「ねえ、君ぼくのこと好きでしょ?」


鉄道員の詰所でデスクワークをしていた私の所へ、突然やってきた私の憧れの上司であるサブウェイマスターのクダリさんは、これまた唐突にとんでもないことを言った。私は思わず作業の手を止めてクダリさんを凝視する。え?なんで知ってるの?


「突然何言ってんですか?」
「ううん、突然じゃないよ。ぼく、前から思ってた」
「…根拠は?」


必死に平静を装い尋ねる私に対して、自信満々にそう言いきるクダリさん。一体何を根拠に。もしかして、同僚の誰かが言っちゃったとか!?いやいや、でも、私このこと誰にも言ってないし、態度にも出してないはず。だって同じ職場で部署も同じで四六時中顔を合わせなくちゃいけないのに、もし私がクダリさん好きなことを知られたら仕事がやりにくいと思ってたからばれないように必死だったもの。
そもそも私クダリさんと一対一で話すことなんてあんまり無かったから、いざ話しかけられると無償に恥ずかしくて緊張しちゃってすごくそっけない態度ばっかりとってきたし、照れ隠しで生意気なことばっかり言ってし。だから、私の気持ちが知られるなんてありえない!
すると突然、内心大パニックに陥る私の手を、あろうことかクダリさんが掴んだ。ぎゃあ!


「根拠はねぇ、君のその赤い顔」


そう言ってにっこり天使の笑顔を浮かべるクダリさん。うう、眩し過ぎる!!思わず目を庇いたくなるほどの微笑みに耐えながら、私は掴まれた手を振りほどこうと躍起になった。だって手汗が…っ!というか、私、今顔赤いの!?


「顔、真っ赤だよ」


私の心の声が聞こえたかのようにそう続けたクダリさんを、私はついつい睨みつけてしまう。


「だ、誰のせいだと思ってんですか!?」
「え?ぼくのせいなの?」
「だってクダリさんが手、握ったりするから―っ、っていうか離して下さい!」
「えーやだ。離さない!」
「…っ(何それ可愛すぎる反則だろクダリさん!)」


すごい可愛く『やだ』とか『離さない』とか言われちゃって、動けなくなる私。ちくしょう完全に遊ばれてる気がする。クダリさん、どういう行動に女の子が弱いか、分かっていてやってるんだろうな。ほんともう小悪魔!あざとい!そう思うのに、クダリさんの術中にはまってしまっている自分が憎らしくてたまらない。


「ねえ、そんなにぼくのこと好き?」
「!寝言は寝て言え!」
「あれ?もしかしてぼく誘われてる?」
「〜っ!消え失せてしまえクダリさんめ!!」


恥ずかしさが極限に達した私はクダリさんが上司というのを忘れ、おまけに敬語も忘れて最早暴言としか思えないことを叫ぶと、渾身の力でクダリさんの手を振りほどき、詰所を飛び出した。ああもう!明日からどうしよう!!




上司は小悪魔(130412~)


130412〜130508の間の拍手お礼でした。
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