「できると思っているの……? 苦しみを、分かち合うなんて」
胸の奥からしぼりだすような声は、小さく震えていたけれど、有無を言わせない力があった。
「できると思っているから、あなたは強いのね」
ロビンは手首を拘束していたナミの手を、やさしくほどく。
「でも、あなたに私から、私の苦しみを奪う権利があるの?」
ぐらり、と自分が立っている土台から、揺らいだ気がした。
「私のかなしみを、奪う権利があるの?」
ロビンはまっすぐにナミをまなざしている。
「私のいたみは……私のものなのに」
目を逸らしてしまったのは、ナミだった。
そう。
確かにそう。
分かち合い生きていけることが、ただしいことだと思っていたけれど。
でも、その苦しみやかなしみこそが、ぎりぎりのところでそのひとを生かしているのだとしたら。
誰にもそのいたみを奪う権利はない。
「きついことを言ってしまってごめんなさい。でも、私は……」
ロビンはそこまで言うと、空を仰いだ。
月は明るく、ふたりの抱えてきたかなしみとも苦しみとも無関係に、ふたりを照らしだしている。
「もう、寝た方がいいわ」
ロビンは再び、体を海に向けた。
その瞳の中に、もうナミはいない。
「でも、月も海も星も、何も答えはくれないんだよ、ロビン」
もう、無理やりこちらを振り向かせようとは思わない。
けれど、ロビンが消えていかないように、つなぎとめることぐらいは許してほしい。
ロビンはこちらに視線を向けないけれど、いつだってナミの言葉に耳を傾けてくれているのはわかるから、どうか届いてと言葉を続ける。
言われて気づいた。
奪う気なんてなかった。
ただ、寄り添いたかっただけ。
そのかなしみに。
その、いたみに。
「あなたなら、答えてくれるとでも?」
ロビンは唇の片端をくっと上げ、ゆがんだ笑みを浮かべて言った。
それは自嘲に近かったかもしれない。
「答えることはできないけど、探す場所なら知ってる」
ナミがそう言うと、試すように、挑むように、ロビンは目を細めて笑った。
「それは、どこなのかしら?」
「……ここ」
とん、とロビンの心臓を指差したナミを、月が嗤った気がした。