授業中の初メールから、毎日あたしと神くんはメールのやり取りを続けていた。
なんていうことはない内容。学校で直接話せばいいようなこともメールしていた。部活で毎日遅くまで頑張って疲れているはずなのに、神くんはいつもメールを返してくれた。あたしはその優しさにとことん甘えていた。神くんとのメールが楽しくてたまらなかった。
だから、学校から帰ってしばらく、夜になって届く『部活終わったよ』メールが待ち遠しくて、あたしはいつも携帯と睨めっこしているのだ。





近距離メール






朝、起きて、顔を洗って、ご飯を食べて。歯を磨いたり、着替えたり、髪を整えたり、学校へ行く準備を完了させて、


「いってきます!」


家を出て、携帯を開く。歩きながらメールを打つ。『おはよう!今日もいい天気だね』って神くんに『おはよう』メールを送る。しばらく歩いていると、返信が届いた。


『おはよう
 天気良すぎて困るくらいだね。』


そのメールを見るだけで、朝から幸せ。




教室に入ると、すでに神くんは来ていた。神くんっていつも何時くらいに学校来てるんだろう。いっつもあたしより早い。おはよう、って声をかけたいけど、神くんの周りにはたくさん神くんの友達がいたから、なんとなく話しかけにくくて、あたしは机の横に鞄をかけてから仲良しのサワの所へ行った。


「サワ、おはよ!」
「お、なな。おはよー。」


中学の時から仲良しのサワ。”水沢”だから、”サワ”。サワは大人っぽくて、しっかりしてて、美人で、とても頼りになる自慢の友達だ。


「何、どうしたの?」
「え、なにが?」
「いつも神のトコ行くのに。」


『珍しいじゃん』とニヤニヤ、と表現するのがぴったりな笑顔でサワが言った。チラ、と神くんの方を見ると、彼は楽しげに友達と話している。あたしは拗ねたように唇を尖らせ、


「だって神くんの周り男子がいっぱいいるもん。」
「挨拶ぐらいしてくればいいのに。」
「えー…恥ずかしい…。」
「何を今更。」


呆れたような視線をあたしに送るサワ。今更、って言われても恥ずかしいものは恥ずかしい。神くんと一対一ならまだしも、他に誰か居るのに話しかけるなんて勇気、あたしにはなかった。まぁ、周りにいる人にもよるんだけど。
サワの席からじいっと神くんを見つめる。ああもう、今日もかっこいいな、ちくしょう!!


「…それにしても、ななってホントわかりやすいね。」
「え!なにが!?」
「いやいや。そんなに神好き?」
「うわ!サワ声大きいよ、しー!しー!!」
「ななの声のが大きいし。」


サワはあたしが神くんのことを好きなのを知っている。あたしのその気持ちを知っているのはサワの他にあと一人いるけれど、二人とも秘密は守ってくれるから大丈夫。


「あんなにわかりやすいのに、神もよく気づかないよね。」
「…あたし、そんなにわかりやすい?」
「うん。神と話してるとき表情違うもん。」
「嘘だ!」
「なんで。」


ヤバイな。今後は気をつけよう。なんて、反省していたら、サワが思いついたように爆弾発言。


「そういえば神って彼女いないの?」
「え、いるの!?」
「や、こっちが聞いてんだけど。」


『いたらなな困るでしょ?』って簡単に言ってのけるサワ。いやいや困るとかそんなレベルの話じゃないから!大事件です。
そういえば神くんとのメールでそんな話題になったこと無いな、なんて思い出した。神くん彼女居るのかな。そんなことを考えていたら教室に先生が入ってきて、SHRが始まった。


1限の授業が終わって、休み時間。次の授業は数学だからその準備をしていると、あたしの席の前に誰かが立った。顔を上げると、そこに居たのは神くん。神くんは席替えをしてから、休み時間になるとちょくちょくあたしの席まで来てくれる。そして正面の壇に座ったりして、あたしと話をしてくれるのだ。けれど今日は机の前に立ったまま。


「おはよう。」


先に声をかけたのは神くん。


「おはよ。どしたの?」


机の上に数学の教科書やノートを出して、あたしが挨拶に応えると、


「朝、吉村さん来なかったから。」
「だって神くんの周り人いっぱいいたから…」
「話しかけてくれればよかったのに。」


そうやって笑う。神くんが笑うから、期待しちゃうじゃない。他の子と比べて、あたしは特別なんじゃないか、って。
そんな時、ふと浮かび上がったのは、さっきサワが言っていたことだった。神くんに、今、彼女がいるのかいないのか。あたしは徐に携帯を取り出してメールを作った。


『神くんは、今、彼女いる?』


誤字脱字がないか一度確認して、送った。すると神くんの制服のポケットの中で携帯が震えた。それに気づいた神くんは携帯を取り出して、開いた。あたしの心臓はドキドキ緊張していた。窺うように神くんの顔を見る。瞬間、神くんの表情が固まった。それから視線を携帯からあたしに戻す神くん。その視線に戸惑うあたし。


「………。」


気まずい。と思っていたら教室に先生が入ってきて、生徒がバラバラと席に戻り始めた。神くんも同様に、自分の席に戻る。始業の挨拶をして、授業が始まった。


「じゃ、前の授業の続きー。」


そう言って先生が板書を始めた。
ブー、ブー。
まるでタイミングを合わせたかのように震えだすあたしの携帯。ポケットから取り出して開くと、


『いないよ。』


神くんからのメール。一言だけそうあって、あたしはホッと安心して息を吐き出したかったけど、堪えた。授業中だから。
でも、安心で何故かにやける顔はどうしても我慢できなくて、教科書で隠した。



090111
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -