海南大附属高校に入学してからしばらく。ようやく高校生活にも慣れてきたから、あたしは愛用しているカメラを片手に学校探検をしていた。校庭の桜が綺麗だったから写真を撮りたかった。 どうせなら校内いろいろ見て回ってみようと、そんな理由から始まった学校探検。校舎内はもちろん、中庭、裏庭、と次々に見ていたらあっという間に日が暮れていた。それどころか真っ暗で空には星が瞬いている。慌てて時計を見ると午後8時を過ぎたところだった。…ま、いっか。ここまで遅くなってしまったのならこの際何時になっても同じだ。 そう思って、うろうろしていると、ふと、明りのついている建物を見つけた。体育館。そういえば、まだ見てなかったっけ。ちょうどいいし、体育館を見てから帰ろう、とあたしは小走りに体育館へ向かった。 恋した背中 君の背中に恋をした ダム、ダム。 体育館の中から聞こえてくるボールの音。部活だろうか。そーっと中を覗いてみると、バスケットゴールの前に一人男の子がこちらに背を向けて立っていた。背の大きな男の子。 ダム、ダム。 ボールの音。男の子は持っていたボールを数回、バウンドさせて構えた。シン、と空気が張り詰める感じ。思わずあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。 ス、とボールを放つ。ボールは美しい弧を描き、吸い込まれるようにリングに収まった。素人目にも分かるような、シュートフォームの美しさ。その背中に目が釘付けになる。まるで時間が止まったみたいなその感覚はリングを抜けたボールが床にバウンドする音で現実に戻された。 すごい!すごい!あたしは感動して大きく拍手した。すると、背を向けていた男の子はパッとこちらに振り向いた。 「すごいすごい!すごいね、シュート!!」 興奮気味にあたしは言う。けれど、呆気にとられた男の子の顔を見て、すぐ我に返った。 「ご、ごめん、いきなり…。」 男の子の目が『何故ここにいるんだ』と訊いているようで、あたしは早口に『体育館、明りが見えたから気になって』とまるで悪戯が見つかって言い訳をする子供のように説明した。すると、男の子はニコ、と笑って、 「いいよ、別に。」 『そんなところにいないで、入ってきたら?』と続ける。あたしはその彼の言葉に素直に従うことにして体育館の中に入った。もちろん靴を脱いで。 男の子の近くまで来て、改めて驚いた。近くで見るとさらに大きい。思わずじぃっと見つめていると、視線に気づいたのか男の子があたしを見て、バチッ、と目が合ってしまった。 う、わ。目、くりくりしてるし、顔ちっちゃい!! 「カメラ好きなの?」 突然、そう尋ねてきた。彼の視線はあたしの手にあるカメラに向けられている。 「あ、うん。写真部だから。」 「写真部?ウチにそんな部活あったっけ?」 「ないよ。非公認。だから部員もあたしひとりだけ。」 「そうなんだ?」 彼はクスクスと笑いながら『面白いね。』と続けた。何か、あたし面白い事、言っただろうか。頭の中はハテナマークでいっぱいだったけれど、彼が笑っているから、とりあえずあたしも、えへへ、と笑ってみた。 「えっと…」 「俺、神宗一郎。1年。」 「あ、あたしも1年。吉村なな。」 はて、何と呼んでよいものか。あたしが考えていると、それを察してくれたのか彼は名前を教えてくれた。学年も。 「神くんはバスケ部なの?」 「うん、バスケ好きだからね。」 ドキ、ってした。何故なら、彼が笑ったから。バスケが好き、ってすごくすごく、良い笑顔で笑ったから。その笑顔がキラキラ眩しくて、とても、とても、ドキドキした。 今思えば、あたしは君に出会ったあの時から、君に、恋に落ちていたんだ。 081018 back |