多分、君の事が好きか。と聞かれたら、きっと私はNOと答えるだろう。だからと言って、では嫌いなのか。と問われれば、私はまたNOと答えるだろう。だって私は、彼の事が嫌いではないし、寧ろ好きな方だ。とにかく曖昧なのだ。私達の関係は。



「なあ、俺達はさ」



彼は最近お気に入りだというケーキショップの、人気メニューのショートケーキにフォークを刺して、口に運んだ。それすらもかっこいいはずの彼の動きに動じない私は、やはりどこかおかしいのだろうか。



『なあに?丸井君。』



そう呼べば、彼は整っている顔を歪ませて、私を見る。どうやら彼は私に苗字で呼ばれる事を嫌っているらしいことを、クラスメイトの仁王君から聞いた。だけど、基本的に苗字に君付けがポリシーの私にそう言われても困ることこの上ない。それでも返事をしてくれる当たり、やはり彼は優しいのだろう。



「このケーキ、甘いだろぃ?」
『ああ、そうだね。凄く甘そう。』



客観的に物を言う私にはちゃんと意味がある。なぜなら、私は彼のフォークの先にあるショートケーキを食べた事がないし、今食べているのは、チーズケーキ。
甘いかどうかなんて知るはずもないのだ。これがただの前座であることは分かっているのだが、早く言ってほしい。他に何かあるんでしょ?そう聞かない私に私は彼との距離を再確認した。



「なあ…」
『…何?さっきから。ハッキリ言いなよ。』
「俺、頑張ってるよな…?」
『…うん』



彼は頑張って頑張って、今レギュラーの位置を獲得してる。誰も文句を言えない程の努力を彼はしてきた。それは辛かったはず、だ。
勿論、才能だって手伝っただろう。だけど彼の努力は誰もが認めている、のに。彼は何を言っているのだろう。



「俺…っ、俺…負けた。」



驚いた。いつも笑顔、それが私が彼に対して持った印象だったのに。今の彼は、泣きそうだ。ただのクラスメイトの私に、何を言ってるのか、そんなこと考えられなかった。



「…っ、なんでだよぃ…っ」
『丸井君』
「負けたく…っ、なかった…」
『丸井君』
「名前っ…、俺…、間違ってたのか…っ。天才なんて言って…っ」
『丸井君っ!』



何故か、何故か、私は声を荒立ててしまった。今までこんなに感情的になったことはないのに。丸井君がただのクラスメイト、に相談してきた時点で気づいてた。



「…なあ、俺、お前が好きなんだよぃ…っ。傍にいてくれよぃ…っ」



彼はただ寂しかった。傍にいる人を求めるだけに、私に手を伸ばしてきたんだ。
ほら、ほら。突き放すことは簡単、なのに。



『丸井君の、傍にいてあげる。』



ただ突き放すことができなかっただけ。独りよがりな偽善が、彼の笑顔を取り戻させて、それに満足するなんて。そんなのただの自己満足だった。
チーズケーキを一口含めば、ほんのり香ったレモンが口の中を支配した。





それは自己満足の為の嘘で


(偽善だなんて認めない)(ちゃんと彼の事を思ってる)(想いとは違う思いで)


それは自己満足のための嘘で
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