「神さーん、ケータイ鳴ってます。」
「うそ。電話かな?」
「いや、…メールっぽいすけど。」
「そっかー、了解ー。」
「神さん、もしかして彼女ですかー?」
「………」
「なーんちゃって、ジョーダン…」
「そうだよ。」





友達







朝、教室に神くんが居なかった。朝練かな?だってバスケ部だし。
だからあたしは先週の金曜日の時のようにサワと一緒におしゃべりしていたら、廊下の方からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。何だろ?気になって教室のドアまで移動すると、


「ななさん!!」
「あ、ノブくん。」


騒がしい足音の主は、たった今目の前に現れたノブくんのようだった。でも、随分と慌てているようだし、一体どうしたというのだろう。それに1年生のノブくんがわざわざ2年生の階まで来るなんて。


「おはよ。神くんならまだ来てないよ?」
「いや、じゃなくて!ななさん、お、落ち着いて下さい!!」
「うん、落ち着いてノブくん。」


おはようの挨拶も忘れて、興奮気味に話すノブくん。あたしは別に普通だって。落ち着かなきゃいけないのはノブくんの方だ。しかしノブくんは、そのあたしの言葉を聞いているのかいないのか。


「じ、じじ、」
「なに?セミの鳴きまね?」
「違いますよ!そうじゃなくて!!」
「だったら何―…」


なんかそろそろ正直呆れ気味というか、ノブくん大丈夫かなー、なんて心配になってきたあたしの両肩を、ノブくんの大きな手がガシ、と掴んだ。


「神さん、彼女いるって!」


…今、なんて?
言葉の衝撃のあまりの大きさに頭の中が一瞬真っ白になった。例えるなら、いきなり目の前でカメラでフラッシュ撮影されちゃったみたいな、そんな感じだった。


「…嘘だー…」


でもすぐあたしはそう言った。だって、先週、神くん彼女いないって言ってたもん。


「嘘じゃないっすよ!俺、確かに聞いたんですから!!」
「…いつ?」
「さっき」
「…神くん、から?」


あたしのその質問にノブくんは一度だけ頷いた。真っ白だった頭の中はそれで、段々霧が晴れるように、元に戻っていった。
ノブくんはこういう嘘を吐くような子じゃない。だから、本当。


「…ななさん…」


さっきまでの興奮気味の様子とは打って変わって窺うようなノブくんの声。その声になんとか応えようとすると、後ろから違う声がした。


「えっと、清田クン、だっけ?そろそろ教室戻んないと遅刻になっちゃうよ?」


サワだった。ノブくんはパッと教室の時計を見てから『やべ!!』とくるり、方向転換。バタバタと慌しく来た道を戻って行った。それを見届けて、サワが、


「…どうかした、なな?」


心配そうにそう言うから、あたしはサワに心配をかけまいと、


「ん、どうもしないよ。」


そう言った。言えた。けど、笑えなかった。ノブくんが帰ってすぐ、SHR開始ギリギリに神くんは来た。その時、あたしは自分の席でじっと座ってた。
神くんとは話さなかった。


ノブくんはあたしの気持ちを知る一人だった。サワとノブくんの二人が、あたしが神くんを好きだと知ってる人。ノブくんは神くんの部活の後輩だから、いろいろと協力もしてくれていた。
ノブくんと神くんはすごくすごく仲良しだった。だから、だからノブくんは知っていたのだろうか。神くんは、教えたのだろうか。彼女のこと。


それじゃ、あたしは?
仲良しのつもりだった。少なくとも、あたしは仲良しだと思ってた。神くんと1番仲良い女の子はあたしだって思ってた。
ただの思い上がり。
神くんにとっては、なんでもなかったんだ。全然特別とかじゃなくて、ただの友達。クラスメイト。それ以上でも以下でもない。
あたしは神くんにとって、ただの友達だった。



090217
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