「もういい、遊星なんて嫌い!別れる!!」


ヒステリックにそう言い放った私を目の前の遊星はただ黙って見ていた。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。原因はなんだったっけ?
きっと、そんな大したことじゃなかったはず。きっといつもと同じ。くだらない、些細なこと、嫉妬。
遊星は、とても優しい人。その優しさは勿論私だけに向けられたものではなくて、皆に平等で、だから私以外の女の子にも、私と同じように優しくして、それが気に入らなかった。
遊星は、私がどんなに酷いわがままを言っても、仕方ないな、ってなんだかんだでいつも許してくれる。子どものように甘えれば、困ったように、だけどその大きな手で優しく甘やかしてくれる。
最初はそれが嬉しかった。そうされる事が幸せだった。だけど、だんだん虚しくなった。その優しさが、私だけに向けられたものではないと知ったら、尚更。いつの間にか、私は遊星を試すようなわがままばかりを言うようになった。そして、思ったの。本当は、遊星、私のことどうでもいいんじゃないかって。好きなんかじゃ、ないんじゃないかって。そう思ったら、耐えられなくなって、爆発した。
優しい遊星が好き。だけど、優しい遊星が嫌い。
もしも、遊星が、本当に私を大切に想ってくれているのなら、好きでいてくれるのなら、こんな私の言葉なんて認めるはずがない。こんな感情的なわがまま、嘘だろ、って。馬鹿言うな、って、引きとめてくれると思ったのに。


「…わかった」


目の前の遊星は至極真面目な顔でただ一言そう言った。
『別れる』って、そう言いだしたのは、確かに私なのに、まさか、こんなあっさり受け入れられるなんて思いもしなかったから、どうしていいのか分からなくなってしまった。
なんで?なんでそんな簡単に、受け入れちゃうのよ。どうして、少しも縋ってこないのよ。やっぱり、私のことなんてどうでも良かったってこと?好きなんかじゃ、なかったってこと?
そう思ったら、なんだか無償に、悔しくて、悲しくて、気持ちがぐちゃぐちゃになって、涙が溢れた。
ああ、もう。なんで『別れる』なんて、馬鹿なことを言ってしまったのだろう。本心じゃないのに。別れたくなんてないのに。感情に走ってそんな馬鹿なことを言ってしまったばかりに、私、遊星とお別れしなくちゃならないじゃない。
大好きなのに。好きで、好きで、たまらないのに。


「なんで、お前が泣くんだ?」


みっともなく、ぼろぼろ涙を流す私を、困惑した様子で見つめる遊星が尋ねた。
なんで?そんなの、別れたくないからに決まってるじゃない。


「どうして、引きとめようとしないのよ!」


こんな風に遊星に言うのはおかしいとは分かっていながらも、言わずにはいられなかった。


「どうして、って…」
「遊星は、私と別れたいの?別れても平気なの?私のことなんか好きじゃないってこと?私の事どうでもいいから、すんなり受け入れちゃうわけ?」
「違う!」


矢継ぎ早に私が尋ねると、遊星は慌てたように、私の言葉を否定した。


「お前の事をどうでもいいなんて思ったこともない。もし、お前がそう考えているのなら、それは誤解だ」
「…それじゃあ、どうして、」
「俺はただ、お前の望みならなんだって、叶えてやりたくて…」


そう言いながら、遊星は俯いた。私はそんな遊星を見つめながら、次の言葉を待った。


「俺は、俺なりに、お前を大切に思ってる。別れたいなんて、考えたこともない。だけど、お前が俺と別れたいと思っているのなら、俺はお前の望みを優先してやりたい、と思う」


お前の事が、好きだから。そう、続けた遊星の声は、普段の遊星からは想像できないほど弱々しかった。


「…なに、それ」


私のことが好きだから、私の望みを叶えたいと思ったっていうの?自分は別れたくないって思っているのに。自分の感情は、気持ちは、後回しで、私の事を優先したって、そう言うの?
そんなの。


「そんなの、嬉しくないわよ…っ」


優しい遊星が好き。好きだからこそ、虚しかった。なんでも、わがままきいて欲しかったわけじゃない。私を叱ってくれて良かった。もっと、私が好きだって、私を大切に思ってるんだって、言葉で、態度で、示して欲しかったの。今、遊星が私に言ったように。
今、こうして、遊星の口から、遊星の声で、言葉で、遊星の気持ちを聞いて、気がついた。私、ちゃんと、ずっと、遊星に想われていたんだって。それなのに、疑って、決めつけて、試すようなことをして、感情的になって、きっと遊星を傷つけた。なんて、馬鹿なんだろうって。


「ごめんなさい…、遊星、ごめんね…っ」


小さい子供みたいに、大声でわんわん泣きながら、遊星に抱きついた。


「遊星が好きなの、大好きなの、だから、別れたいなんて、本当は思ってない!遊星、皆に優しいから、本当は私のこと好きじゃないんじゃないかって、勝手に思い込んで、だから、本当は遊星に引きとめて欲しかったの。でも、遊星、ちゃんと私のこと想ってくれてた。馬鹿なこと言ってごめんなさい…!」


ぎゅうぎゅう縋りつくように遊星に抱きついて、しゃくりあげながらそう言った私。すると、遊星はそんな私の頭を優しく撫でて、ほっとしたように、溜息をついた。遊星の胸に押しつけていた顔を上げて、遊星を見ると、遊星はとてもとても穏やかな、優しい表情で笑っていた。




君の望みならなんだって(130615~131003)




130615〜131003の間の拍手お礼でした。
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