「何?今帰ったの?」

「うん。」



洗面所から出てきた私と、帰ってきたお父さんはちょうど玄関で鉢合わせした。
タオルで手を吹くのを忘れて、手を振って自然乾燥させてる私にお父さんは顔をしかめた。



「飛んでるから、汚い。」

「いいじゃん。エコだもん。」

「拭け。」

「やだ。面倒だもん。」



ムッと顔をしかめて先に歩けば、靴を脱いだお父さんがついてきた。早足なのに、コンパスの長いお父さんにはすぐに追いつかれる。ずるい。
そういうとこは誰に似たんだか…というお父さんに、お母さんって答えると苦笑いされた。

リビングに入るとお母さんがお父さんに向かって、お帰りと声をかける。
いい匂いがしてきて、何となく今日はポテトだなあと理解した。
床に寝転がって携帯を開くと目の前に足。



「ぎゃぁああ!お父さんの足がー!くさ!」

「ちょ、オマ。ふざけんなよ。お父さんの足はフローラルなの。」

「お父さん植物愛ですぎてて、最早匂いが毒草だよ。」

「毎日洗濯してるから。」

「加齢臭?」



首を傾げると、お父さんからのげんこつ。
テニスをやってるお父さんの腕は無駄に筋肉ついてるから、力加減されてもすっごい痛い。
ソファに座ったお父さんはリモコンを持って、番組表を見はじめた。



「ねえ。今、見てたのに。」

「え?ああ、ごめん。」



それでも番組表から戻ることをしないお父さんは、おっとりしてるくせして自己中だ。



「そういえば、今日なんで帰り遅かったの?」

「遊んでたら遅くなっちゃった!怒らないでね。」

「あんまり遅くまで遊ぶなよ。彼氏…?」

「別に関係ないじゃん。」

「え!彼氏?」

「ちーがーう!ってか、おばあちゃんも言ってたよ。お父さんだってよく夜中まで遊んでたって」

「お父さんは男だからいいの。オマエは女だろう?」



彼氏じゃないと言うだけで、少しだけ雰囲気が和らいだお父さんにホッとする。
お父さんは怒ると怖い。
一回本気で説教されたときは、たった数分慣れてるはずの正座をしただけだったのに足の感覚がなくなった。
お父さんのテニスの技でイップスっていう五感を奪うのがあると真田くんのお父さんが言ってたけど、あれもイップスだったんじゃないかなあ。
私生活でも感覚奪えるって怖い。



「女だけで遊んだわけじゃないもん。」

「………え?男?」

「も、いた。」

「…彼氏?」

「だから違うって言ったじゃん!しつこいな!友達!」

「男の?」

「そう!」

「誰?」



誰って言われたって、そこはプライバシー保護ってやつじゃないかなあ。
別にいいじゃん。って言ったら、また誰?って聞かれた。これはイップスフラグだ。



「丸っちと切原くん。」

「女の子は?」

「いたよ?におちゃん。」

「はあ…仁王は育て方が甘いから……。」

「は?におちゃんいい子だしナメんな。」



そこでお母さんのご飯!って声がかかって、お父さんはさっさと席についた。
私も携帯を閉じて充電器をさしておいて、テーブルに向かった。
やっぱりポテトだ。当たったことが嬉しいと思いながら、箸を持つと満面の笑みを浮かべたお父さんが手を合わせてた。



「キモ!」

「うん。とりあえず丸井親子と切原親子と仁王には遠隔イップスに挑戦してみるね。いただきまーす!」

「こわ!お父さん超こわ!」



次の日学校に行くと、丸っちと切原くんが机に顔を伏せてた。聞くと、昨日小一時間ほどいきなり体の感覚がなくなったらしい。
におちゃんは少し心配そうに「あたしのお父も昨日あんな感じだったんだよね」と言っていた。
まさかのまさかで遠隔イップスとやらが成功したようだ。やっぱりお父さんは怒らせないようにしよう。
実にくだらないお父さんの理不尽な怒りで、標的になった人達には申し訳ないけどお父さん本気でくだらない。






想が尽きる







彼と私は家族ですさまに提出させていただきました!




愛想が尽きる
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