「やっべ」

ガタガタっと、廊下に響く音が笑い声で掻き消される。休み時間だから、そんなものだろうと思いながらも、今の声に聞き覚えがある気がして誰だったかなと頭を捻った。


「うっわコンパス忘れたんじゃけど!」

「へっ、ざまあ!今日、数学で使うのによぃ」


ああ。仁王と丸井か。こんな話し方は個性の強いテニス部でもこの二人くらいだっけ。そういえばテニス部くらいだ。話し方で分かるの。ああ、ジャッカルは案外普通に混じれるかもね。ファイヤーとかなしにしたら。


「やっべ。ちょ、誰かコンパス持っとらん?丸井」
「持ってるけど、俺も使うし」
「えー!ちょ、誰かコンパス二個持っとる奴おらんの?」

移動教室から戻ってる俺が3Bの前を通ったら余計聞こえやすくなった。何でコンパスとも思ったけれど、なるほど。さっき数学で使うって言ってたな。どうやら忘れたみたいだ。隣の友達がブッと吹き出したのを見て、仁王と友達っていうか仲間ってのが一瞬恥ずかしくなった。わざわざ大声で言うな仁王。恥ずかしい。そもそもコンパス二個も普段から持ってる奴いないだろと思いながら、教室に入ると同じ瞬間ら辺に仁王が廊下に出たのか、廊下に声が響いた。笑い声にも勝つ大声とか本当ナメてる。俺、肺活量増やせって部活で言ったっけ?なんかそれ系鍛えろって言ったっけ?腹筋背筋腕筋足筋くらいしか言ってねえよ。筋トレ増やそっかな。

「やーぎゅー!ちょ、おまんコンパス持っとらん?」

今度は3Aまで行ったらしい。3Bから丸井とその他の人達の笑い声が3Cまで届いた。なにやら話しているのか、仁王の声が聞こえなくなってひとまずホッとすると、大声がウリの真田の怒声が前触れなく聞こえて、前の席の人達が背中をビクッと揺らした。本当ゴメン。アイツら、本当加減っての知らないよね。本当ゴメン。教科書でバリアを作りながら謝っておいた。


「におおおおおお!忘れ物を人に借りるなど言語道断!たるんどる!」

「真田くん落ち着いてください!」

「幸村あああああああ!コンパスううううう!コンパス貸しとくれええええええ!」

ちょ待てよ仁王。こっちくんのか。クラスメートのほとんどが一気に可哀相な奴を見る目でこちらを見ていた。「やーっべえ!」と今度は、静かになってた丸井の大声が聞こえ、それから沢山の足音。

「幸村!コンパス貸してくれんか?!」
「幸村くん!俺も忘れてたっぽい!」
「仁王丸井ー!たるんどる!」

ギャイギャイと騒ぐ奴らは扉の前で騒ぐからとんだ迷惑だ。たるんどるじゃねえよ真田。迷惑がられてる空気読めよオマエ。ミシッと持ってたシャーペンが音を立てたので、イライラをなくすために口を開いた。教科書のバリアなんてとっくに倒れたからね。いいよ。とでも言うかと思ったのか、丸井と仁王が目を輝かせたがそんな訳無い。


「ねえ、オマエら?」

「な、なんじゃ?!」
「アハハ。邪ー魔っ!」











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