない。いないのに、やっぱり俺は見てしまう。真田副部長、柳生先輩、仁王先輩、丸井先輩、幸村部長、柳先輩、ジャッカル先輩。皆、前だけを向いてる。仁王先輩も丸井先輩もこの日だけはいつもはだらしない服装をちゃんとして、丸井先輩に至っては涙ぐんでる。真田副部長も、涙声。
ただ、上の高校に行くだけなのに。何で卒業式なんてあるんだよ。いらないのに。いらないのに。ズッと鼻を啜ると、隣の奴が不思議そうに覗き込んでギョッとした。悪いかよ。泣きそうじゃ、悪いのかよ。そいつはからかうでもなく、ただスッと前を見た。

「在校生、送辞。」

俺は送辞で前に出るんじゃなくて、ただ卒業生に贈る合唱を歌うだけ。それも、涙で上手く歌えない。一番後ろのクラスで良かった。先輩達に見られないで、良かった。見られたら、からかわれちまうから。座るときは音を立てるなとリハでも先生たちに言われたのに涙でよく見えなくて、ガタンと音が鳴ってしまった。

「切原、外出たら?」

ソッと隣の奴はすすめてきたけど、俺は首を横に振った。最後まで、見たい。

「卒業生、答辞。」

柳先輩に、ピンクのリボンで飾られたマイクは似合わないと思う。何だか、俺には理解できない内容の話を言っている柳先輩に少し笑った。

「卒業生、退場。A組起立。」

少し涙目になってる真田先輩と、よく分からない柳生先輩。グッと堪えた涙が止まらなくなって、俯いた。拍手をしなきゃいけないのに、必死になってそれもできない。

気づいて、くれねえかな。

けど、二人は前だけ見てて俺になんて見向きもしない。体育館の扉から出ていく真田副部長の背中に余計寂しくなって、涙がボロボロ出てきた。拍手の大きい音の中で埋もれるように俺の嗚咽が混じった。周りの奴も最初は不思議そうな顔をしたのに一年間一緒に過ごしたクラスの奴は、もらい泣きっつーので自然と一緒に嗚咽を漏らした。隣の奴が覗き込んだとき、ソイツも少し涙ぐんでて、ソイツはポンポンと背中を叩いてくれた。こういうとき、いつも叩いてくれたのは柳先輩だったのに。もう、いなくなる。

「B組、退場。」

ネクタイをキッチリ締めた仁王先輩と、ガムを噛んでない丸井先輩。やっぱりこの人達も気づいてくれなくて、またその背中に寂しくなる。たった一年、されど一年。一年違うだけで、先輩達は早く大きくなって強くなる。俺を追い越して俺の先を行って、折角隣に並べたと思ったらすぐに先に行って。結局隣になんて並べない。

「C組、退場。」

幸村部長。部長には、泣き顔を見られたくなくって俯いてたら不意に頭をクシャリと撫でられた。

「…馬鹿だなあ」

ハッとして気づいたときには、もう幸村部長は体育館から出てってた。本当に呆れた顔をしてたのかもしれない。こんなので王者が泣くなとかそんなの。でも、部長は多分笑ってた。全国決勝のときみたいな、あの泣きながら笑ったような、そんな顔。だって部長だって涙声だった。
幸村部長は気づいてくれた。けどきっと、他の先輩たちだって気づいてたんだ。俺が早く先輩たちの隣に並べるように、先に歩いてくれてんだ。そのあとでていった柳先輩も、俺のほうは見向きもしないで背中を真っすぐ伸ばして出ていった。ジャッカル先輩は少しだけ苦笑いをして、そのままやっぱり声をかけたりしないででていった。

先輩、先輩。来年は俺がちゃんと全国一位になって、先輩の隣に胸を張って並べるようにします。だから、早く追いつくようにするから



信じててくださいね。先輩たち。











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