それ以来、ロビンにナミの『特別』であるところの蜜柑をあげても、必ず皮を剥いて返される。
このままじゃいけないとふたつ持っていったら、ロビンはひとつめの剥かれた蜜柑をナミが食べ終えるのを待って、ふたつめの蜜柑をひとつめの蜜柑と同じ丁寧さで剥いて、差し出してきた。
あしらわれている。
そう思う。
ロビンはナミの想いに気づいている。
元犯罪組織の副社長兼考古学者である、知的かつ聡明で世渡り上手なこのおねーさんが、自分でもその隠しきれなさになかば呆れるこの想いに気づかぬわけがない。
そもそも、最初に蜜柑を手渡した時に限らず、酒やら何やらの勢いを借りて、この想いを告げてしまおうと試みたことも一度や二度じゃない。
けれどロビンは、そのたびにするりとかわすのだ。
おとなのおねーさんであるところのロビンは、かなうはずのないナミの恋心を知って、クルーとしての距離を守るためにそうしているのだと考えて、あきらめようとしたこともあった。
しかしそうしてロビンと距離を置こうとすると、今度はロビンの方から近づいてくる。
無用なスキンシップ。
船のどこにいても交差する視線。
ふたりきりの部屋の中の、いつもより饒舌な夜。
そうすると、もしかしてロビンも自分に想いを向けてくれているからさみしくなったんじゃないかという期待とか、やっぱりあきらめきれない感情とか、そういうなんとか鎮めようとしていた恋の炎がまためらめらとナミの中に燃え上がりはじめてしまう。
そうしてこらえきれなくなったナミが動き出すと、ロビンはまた、逃げの一手。
あんたいったいどうしたいのよ。
この愛情を受け取る気もないくせに、愛されている確信だけがほしいなんて、そんなワガママがいつまでも通じると思ってるわけ?
そんなロビンの子どもじみた一面に、果たしてナミは呆れたか。
呆れてるし、イラついてるし、バカにしないでと怒ってもいるけれど、何より呆れるのは、それでもまだロビンをあきらめきれない自分自身だ。
恋する『好き』の重さが減って、『嫌い』の重みが増えればいいのに、それどころか最近では、ロビンにそうしてこの想いをかわされることにさえ、こころのどこかがふるえる始末。
ほんとうに、救いようがない。
けれどそろそろ、そんなゲームは終わりにしたい。
ロビンの腕に抱かれずに、ロビンの隣で眠るのは、眠れぬ夜を招くだけ。
もともとナミは、それほど我慢強い方ではない。
ほしいものは、ほしいのだ。
だから今日こそ。
今日こそは。
ナミは熟れた蜜柑の実をひとつ、もぎとる。
あまくてすっぱい、そんな覚えたての初恋のような恋など、求めてはいない。
差し出された蜜柑を口に含んでくちづけたなら、ゲームは終わりをつげるだろうか。
苦しいだけの、恋ならいらない。
ほしい刺激はスパイス程度。
味わうほどに、芳醇かつ濃厚な。
深くとけあう愛をちょーだい。